心のパンツのおろし方

口は災いの元と言いますが、
口に出さなきゃ伝わらないものもあるわけで

要は
『伝える言葉には気をつけろ』
というわけなんですね

最近、そんなことを学んだエピソードを
ここでご紹介したいと思います


半年前から、会社の研修の一環で
ビジネススクールに入っていました

授業は、9割がたzoom

一緒に受講している生徒たち
これはグループ会社から
それぞれ選抜された人たちで、
計30名ほどいました

お会いできたのは研修の序盤、
会社役員の講義を聞く会の時だけ

そんなわけで
あとはzoom越しに2週に1回ペースで
みんなと勉強していたわけです

カメラは常にオンしていたので
先生や生徒たちとは
画面越しに顔見知りになっていきました


生徒の中に1人
とても素敵な女性がおりました

歳は同じくらい
派手さはいっさい無く、
真面目で勤勉で優しい雰囲気
顔は小学生の頃から変わってないだろうな
ってくらい垢抜けてなさそうな純朴さ

一般的に言われる美人像には
ぜんぜん当てはまらないけれど、
すごく良い人って伝わるような
すてきな魅力がありました

zoom飲みをやったことがある方なら
お分かりだと思います
画面越しに映る顔の表情が豊かであること
大きく頷く仕草があることで
『伝わってる』と感じる嬉しさを

彼女はいつも笑顔で、
画面いっぱいに豊かな表情と仕草を
見せてくれていました

そのうえ、
彼女は人一倍熱心に授業を受けており
よく講師の方々に質問をしていました

その勤勉さは、
僕ともう1人の生徒と並んで、
3トップだったと思います

雰囲気すべてが魅力的で、
画面の端にうつる彼女を、
僕はときどき追いかけていました

それは久しぶりに感じた、恋だったのです

半年間の研修が終わる頃、
メンバーの中に気の利く人がおりまして
『せっかくの縁だし、飲み会しません?』
と、懇親会を企画してくれました

あの子に会える!
僕の胸は高鳴りました
こんな想い、いつぶりだろう

どんな結果になろうとも、
この気持ちを伝えなければ絶対に後悔する

そう思って向かった居酒屋
彼女はすでにテーブルの席についていました
ラッキーなことに隣がまだ空いてる!

『隣いいですか?』

緊張して声をかける僕に
笑顔で応じてくれる彼女

ああ、なんて幸せなんだろう‼︎

溢れる想い、昂る気持ちで言葉を紡ぎ
飲み会が始まってすぐに伝えたんです

『すごく素敵だと思ってました
誰よりも授業に熱心な姿勢も
他の人の意見に大きく頷く姿も
話す前にはにかむ仕草も』

周りからは
『何をいきなり口説こうとしてるんだ』
と言われますが、そんなことは気にしません

だって、この機を逃したら
伝えられないかもしれないのだから

『でも本当にそう思ったんです
だからちゃんと伝えたかった』

このくらいで留めておいたら
良かったのかもしれません

こんなとき、
ついやり過ぎてしまうのが
僕の悪いところ

『感動したのがね、
先生が生徒の発言でCと言ったかGと言ったか
分からず戸惑っていたとき、
サイレントで『ジー』って
口を横に開いて教えてあげてたんです
その仕草がすごく可愛くて』

『そこから気になって、
たまにピン留めして見てました』


…はい、やり過ぎましたー!
事実なのだけど
伝えちゃいけない言葉でした

向かいにいた男性は爆笑

女性陣はドン引きして急に汚物を見る目つき

言われた隣の彼女は、
苦笑して顔を反対側へ背けてしまいました

慌てて弁解する僕!
よしゃあ良いのに

『いや、ちょっと待って
ピン留めしていたのは
何も1人に限った話じゃないよ?!
たとえば自室で受けていた君の様子も、たまにお菓子を食べていた君の仕草も、隣に置いてたPCで内職をしていた君の姿も、ピン留めして見ていたんだからね!!?』

ストーカー疑惑を晴らそうと雄弁になるほど
如実になる変態性

『気持ち悪い』
『ストーカー』
『真面目に授業を受けろ』

ほんの1分前とは打って変わり、
その場にいた全員が敵となったのでした


読者の方々に1つだけ弁解をさせてもらうと
授業はちゃんと真面目に受けてました

その証拠に、最後の演習課題は
いずれも上位成績者に入り、
3演習のうち2つは
模範解答に選ばれたほどです

そんな風にして砕け散った久しぶりの恋
本当に落ち込みました



…それから約1ヶ月後

10年来の親友たちと食事をしたときに
この話をしたんです

友人たちの反応は、
長い付き合いをもってしても同じでした

『途中まではすごく良い話だったのに、
超きもいよ』

友人の1人は、僕のそんな失態を
『心のパンツ』に例えました

『心の扉』と言わないあたりが、
ウィットに富みつつ変態性を潜ませる
我が友人らしいところです

『君はつい一気に下ろしてしまうからね』

『いやしかし、時間は限られていたんだ
あの場で想いを
どうしても伝えたいと思うあまり…』

『しかし途中までは良かった』

『あそこで抑えきれず
余計なことを言わなければ…
でもほんとのことなんだよ嘘偽りなく
世に蔓延る嘘や虚栄に満ちて
格好つけている男とはわけが違う、
裏表のない真心を、
誠実な気持ちで伝えたかった、
それがこんな結果になるなんて…』

その場で答えは見つからず
空を眺めながら歩く帰り道

ふと思いついたのは
生成AIに聞いてみることでした

これまでの人間の叡智を集め、
事実を淡々と突きつけてくれるこいつなら、
答えを、あるいは何かしらのヒントを、
与えてくれるかもしれない…

chatgptに問いた結果、
出てきたのは、
次の答えでした

こんなに的を得た回答が出てくるなんて
思ってもみなかった
これは人生の真理ではなかろうか

『なぜそのパンツをおろす必要があるのか』

もう、これに尽きると思います


この気持ちを伝えたいって真心は、
ときに心のパンツを緩めてしまうものです

どんなに誠実な想いでも、
相手を慮らなければエゴでしかない

己を相手の立場から見つめられるように
必要なことだけを伝えられるようになろう

そんなことを学んだ春でした

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