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『新テニスの王子様』で逆転してきた越前リョーマと遠山金太郎の「越前南次郎」にまつわる関係性

今日はすこぶる調子が良いのか、いつも以上に文章を書きたい衝動が抑えられないので三本続けての連続投稿となる。
前回の感想を書いたときに冬野さんから「天衣無縫を失ったリョーマ」と「天衣無縫を得た金太郎」が対比になっているという面白い指摘をいただいた。
そしてまた、Yahooのリアルタイムで新テニの感想を検索していたら、とても面白い指摘をしていた方を見かけたのでぜひスクショで引用したい。

非常に面白い旧作主人公ズの逆転

これは非常に有効な指摘であり、確かに『新テニスの王子様』において実は「越前南次郎」を巡って越前リョーマと遠山金太郎、そして越前リョーガの関係性に大きな変化というか逆転現象が起きている
それは南次郎の嫡子として生まれ旧作では「南次郎の模倣(コピー)」というある種の鋳型にハマることで無双し続けた越前リョーマが「新テニ」においてはむしろ南次郎からどんどん遠退いているのだ。
そして逆にもう一人の南次郎の嫡子にしてリョーマの「陰」と言える越前リョーガと、本来は南次郎に全く関係ないはずの遠山金太郎が天衣無縫の極みを得ることでむしろ南次郎に近づいている
皮肉な話であるが、実は「新テニ」においては旧作だと絶対的正義にして善の象徴だった「天衣無縫」がバーゲンセールを起こして価値そのものに有り難みがなくなってしまった

今やリョーマだけではない天衣無縫ユーザーは世界を含めてゴロゴロいるような状況であり、思えば鬼先輩も手塚国光も遠山金太郎も話を追うごとにどんどん「サムライ南次郎」と化している
ドイツに至ってはQPのように「天衣無縫マスター=テニスの神」になるものまで現れ、これはすなわち「テニスの神=サムライ南次郎」に近づいていくことを意味するものだ。
そして日本で一番「サムライ南次郎=天衣無縫」に近づいているのは実は越前リョーマではなく遠山金太郎であり、3年後の金太郎のビジュアルが全盛期のサムライ南次郎に酷似している。

南次郎っぽくなる金太郎と南次郎から遠退いたリョーマ

逆にリョーマは「サムライ南次郎」っぽさが抜けて幸村や真田・不二のような「非天衣無縫ユーザー」のようなルックスになり、どんどん「南次郎」から遠退いているのだ。
不二はスペインチームを「七人のリョーマ」と言っていたが、不二の指す「リョーマ」とはすなわち「サムライ南次郎の模倣(コピー)」という意味であり、本当の意味での「越前リョーマ自身」ではない
つまりスペインチームがどういうチームなのかというと「サムライ南次郎予備軍」であり、リョーガがあれだけ南次郎の強さの秘密に固執しているのもそういうことではなかろうか。
要するに、本来はリョーマではなく金太郎とリョーガこそが一番「サムライ南次郎」に近いわけであって、それをおそらくリョーマは知った上で意図的にリョーガを「南次郎の模倣(コピー)」に仕立てているのだ。

そのリョーマ自身はじゃあどうなっているのかというと、実は「新テニ」に入ってからのリョーマは徳川と並んで阿修羅の神道、すなわち天衣無縫とは違うもう1つの仏教の修羅道へと足を踏み入れている
ここが大きな違いであり、リョーマはおそらくアメリカチームへの編入を果たし日本に帰ってきて光る打球を平等院親方にぶつけた時点で、実はもうすでに南次郎の模倣(コピー)から脱却しつつあった
フランス戦の王子とも天衣無縫を一切出すことなく真剣勝負で勝っており、そしてまた不二との再戦では天衣無縫を完全に光風によって攻略されていて、だから実はリョーマはこの時点で旧作のスタートラインに引き戻されている。
これは許斐先生が意図的に演出したことであり、不思議だったのが旧作では随所に仕込まれていたリョーマと南次郎の会話が劇中で一切描かれておらず、最新号でむしろ父親の言い分に反発していたことはその現れだ。

ということは、何となくだがこの決勝戦で1つ見えたのは、決勝戦のテーマは「南次郎=天衣無縫をいかにして超える=倒すのか?」であり、だから天衣無縫を使っては逆に負けるようにできている
実際、跡部様がS3で跡部次元を使ってロミフェルに勝てたのも、そして逆に天衣無縫2まで覚醒した金太郎が負けたのも、全ては「天衣無縫=南次郎の理屈に染まっているかいないか」で考えると納得できるだろう。
幸村が一球勝負で指摘していた「このままでは金太郎たちは負ける」というのもおそらくは天衣無縫の本質を理解し、手塚を通してそれを破ろうとしたことからそういうものが見えていたのである。
思えばドイツのS1で平等院親方が天衣無縫ではなく阿頼耶識という阿修羅の神道の最終形態を用いて世界最強のボルクに勝利を収めて突破口を切り開き、その先を徳川とリョーマに託したのもそういうことだ。

つまり新テニにおいては天衣無縫に取って代わるオリジナルのテニスを自ら編み出さない限りは先へ進めないというのが1つの課題というか試練として設けられているように感じる。
そしてリョーマもどんどんと南次郎・リョーガ・金太郎らから遠退いていき、むしろ跡部様・不二・幸村・真田などの「非天衣無縫ユーザー=非南次郎」側へと移行しているのが面白い。
思えばフランス戦でリョーマの光る打球が「希望」と定義されたのも、その時はリョーマ自身が日本代表にとっての「希望」という意味だからそう名付けられたのだと思っていた。
しかし、この決勝戦の展開を見るに、もう1つは「サムライ南次郎=天衣無縫を打破してその先の可能性を切り開く」という意味で非天衣無縫ユーザーたちにとっての「希望」でもあるということだろう。

そう考えると、どう足掻いてもS2はリョーガが負ける以外の選択肢が残されていないような気がするが、どうであろうか?
南次郎予備軍が揃っているスペインチームにおいてどんどんサムライ南次郎として純化しつつあるリョーガがそこに気づかないと、下手すれば逆にリョーマに喰われるぞ
今やリョーマは「お前ら天衣無縫なんて低い次元で争ってんの?くだらなくね?」と嘲笑っているようであり、なるほどこの逆転は今までにない表現だった。
許斐先生は旧作から一貫して「リョーマはよくある主人公のパターンにハマってほしくない」と言い続けてきたが、まさにこのコペルニクス的転回は衝撃である

手塚もこのままだとやっていることは結局南次郎側と大差ないので、この決勝でリョーマが南次郎超えとしてリョーガに勝ったらいよいよ危うくなってくるぞ。
幸村にさえギリギリ紙一重で勝ったのだから、S2で大化けするであろうリョーマの天衣無縫狩りを攻略するべくさらなる進化が求められるようになってくるだろう。
それは金太郎もリョーガも同じで、逆に言えばこれからは非天衣無縫ユーザーこそが日の目を見るような展開になってくるのかもしれない。

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