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あの恋

彼の多くを占めるものはバスケットボールだった。彼を10とするなら8がバスケで、わたしは1も、なかったと思う。
彼と付き合うまで、わたしの中でバスケットボールが体育の範疇を越えることはなかった。
彼の部屋ではじめてスラムダンクを読んだ。練習に付き合うために彼から借りて、はじめてバッシュを履いた。
開幕したBリーグを見に行ったと言うと、彼は羨ましがり、喜んでくれたことを覚えている。
彼に誉められたくて。彼と話がしたくて。バスケットは彼とわたしを繋ぐツールだった。
篠山くんと地元チームがすきな人だった。
わからないことをわかるようになるために、選手名鑑を眺め、彼と顔が似ている選手を見つけ、応援し始めた。それは彼の好きなチームでも、篠山くんでもなかった。

応援する過程で友達ができた。写真を撮る趣味も増えた。
そのチームが、熱狂的なブースターを抱えるチームでなければ、「選手が東西に動くとき、それはブースターも東西に動くとき」というような意識は持たなかったかもしれない。

なんだかんだあって彼とお別れしたあと、わたしに残ったのは未練とバスケットボール。
変な話なのだが、彼への未練を断ち切るために、彼から教えて貰ったバスケットボールを見ていた。それも必死に、異常なまでに。それまで以上に西へ東へ移動していた。

今はその選手を応援することはしていない。もっと別のタイプの選手の方が、選手として好きといえるくらいにはプレイヤーの個性も理解できるようになり、バスケの知識もついた。今なら、彼と話せば、おもしろい話ができるのではないかとも思う。篠山くんのバスケットについて、どういうところが好きなのか改めて聞きたい。ただ、彼の好きなバスケとわたしの好きなバスケは違うということもなんとなく分かるほど、知識がついてしまった。
だから、わたしは、わたしが好きなバスケを見ているときは、未練を感じていない。
純粋に、好きだよって思ってアリーナに居る。

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