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兵庫教育大学附属図書館広報誌Listen

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#LISTEN

アンパンマンに御用心

文:永井一樹(附属図書館職員)  人生イチオシの小説を問われたらちょっと選択に困るけれど、短編小説なら迷わず答える作品がある。志賀直哉の「小僧の神様」である。たぶん中学生の時に読んだから、かれこれもう30年以上不動のナンバー1だ。なぜか。特段インパクトのある話ではない。鮨に憧れる小僧がなけなしの四銭を握り屋台寿司屋の暖簾をくぐるが、一貫六銭であるために食べられない。それを不憫に思った客の紳士が数日後、偶然再会した小僧にたらふく鮨をご馳走する。だが善いことをしたはずなのに、そ

国立国会図書館のリモート活用

納本制度に基づく豊富な蔵書とプロフェッショナルな司書を擁する、ニッポンの図書館の“総本山”、国立国会図書館(NDL)。 永田町にある東京本館と、“のこぎり屋根”で有名な関西館に、一度は足を運んでみるのがオススメですが、今はコロナで遠出が難しいところ。そこで、自宅にいながら利用できるNDLの便利なサービスのいくつかをご紹介します。 ※本記事は2021年10月に兵庫教育大学附属図書館が作成したものです。画像はNDLから転載。最新情報はNDLのウェブサイトでご確認ください。 国立

#本でつながろう

その昔、図書館の本にブックカードなるものが挟まっていた時代がありました。 図書館業務がコンピュータ化される前の話です。 本を貸し出すとき、そのカードに借りる人の名前を書いて、カウンターで保管します。カードには、あらかじめ書名が記入されているので、図書館は今その本を誰が借りているかを管理できるわけです。本が返却されると、ブックカードはそのまま本の内ポケットに戻されて、書架に並びます。ということはつまり、その本を手に取れば、過去に誰が借りたかがわかってしまうのです。個人情報に敏感

エッセイ・ノンフィクション

このページでは、兵庫教育大学学部1年生(2021年)によるオススメ本の紹介記事のうち、エッセイ・ノンフィクション関係のものを掲載しています。 ※凡例  ①著者 ②出版社 ③出版年 1 『僕の隣で勝手に幸せになってください』①蒼井ブルー ②角川文庫 ③2020 「ひとりの男性写真家が様々な視点から女性への偏見や純粋な恋心、日常生活に関する励ましが綴られています。共感できるものも多く、人間関係や恋愛、私生活の悩みがある時もこの本の言葉に元気をもらっています。」 2『イチロー

フィクション(SF・ミステリー・ファンタジー)

このページでは、兵庫教育大学学部1年生(2021年)によるオススメ本の紹介記事のうち、フィクション(SF・ミステリー・ファンタジー)関係のものを掲載しています。 ※凡例  ①著者 ②出版社 ③出版年 18『一九八四年』 ① ジョージ・オーウェル ② 早川書房 ③ 2009 「この本には、独裁制を批判的に風刺している表現が見られること、筆者が当時から約40年後の未来を舞台に書いた作品であることの2つが両立していることが魅力の一部だと考える。」(田中麟太郎) 19『図書館

フィクション(児童・青春・まんが)

このページでは、兵庫教育大学学部1年生(2021年)によるオススメ本の紹介記事のうち、フィクション(児童・青春・まんが)関係のものを掲載しています。 ※凡例  ①著者 ②出版社 ③出版年 38『はらぺこあおむし』 ① エリック・カール ② 偕成社 ③ 1997 「何年経っても色褪せないあの愛くるしいあおむしのデザインは今もなおみんなに愛されています。タイトルは言わずもがな、あの横長な本の形がたまらなく好きです。あの顔もなんともいえない感じが印象的です。」(坂入翔馬) 3

フィクション(純文学・歴史・時代)

このページでは、兵庫教育大学学部1年生(2021年)によるオススメ本の紹介記事のうち、フィクション(純文学・歴史・時代)関係のものを掲載しています。  ※凡例  ①著者 ②出版社 ③出版年 64『博士の愛した数式』① 小川洋子 ② 新潮社 ③ 2005 「主人公の家政婦が派遣された先は、記憶が80分しか持たない元数学博士の家で、博士は数学を愛し他のものには興味を示さないが、子供にだけは優しく数学のたくさんの知識を教えた。私が数学の奥深さを教えて貰った本です。」 65『十

