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98日目 23時から始めよう

午前2時に線路脇を歩いていると突然、鳴るはずのない踏切が鳴った。しとしとと雨が降り人気はない。背筋が凍る間もなく貨物列車が通過。なんだよ、貨物かよ。そもそも、私がなぜこんな時間に歩いていたかと言えば、尾道にある古本屋を訪ねたからである。その本屋は平日は23時から3時までしか開いていない。振り切った営業スタイルなのだ。

午前中はまだ島根の浜田にいた。只本屋島根浜田店のクラブメンバーさんが地元で準備している地域のスペースを見学に行った。クラブメンバーとは月額1000円で3ヶ月に1回フリーペーパーの詰め合わせを届けている会員さんのこと。現在6名いる。浜田市内の会社の事務所を改装して子どもや地域の方の拠り所を2月にオープンするという。私設図書館としても開きたいので、只本屋のフリーペーパーもぜひ一緒にとお誘いを受けた。

同じくクラブメンバーの浅見くんと合流して内覧するとすでにたくさんの本や漫画がぎっしり並べられていて驚いた。この場所のオーナーさんのお父さんは長らく浜田高校野球部の監督を務められていたこともあり、教え子のプロ野球選手のサイン入りユニフォームや日本代表ウェアも飾られていた。亡くなられたときにその歴史をまとめた冊子を浅見くんがデザインしたこともある。只本屋でつながった嬉しいエピソードの1つだ。また別のクラブメンバーさんがセレクトしている市民交流プラザのまちライブラリーに立ち寄ってから尾道へ向かった。3日間一緒だった義理の母がバスを見送って手を振ってくれた。

尾道は雨だった。港では船で島に帰る自転車を押した高校生が着岸を待っていた。千光寺の350段ほどある階段を必死で登り今日の宿である「みはらし亭」に辿り着いた。リュックが重い。なぜなら無呼吸症候群対策のシーパップという機械を背負っているからである。壁の薄いゲストハウスに宿泊する際は必携である。いびきで、旅の風情を乱してはならない。

未だ止まない雨の中、意を決して23時からしか開店しない古本屋をめざし再び350段を降りた。ということはまた350段登らねばならないのだな、と思いながら薄暗い坂道を降りて線路沿いに歩いていくと、開いているか開いていないのかわからないほどの隙間のドアが看板の灯りに照らされていた。店内にNHKのラジオが流れていたが、途中で深夜放送が終わり無音に。私以外の客はいない。今村夏子の小説はないかな?と探すと、腰をかがめてのぞき込んだ先に横積みになった「むらさきのスカートの女」を発見し購入。幸先がいいぞ。その後、店主と古本屋談義をして、また350段を登り始めたところで妻からLINE。「ネットのルーターが壊れた」時刻は午前2時である。


20231211

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