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利確に失敗してしまった日本のエンターテイメントと成功した稀有な例について語る

突然だが、皆さんは「利確」という言葉をご存知だろうか?「利益確定」の略語で、トレードで得た利益を確定させた段階でその株を売却して利益を得ることであり、投資では「利食いと損切り」ともいう。
つまり、最初に買った株が値上がりしてピークを迎える時に実は売却して利益を得て次に向かうのが賢明な判断であり、ここでタイミングを逃してしまうと塩漬けになって損をしてしまうのだ。
これは決して株の話だけではなくエンターテイメント、つまり「芸能」と呼ばれる分野においても共通して言えることであり、例えばスーパー戦隊シリーズなんかはもう明らかにそのタイミングを逃してしまった。

4年ほど前にこちらの記事でここ数年のスーパー戦隊シリーズの売上がものすごく落ち込んでいるわけだが、私に言わせれば「何を今更」という話である。

ここから、戦隊の売上が下がった理由の予想は、エンタメが細分化したことによって個々のIPへの人気が過疎化。他のIPに比べて好む層が小さかった戦隊の需要が大幅に低下し、イベント等の子供と触れ合う機会が減少。認知度の低下に伴って訴求力も下がり、玩具の売上も落ちる負の循環に陥った。……といった感じだろうか。だいぶ無理やり感は否めないが。

言ってることは間違いではないが、一言で言ってしまえばスーパー戦隊シリーズは「利確」をきちんとしなかったから塩漬けになってひたすら延命した結果下がりに下がってこうなっただけのことだ。
そもそもこの鈴木パンナコッタと名乗る人のリサーチも分析も詰めが甘く、00年代以降は調べていてもそれ以前の玩具売上情報や業界の内外を含む事情に関しても十分に裏が取れておらず、明らかに主観的判断で物を言っている。
数字を扱うのであれば決して主観的判断ではなく客観的なデータ分析に基づいて話をせねばならないわけだが、スーパー戦隊シリーズに関しては残念ながら初期のシリーズの玩具売上がどれだけだったかはわからない
しかし、もう1つの人気の指標である視聴率に関しては「ゴレンジャー」〜「リュウソウジャー」までは判明しているため、そこまでの視聴率をグラフにしてみた。

スーパー戦隊シリーズの視聴率の推移

みてもらえれば分かるように『超獣戦隊ライブマン』を最後にスーパー戦隊シリーズの平均視聴率が10%超えをすることはなくなる、これはまあ致し方ないだろう。
『高速戦隊ターボレンジャー』で枠移動が行われたわけだし、しかも80年代後半に入るとビデオデッキが各家庭に徐々に普及するからリアルタイムで見ようとする人の数は自然と減っていく。
だからこそシリーズとしてはマンネリ打破のために色々な対策を考えるわけだが、奇跡的に持ち直したのはやはり日曜朝に移動してからの「ギンガマン」〜「ガオレンジャー」までが大きい
特に「ガオレンジャー」の8.8%は未だに破られていないし、「ギンガマン」の7.9%に関してもその後のシリーズでこれを抜いたのが「ガオ」以外にないことを考えると奇跡である。

私が以前から「スーパー戦隊シリーズは『未来戦隊タイムレンジャー』までで終わりにするべきだった」というのは何よりもこの分かりやすいほどの視聴率の低下に伴うシリーズの衰退を見れば一目瞭然だろう。
スーパー戦隊シリーズは実は何度か利確をしており、その最初のタイミングがやはり『電撃戦隊チェンジマン』であり、ここで曽田博久をはじめとする旧スタッフはここで思い切って世代交代を行った方がよかった
それをせずに「フラッシュマン」でまたもや当たりの数字を出してしまい、それを延々と続けた結果『高速戦隊ターボレンジャー』が枠移動と相まって視聴率がガクンと落ち込むことになる。
流石にこのままではまずいと判断したのか、鈴木Pは『鳥人戦隊ジェットマン』で次の10年を生き残るための手を打ち始めたわけだが、それもまた『忍者戦隊カクレンジャー』〜『激走戦隊カーレンジャー』で落ち込んだ。

しかし、ここで不幸中の幸いだったのはここで髙寺成紀がチーフプロデューサーに交代した時にスタッフの世代交代を行い一新したことであり、それが『電磁戦隊メガレンジャー』以降に大きな弾みをつけた。
その成果はしっかりと『星獣戦隊ギンガマン』という作品にて収穫され、その後やや落ち目ながらも『救急戦隊ゴーゴーファイブ』〜『百獣戦隊ガオレンジャー』まで続く。
映像作品のクオリティとしても、そして商品の売上や視聴率といった数字で見ても、間違いなくスーパー戦隊シリーズが利確をすべきタイミングはここだった。
ここで思い切ってスーパー戦隊シリーズを手放して新しい集団ヒーロー物を初めておけば目先は大損に見えてもなんとかなったであろうに、それを怠って結局は過去の戦隊の勝ちパターンばかりを延々と繰り返している。

