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『セント・アグネスの純心』感想

宮田眞砂さんの作品は前作の『ビブリオフィリアの乙女たち』を読んでおり、ルームメイトとの擬似姉妹制度がある女学校が舞台で日常の謎と聞いて殊更に楽しみにしていた。


このジャンルの嚆矢はやはり「マリア様がみてる」になると思うのだが、私としては「FLOWERS」シリーズが念頭にある。

全体の感想としては、期待以上にめちゃくちゃ好きな奴だった。この感想も読了直後に勢いで書いている。日常の謎ミステリとしても百合としてもおすすめ。
登場人物間の感情と関係性、他者に向ける誠実さがとても良かった。万莉愛と雪乃の関係も、サブキャラクター達もそれぞれに魅力的で、気持ちの良い読後感だった。


特に第一話は『ビブリオフィリアの乙女たち』も想起しつつ読んだ。全てに意味があって欲しい、因果があって欲しいという気持ちも、その考えが救いにもなり得ることもわかる。しかしながら、そういった欲求が公正世界仮説にも繋がっていて、時にSOSを見落とし認知を歪ませてしまうんだよなとも思う。畢竟、その罠に引っ張られないように自らを補正し続けるしかないんだろう。

今作にも学校生活に即した形で文学に対する言及があるが、こういった登場人物のテキスト解釈や文学への向き合い方による描写もかなり好き。

物語後半、人との関わりを避けていた万莉愛に凛とうららが同行したり今までの生活、謎解きを通して知己を得た子達が一堂に会したシーンがグッときた。

友情は生まれながらに決まっている血縁や、契約書を介する婚姻とは違い、その関係がいつ始まったのかは概してあやふやで、後になってからその恵みに気がつくものだと思う。友情や恋愛感情に貴賎や優劣があるとは思わないが、些細な誠実さと時間を共有して培われる友情には、特有の得難さがやはりあるだろう。

(「FLOWERS」の蘇芳と沙沙貴姉妹の関係も同じ理由で好きなんだよな、空回りして「友達になってください」宣言しちゃう蘇芳に、友達ってそういうものじゃなくない?と振った沙沙貴姉妹とその後の交流を経て、アミティエとは別の最初の友達になるのが…)

メインのカプの成立は前提として、別途形成される関係性が好きなんだよな。

本作は単巻で完結しているが、ますます荷物を増やした白丘雪乃と手を取り合い駆けまわる万莉愛をもっと読みたいとも思う。星海社は続巻して。『中野森高校文芸部のホームズ&ワトソン』と『盟約の少女騎士』の続きも出して)


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