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ブスの嫁入り

あたしはブスだ。整形したって、自分は可愛いと思えなかった。顔が嫌で毎日泣いていた時期もある。直近だと5月頭に泣いた。心療内科では醜形恐怖症だと診断された。あたしはあたしの顔を受け入れられていない。

5月の末、結婚が決まった。
世の中にブスの嫁がたくさんいることは認知していたが、自分のようなブスでも好きな男と結婚出来ることに驚いた。
恋が実るのはいつだって美人で、恋愛市場でブスは常に不利であった。ブスは恋愛で報われることはないし、あたしは1番好きな人とは、素敵な人とは結婚できないと思っていた。夫との結婚はあたしの固定観念を覆したし、あたしの人生で1番の幸運であった。

あたしの結婚はトントン拍子で進み、8月半ばに入籍した。書類を出したら結婚できるなんて、あっさりしたシステムだ。

最近、結婚写真や結婚式について調べ始めた。
白いドレスはとても可愛い。子供の頃から憧れていた。いつか着たいと思っていた。
ネットでドレスを見ているだけで心が躍った。どのドレスも可愛くて、どのドレスでも良い気がしていた。可愛いものは眺めるだけで幸せだった。

でも、あたしはブスだった。ブスがこんなの着ていいんだろうか。
「ブスのくせに」
心の中のあたしが、あたしを攻撃するのであった。

またドレスや髪型をインスタで調べると、当たり前だが一般人の投稿も出てくる。その中にはあたしより美人がわんさかいて嫌になった。あたしになんて似合わない、と悲しくなったりもした。
逆にあたしよりブスや、デブも多数確認した。この人達はどんな気持ちでドレス着てんだろって思ってしまった。

週末、ドレスの試着をしに行った。
楽しみで仕方なくて、あたしは雲の上を歩くように、虹の橋を渡るようにルンルンしていた。夫はあたしのテンションには追いついていなかった。
試着したドレスは3着。1つは夫が「これいいんちゃう?」と勧めてくれた。
「これ痩せて見える」と言うと「いや痩せてるやん」と言われた。彼はいつも痩せていると褒めてくれる。彼と付き合ってからは、体型では悩まなくなった。
「1着目が1番似合ってた。アレがいいんちゃう?」
「今日決まるとは思ってなかってんけど、めっちゃ似合ったなぁ」
褒めてくれるのが嬉しかったし、一緒に選んでくれたことが幸せで、彼が良いと言った1着目に決めた。あたしもそれが1番気に入っていた。

あたし達の横で、別のお客さんもドレスを選んでいた。夫婦と、多分奥さんのお母さんとおばあちゃん。旦那さんは奥さんのドレス姿を見て
「アオイはホンマにマーメイドドレスが似合ってる!」
と連呼していた。あたしもなんだかときめいてしまった。

ドレスが決まって、あたしは舞い上がっていた。紙を出したときよりも、結婚した実感が湧いた。帰りの電車は、あの可愛いドレスをあたしが着ちゃうんだ…ばかり考えていた。それ似合うアクセサリーや髪型も考え始めたら妄想が止まらない。

ハッとした。あたし、ブスを忘れてる。
インスタで見たブスも同じ気持ちだったのかもしれない。
みんな自分がどんな見た目かなんて忘れられるのがウェディングドレスなのだ。ウェディングドレスは醜形恐怖症を治せる薬なのかもしれない。

あたしは顔に囚われている。誰がブスで、誰が美人か、すぐに考えてしまう。だからインスタで他人のドレス姿を見て「ブスなのに」なんて酷い事を思う。

自分の顔がどうとか、気にしながら生きる必要がないことはわかっている。でも、それができない。
あたしのドレス姿を店員さんが写真に収めていてくれた。顔が長くて、肌が黄色くて、左右非対称。ドレスが決まった時は、ブスを忘れられたのに。
どうか、もう一度、写真を撮るときだけでも、あたしをシンデレラにしてください。ブスにドレスの魔法をかけてください。自信を持った笑顔を残させてください。

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