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シンバル作る2024~自分で作る楽器の謎

謎多き楽器「シンバル」

高級シンバルは、青銅(ブロンズ)でできている。シンバルのトップシェアをもつZildjian(ジルジャン)というシンバルメーカーは、アルメニアの錬金術師が考えた銅80%錫20%と少量の銀という配合を「一子相伝」で代々受け継がれているという背景がある。シンバルメーカーには、このような「謎」という価値を付ける力がある。

BOSTONにある ジルジャン本社入口

400年以上の歴史をもち、現存する世界最古の株式会社としても知られるZildjianはシンバルブランド最強の立場にあるが、その創業地であるトルコにもIstanbul Agop,Istanbul Mhemet,Bosphorus等など、数々のシンバルメーカーがある。さらに、ロシア→エストニア→ポーランド→スイスと移ってきたPaiste(パイステ)というシンバルメーカー。ジルジャン社から分家したカナダのSABIAN(セイビアン)や、トルコ製のシンバルマテリアルをドイツで仕上げるという形で、近年一気に人気ブランドになったMEINL(マイネル)というメーカーもがあるが、シンバルブランドのイメージとしては「ジルジャンとそれ以外」という壁は、揺るぎなく感じる。

CANADAのMEDUCTICという村にあるセイビアン工場

2006年に私はカナダのセイビアンというメーカーに招待していただいた。
私はそこで初めてシンバルのハンマリングを体験した。正直泣いた。
実は中学生の頃の夢はセイビアンでシンバル職人になる事だった。高校生の頃、拙い英語でメールしたこともある。カタログを国際便で送ってくれた。僕個人にとって最高のシンバルブランドのひとつである。

人生初のシンバルハンマリング at SABIAN

アメリカで行われた前代未聞のイベント「SABIAN Vault Tour」

2000年代末頃このセイビアンがVault Tourというイベントを開催した。アメリカの楽器店に大量のシンバルに加え、シンバル製作道具を持っていき、その場でシンバルを作るのだ。出張先でシンバルを作るイベントのアイデアは僕が最初と思われていた事もあるが、SABIANの方が先である。

その3年後…私もシンバルを作るイベントを開催した。
当社のバンド練習スタジオで、シンバルのハンマリングをして、工場で仕上げるというイベントを実施した。小出シンバルさんとの出会いで実現したイベントである。

日本のシンバルメーカーの立ち位置

日本のシンバル製作の歴史的には安価な真鍮製シンバルを日本で作っていたり、パールの千葉の工場内でもシンバルを作っていた。グランデシンバルという個性的なシンバルを作る工場もあったが、プロが使う高級シンバルとしての位置とはまた違うものだった。
日本の楽器メーカーは、なぜか振動の発信源の分野に弱いと言われる。弦やリード、ドラムの膜(ヘッド)など、その多くが輸入品である。シンバルは体鳴楽器といわれる本体が振動の元になるので、楽器そのものがそのジャンルである。

大阪平野の町工場「小出製作所」との出会い

大阪府平野区にある町工場「小出製作所」。
若手社員が「本物のシンバルを作りたい」という言葉から「これなら作れるんじゃないか?」と思った社長。シンバルブランド名はそのまま「小出シンバル」である。

私は、2009年小出シンバルの工場に訪問。到着するやいなや、シンバルの材料になる金属板を渡され、ここをn回ハンマリングする、位置をずらしてn回…という感じでシンバルを作った。この経験が衝撃的だった。
SABIANでのハンマリング体験は、ちょっとしたイベントだったが、最初からちゃんとハンマリングするとこんなにも難しいのか…とシンバル作りの現実を見ることができた。

2010年3月14日「小出の日」というイベントを開催

翌年、小出シンバルさんとコマキ通商さんとシライミュージックでイベント「小出の日」を開催。小出さんがシンバルメーカーになるまでの過程の話。生産段階ごとのシンバルに触れさせてもらい、製品開発をしている間の経験を赤裸々に話してくれた。

