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結婚式を自粛したら、突然Zoomで式が開催された話

4月4日に予定していた結婚式をキャンセルした。詳しくはこちらのnoteに書いた。

記事の中で「気象神社」での晴天祈願について触れたんだけど、その甲斐あってか4月4日はめちゃくちゃ晴れた。いやなにもここまで晴れなくても。見事な晴天である。

しかしすることがない。

僕が結婚式で楽しみにしていたのは、何より懐かしい友人たちと酒を飲むことだった。せめてもとダイエット中は我慢していたビールを開けて、朝からほろ酔い状態でインターネットにいそしんでいると、ちょうど大学の友人からメッセージが届いている。そこにはWeb会議ツール「Zoom」のURLが貼ってあって、13時になったら奥さんと一緒に入るように指示されていた。

最近はオンライン飲み会ばかりやっている。また新しい会が催されるのかもしれないが、しかし奥さんも一緒とはどういう意味だろうか。
13時になって、ワクワクしながらビールを握りしめログインしてみると、そこには礼服姿の6人がスタンバイしていた。

え?


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なにこれ?


全員、結婚式に招待していた大学の友人たちだ。効果音と共に、おめでとうと祝福の言葉が一斉に投げかけられる。僕も奥さんもぽかんと口を開けるばかりだ。

困惑しながら訳を聞くと、なんとキャンセルした僕たちのために、いまからお手製の式を開いてくれるという。

仏か?仏なのか?

それぞれが桜やウェディング画像を背景に、当日着るはずだった衣装に身を包んでいた。新郎新婦だけが部屋着のまま、こうして予期せぬ「Zoom結婚式」が突如スタートしたのである。

まず、挙式は語学に堪能な友人Aを牧師に見立てて実施された。

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誓いの言葉は、僕たち夫婦がイラン好きという理由からなぜかペルシャ語で読み上げられた。宮沢賢治の詩とペルシャ詩集「ルバイヤート」が混ざりあった独創的な内容で、正直言ってることはよくわからないけど、なんとなく雰囲気は伝わってくる。唄うようなリズムを聞きながら流し込むビールは極上の喉ごしだ。
(ちなみに後から聞いたら友人Aはペルシャ語は喋れなくて、実は代わりにトルコ語で発音していたらしい。「なんか言語的に近そうだから」とのことだった。)

余興もあった。ダンスの得意な友人による画面越しのきゃりーぱみゅぱみゅは、そのあまりのキレの良さに回線が追いつかず途中で画面が止まった。静止したままの彼を眺めながら大きな拍手を贈る。

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他にも映画に詳しい友人が新婚にオススメの映画を紹介するコーナーがあったり、かつて共に海外旅行に行った友人のスピーチがあったり。一緒に飛行機に乗り遅れた話や現地の警察に捕まりそうになった話など、ハートフルなエピソードに場もどんどん盛り上がっていく。
途中から僕もスーツに着替えて、新郎新婦の挨拶なんかもした。本当はこういうのはもっと緊張するんだろうけど、自然と感謝の言葉が口から湧き出てくる。

ああ、楽しいな。

カメラの角度がおかしくて顔が半分しか写っていないやつもいるし、背景画像に同化してほとんど消えているやつもいる。近所に住む友人Wはベランダから参加しているらしくて、やたらと前髪が風に煽られていた。Zoomを使い慣れていないその様子に、急遽準備をしてくれたんだろうなとしみじみしてしまう。

懐かしい友達で集まって、晴れやかな気持ちで祝福を交わして、美味い酒を飲んで。僕はこれがやりたかったんだ。式場が部屋の中になっただけで、これは間違いなく思い描いていた結婚式である。こんなに腹の底から笑ったのはいつぶりだろう。

困難な状況というのは、いつも自分にとって真に大切なものを認識させてくれる。これまで積み上げてきたものは間違っていなかったし、今はそれに誇りすら感じる。100万円を失った僕たちは、それ以上のものを得て前に進んでいける。

ピンポン。

式も終盤に差し掛かった頃、突然インターホンが鳴った。扉を開けると、大きな花束がそこにあった。友人たちからのプレゼントだった。

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花からは春の香りが漂っていた。最近部屋に篭っていたので知らなかったけど、外はもう新しい季節を迎えているんだ。

4月4日というこの日が晴れて、本当に良かった。
素晴らしい友人たちと、気象神社の神様に深く感謝したい。

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