一年前からの「予感」
皆がそうであるように、
わたしにも昨年から胸騒ぎのようなものがありした。
それがなんなのかわからないまま、ただ急ぐことに集中しました。
昨年の父の日は、父が好きなお酒を酒蔵に予約して、何種類かまとめた希少なものを贈りました。
クリスマスのダークフルーツケーキは、
実家用になんと8本も焼きました。
うちのケーキ型は普通の大きさの2倍以上はあるもので、いちどにバターを一本使う食べごたえのあるものです。
前の年から洋酒に漬けたドライフルーツをたくさん入れて、父はもちろんですが、母も喜んでくれました。
今年のお彼岸にはとらやの羊羹を贈りました。
そして、
今年の父の日のプレゼントは、お金でした。
今までに父の日に現金は贈ったことがありませんでしたが、なぜか今年に限ってそうしたのです。
大金ではありませんが、うなぎでも食べて欲しいと思って贈ったものでした。
それが、父が入院する際に歯ブラシや身の回りのものを買い揃えるお金になったそうです。
あの急かされるような想いは、ここに繋がっていたのかと、宇宙に誘われるが如くわたしはずっと、こころの中で焦っていました。
食べ物ばかり贈ったのは、父は贅沢をしない人だったからです。
車は中古、スーツはヨーカドー、時計とライターだけちょっと良いものを使っていました。
わたしがまだ中学生の頃です。
当時、父が勤めていた会社がとても遠くて、
夕ご飯すらも数えるほどしか一緒に食べたことがありませんでした。
そんな父が上機嫌で、来客用のフルーツを盛り付ける器に氷を盛り上げて、マーガリンを乗せて、それをおつまみにしてウイスキーを飲んでいたことがありました。
当時流行っていたレーズンバターを真似てやったことだと思いますが、うちは田舎なのでそんな洒落たものはなく、冷蔵庫にあったマーガリンを氷に乗せたのだと思います。
ヘッダーの写真はいわゆる「正しい食べ方」です。
父はとても真面目な人ですが、厳格な人でもありました。
おそらくは、上司と銀座に飲みに行き、
そこで出されたレーズンバターのおつまみに手を出さなかったのではないかと、わたしはすぐに気がつきました。
レーズンバターのバターが本物かどうかは甚だ怪しいものですが、マーガリンだったとしても、レーズンが入っているかどうかで、全く違う代物になってしまいます。
当時はコンビニもありませんでしたから、
父は上機嫌で、ウイスキーとともにそれを食べていたのを思い出します。
父よ、貴方が食べたがっていたレーズンバターは、300円程度のものだった。
それを敢えて母には頼まず、自分でも買わず、
家族が毎朝使うマーガリンで幸せそうに笑っていた。
わたしにはとてもできないことです。
家庭の幸せは、ちょっとオシャレなレーズンバターを食べることではなく、思い出を紡いでいくことだと教えてくださいました。
でもね、
どうか最期くらいは、最高級のものを食べてください。
お願い致します。お願い致します。
娘より。