その結果がどうなったかが00年代以降の緩やかな衰退、すなわち「頂点まで登ったらあとは下山するだけ」状態であり、それを私はリアルタイム当時に肌感でわかっていたからこそ「ガオ」が出た時「スーパー戦隊は終わった」と言ったのだ
まあこんなことを言うと「数字が下がったことと作品のクオリティに関係は無いはずだ!」と言い出す手合いがいるだろう、もちろん個人の感想としてはそれでいいし否定しない、別にどの作品が最高かなんて人それぞれの意見はあっていい。
しかし、そうは言ってもスーパー戦隊シリーズだって決して綺麗事で動いているわけではない立派なビジネスなのであり、年齢層の低い未就学児童をメインターゲットにしているとはいえ、必ずどこかで飽きてくるし体力もどんどん落ちていく。
だから鈴木パンナコッタが指摘するまでもなく、そもそも「ガオレンジャー」が終わった時点でスーパー戦隊シリーズはとっくに「終わった」のであり、明らかに利確を取りこぼして無理な延命をして塩漬けになってしまった。

これと同じで、同じ国民的スターでもSMAPと嵐で大きく違ったのはやはり解散・活動休止に至るまでの流れであり、SMAPはいつ解散するか?のゴールすら決めず、真相もよくわからないまま2016年をもって解散した。
リーダーの中居正広が自身の番組「金スマ」で滝沢秀明引退の会の時に「僕たちは。(句読点)を打つことができなかった」と幾分後悔と自虐を込めて語っているのだが、おそらくどのタイミングかで解散しておけばよかっただろう
私が思うにそのタイミングはやはり2003年の『世界に一つだけの花』が出た時であり、あそこから国立競技場のライブを行った2005年辺りまででSMAPの人気と知名度はピークに達し、そこからはその利益で食い繋いでいた印象だ。
だから、どこかのタイミングできちんとリーダーをはじめとしてメンバーが「いつ解散するのか?」をはっきり話し合っておけばよかったと思うし、逆にそれをしないままダラダラと続けたからああなってしまったのではないかと思う。

それとは逆できちんとした綺麗なピリオドを打ち、「利確」をきちんと取ることができたのは同じ国民的アイドルの嵐であり、突然の活動休止には私も虚を衝かれた感じだったが、あれは今思えばベストな判断だった。
そこに至る理由がたとえリーダー・大野智の個人的な理由だったとしても、間違いなくあのまま止まることを知らず嵐が活動をダラダラと延命し続けたらかつてのSMAPのようになっていたかもしれない。
また、彼らが休止を選んだタイミングが30代後半で、中でも大野智に至ってはもう40歳になろうかというタイミングだったので、おそらく40代に差し掛かってからどうするのかを先輩の背中も見ながら考えたのだろう
間違いなく嵐は『花より男子2』を皮切りにしたブレイクをきっかけにずっと伸び続けた稀有なグループだったが、どんな凄いグループでも一度頂点に立ってしまうとあとは下り坂になるものだ。

そこを嵐は見誤らなかったし、実際彼らは一度活動休止を選んだおかげで後輩グループが自由にのびのび活動できる環境もできて、中でも二宮和也はYouTubeチャンネルもテレビもきちんと成功させている。
これが今も嵐を続けていたらそうはなっていなかっただろうし、下手すればタイミングを見失ってガタがきていたかもしれないのだ、どんなに長期政権になってもアイドルはあくまでアイドルなのだから。

そう考えると、ガンダムシリーズも今再視聴中の『新機動戦記ガンダムW』を終えたタイミングで利確を行ってガンダムシリーズを終わりにしておけばよかったのに、無理矢理延命した結果が今の惨憺たる状況だ。
はっきり言って今一番売れてるアニメが『鬼滅の刃』と『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』な時点で業界に明らかに体力がないのはお察しである。
「鬼滅」は明らかにピークを過ぎてるし「ガンダムSEED」はもう20年以上も前の作品なのだから。
以前お話しした「王道の不在」も結局のところは「利確」をちゃんと然るべきタイミングで行わずに長々とやってきたせいと言うのは今の日本のエンターテイメントが直結している問題なのかもしれない。

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