シンバルの作り方

シンバルを作るザックリとした工程としては、青銅を溶かし小さな塊にして、プレスしながら延ばした板を丸く切り、ベルという中央の凸を作り、金槌で叩いて全体の形や音のキャラクターを作り出し、削って厚さを整え、表面に溝を掘って出来上がり。となる。小出シンバルでは材料を圧延するまでの過程は行っておらず、特注している。昔はトルコから輸入していた材料も今では日本製だ。B20以外の配合や、チタンやジルコニウムを添加するなどかなり面白い試みもしている。

ハンマリング

シンバルを金槌で叩くハンマリングという金属の円盤にバネのような力を蓄える作業があり、同じ材料同じ厚さのシンバルでもこれによって出来上がりのシンバルの振る舞いが大きく変わる。自分で作るまでは、工程を知っていても、製作作業で必要とされる技術はまったく解っていなかった。
営業サイドが作るカタログ情報や楽器の説明なんて、生産の本質とはかけ離れたものである。よく考えれば当たり前だが、それに気がついてちょっと大人になった気がした。

私がはじめてシンバルを作ったときの「何も解ってなかった」という衝撃をみんなにも味わって貰いたいという思いがあり、2012年には先程の動画のようにシライミュージックでハンマリングをするイベントを開催。
浅草のドラムシティさんでハンマーと金床を置いて、みんなで1枚のシンバルを叩いて作るというイベントをしていたのだが、やはり、SABIANでの体験との差を感じていたので1人が1枚に向き合う状況を作りたかった。

そして、トップの写真である。「みんなで工場に行こう」と。
トルコやアメリカ、カナダ、スイスに行くより大阪は圧倒的に近い。
最初はSNSで盛り上がっていた数名で行くことにした。神田リョウさん、鑓溝さん、Qちゃん、きゃびさん、山村牧人さんの5名だ。その後、吹奏楽系の打楽器奏者を呼んだシークレットな製作イベントをしてみたりで、イベントの調整をしていった。2010年頃には小出シンバルは充分世界で戦えるトルコ系ハンドハンマーシンバル703/10Jシリーズも発売開始していたし、先行して発売していた808シリーズはPaiste 602を彷彿させつつ、クリアかつ包容力のあるサウンドで「本物のシンバル」と言える製品ができていた。現在では狭いスタジオ環境でもアンサンブルしやすいFezrシリーズや、明瞭で広いレンジをもつCadenceシリーズという、ミュージシャンならその素晴らしさがわかるプロダクトを発売。小出シンバル独自のキャラクターを持ったシリーズができている。

シンバルを自分で作ると起こる謎現象

さて、この工場へ行って「自分でシンバルを作る」というイベントを開催する。こんなに難しそうな工程自分にはできるわけが無いと思った人は正常だ。だけど、ドラマーならば正常ではいられない。美味しいカレーを食べるだけでなく「自分で作ってみたくなる」のがドラマーに多く見られる傾向だ。

シンバルを作る体験が日本で出来るようになったというのは、小出シンバルという日本の楽器業界の特異点が生まれたことにより、奇跡的に現実的になっている。小出社長が元気なうちに、小出製作所の社員にこのイベントの運営方法を伝える…という考えもあり、昨年に続き、今年も行うことにした。

自分でシンバルを作ると不思議なことが起こる。1枚の金属板にわけもわからず金槌を振ることになる。だんだん、安定してきて、どう叩くとどうなるのかつかめてくる。自分でも良くわからないうちに、弓なりなシンバルの形になっていく。そしてその人の今までシンバル対して感じていたことが、無意識のうちに形になりシンバルが生まれてくるのだ。万人が良いと思うかは別として、本人が演奏するとなぜかサウンドするシンバルが出来上がる。非常に不思議な現象が起こる。自分が持っているシンバルや新しく出会うシンバルに対しての解像度も上がるので、ドラマーなら1度は経験することをおすすめする。このイベントがきっかけで、自宅でハンマリングしている人も出てきている。日本で「シンバルを作る人」がどんどん増えていくと最高だと思う。

 シンバル製作体験 #シンバル作る2024 お申し込みは以下のURLから!
2024年7月31日21:00受付スタートです!
すべてSOLD OUTとなりました。
今年は11時間で売り切れました。

2024/08/23 工場見学枠(お土産付き)の受付を開始しました。
製作はできませんが、興味ありましたらよろしくお願いします。


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