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黄金のユーゲントシュティル建築オットー・ワーグナーのシュタインホーフ教会

今年は暖冬のウィーンですが、やっと雪が降ったかと思えば大吹雪だったり、急に晴れたり。不思議なお天気が続いています。

雪のおかげで素敵な写真が撮れたので、今回はオットー・ワーグナー(Otto Wagner)が設計したユーゲントシュティル様式(Jugendstill、アール・ヌーボー様式のこと)のシュタインホーフ教会(Kirche am Steinhof)のご紹介です。

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シェーンブルン宮殿のグロリエッテから左手に見える、きらっと光るドーム状の建築物がこの教会です。場所は一応ウィーン市の内部(14区)ですが、小高い丘の上に建っていて、実際行ってみるとかなり町を離れた感じがします。

この教会は広大な精神病院の敷地の一番高いところにあるので、精神病院の棟の間を通って10分くらい丘を登っていきます。この敷地内は全てオットー・ワーグナーの設計なので(橋の欄干までユーゲントシュティル)、一歩足を踏み入れるとオットー・ワーグナーのテーマパークのような気分がしてきます。

そして、雪の積もった小道を上がっていくと、黄金のドームが見えてきました。

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ガイド代を払って中に入ると、外観に負けず劣らず豪華絢爛。こんなすごいところが週2回しか入れないとはもったいない。

このシュタインホーフ教会は、精神病院付属の教会として建てられました。当初設計は別の建築家に依頼されていましたが、当時の行政区だったニーダーエーストラーヒ州の議員でもあり、既に有名な建築家でもあったオットー・ワーグナーが押し切って担当に決定。いくらオットー・ワーグナーが有名とはいえ、斬新過ぎるユーゲントシュティル様式の教会を街中に建てられないご時世だったため、このような町から離れた立地しか選択肢がなかったようです。

病院と教会は1904年から1907年の間に建設されました。竣工式には当時の皇帝フランツ・ヨーゼフが、落成式には皇太子フランツ・フェルディナンド(後にサラエボ事件で暗殺)が参列した、といえば、時代の感覚が分かるでしょうか。内部の装飾は今見ても斬新ですが、100年前は今以上に「奇抜なデザイン」という評判で、「精神病患者にぴったりの教会だ」と揶揄されたほどだったそうです。

この教会では、現在でも敷地内の精神病患者のためにミサを行っています。病院付属の教会ということで、特別に機能性が重視された設計となっています。たとえば、衛生のため、普通は水が溜めてある聖水入れが、水滴が落ちるようにできていたり、ベンチの幅が狭いところが重度の患者専用の席になっていたり、祭壇の脇に医務室が設置されたりします。

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正面の壁画には、キリストを中心とした天国の様子が描かれています。両側に一歩前に出ているのがマリアとヨセフ。右側にはアシジの聖フランシスコ、聖クリストフォロスなど、左側には精神病患者の守護聖人などが描かれています。絵の外右側には鍵を持った聖ペトロが立っていますが、この顔は皇帝フランツ・ヨーゼフに似せたとのことです。

教会の左右の壁には凝ったデザインのステンドグラスがはめられています。向かって左は「空腹な者に食料を与えた」、「乾く者に水を与えた」「着るもののない者に服を与えた」「死せるものを埋葬した」など、物理的渇望を癒した聖人が7人並んでいます。それに対し、右のステンドグラスには、「辛がっている者を慰めた」「絶望している者に助言を与えた」「不正に苦しむ者に共に苦しんだ」「死せる者のために祈った」など、精神的な支えを施した聖人が7人並んでいます。

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右側のステンドグラス

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正面入り口 4人の天使の後ろの窓にはまっているステンドグラスはアダムとイブ。上の月桂樹はオットー・ワーグナーの好んで用いたモチーフ。
この、シュタインホーフ教会、内部見学用に公開されるのは、週2回、土曜日16時から17時と、日曜日12時から16時。ガイドツアーは土曜日15時と日曜日16時。公共の交通機関でも、バスを駆使して時間をかければ辿り着けます。

ツアーのあと、更に丘を歩いて散策してみました。開けたところに出ると、家族連れが子供をそりに乗せて引っ張っていました。なんとなく、ブリューゲルの絵画のような雰囲気が漂っていました。

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(2012年1月執筆)

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