教養・自己啓発

このページでは、兵庫教育大学学部1年生(2021年)によるオススメ本の紹介記事のうち、教養・自己啓発関係のものを掲載しています。 ※凡例  ①著者 ②出版社 ③出版年 86『先生はえらい 』① 内田樹 ② 筑摩書房 ③ 2005 「先生とは何か。尊敬される先生とは答えを与えてくれる存在ではなく、謎を与えてくれる存在であり、知識ではなく勉強する姿勢を教えてくれる先生なのだと教えてくれる、今までの常識をひっくり返す名著です。」(吉田優咲) 87『教えるということ』① 大村は

それはかつてあった

 文:永井一樹(附属図書館職員)  四十も半ばに近づくと、自分が死ぬことを考える。祖父母は他界して既に久しい。両親はまだ健在だけれど、いつの間にかすっかり年老いてしまった。やがて両親が去れば、次は自分の番である。三十代までは、自分が半永久的に生きられると思っていた。それがそうではないと最近実感する。だるま落としの積み木みたいに、世代は順番に退場していく。  私に、祖父母の記憶が遠のくように、私の子孫は私のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。それは、ちょっと嫌だなと思う。墓石

須田場好七の風景感考 2

話し手:須田場好七氏 / 聞き手:永井一樹(附属図書館職員) ー 須田場先生を本学にお迎えし、写真ワークショップを開催するわけですが、まずは先生のスタバ写真家としてのご活動について、お聞かせください。 (須田場) スタバのカップが写り込んだ写真って、だいたいインスタ映えしますよね。若い人だったら、きっと一度はそんな写真撮ったことがあると思うんですよ。ただ、本当にどんな風景でも映えるのか、その境目のラインって、誰も追求してないと思うんです。もしかしたら、このカップが負ける時

須田場好七の風景感考 1

その胡乱な男は、待ち合わせの時間に5分遅れてやってきた。カメラのレンズを拭いていると、つい時間を忘れてしまうのだという。 スタバ写真家。“スターバックスの紙コップ”が背景に対してどこまでインスタ映えできるのか、その限界値を探る男。(自身のインスタグラムにそう書いてある。) 私が、この神出鬼没の写真家の存在を知ったのは、BLUE CLASS KOBEのゲスト、首藤義敬氏が運営する多世代型介護施設「はっぴーの家ろっけん」を訪れたときだった。そこで秘書をしている高橋大輔氏との雑談の

インキュナブラー

 文:永井一樹(附属図書館職員)  もう20年以上前の、私が高校生の時の話である。ある日、私は近所に住む友達に招待されて、彼の家で晩御飯をご馳走になった。広い和室のリビングで、一家の団欒に加わっていたとき、突然部屋の電話が鳴った。受話器を取ったのは、彼の母親だった。電話は部屋の片隅にあり、まだ買ったばかりと思われる真っ白なコードレスの子機が親機のすぐ横に置かれていた。その電話は彼の父親にかかってきたもので、彼女は、そのとき隣室でくつろいでいた父親を呼んだ。すると、驚いたこと

みるということ Vol.5

はじめての一人暮らし (永)10月からは宿舎に住まれる予定ですよね。一人暮らしをされるということですが、もう既に泊まったりしたことあるんですか。 (辻)まだないです。 (永)辺境の地にありますし、色々と住みにくい面もあると思うんですけど、何か心配されていることとか、逆に初めての一人暮らしでわくわくしてるとか、あります? (辻)どちらかというと、ワクワクの方が大きいですね。でも、買い物のためにバスに乗るにしても、大学の授業で教室を移動するにしても、どんな時でも移動が伴

みるということ Vol.4

一聴きぼれ (永)辻本さんは、音楽大学で声楽を専攻されていたそうですね。 (辻)はい。盲学校(高校)のときに音楽科を選択して、3年間声楽を専攻しました。それから、大阪音楽大学に入学して、そこでも声楽を専攻しました。 (永)歌がお好きなんですね。 (辻)はい、とても。 (箕)どんな歌がお好きなんですか? (辻)クラシックの声楽を専攻していました。オペラが好きですが、動きの激しいものはなかなか難しいので、私はあまり動きのない曲を多くやってきました。日本語だけじゃなくて