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#290 ウクライナ侵攻はパイプラインから読むべき

今回の戦争について日本のマスコミは次のような報道です。

ウクライナの惨状。停戦交渉はうまくいかない。プーチンの精神状態は如何に。ロシア国内は情報が伝わっているのか?内部から止める動きに期待。

でもこれじゃあ何故プーチンはウクライナに固執しているかは伝わらないと思います。

「ロシア帝国を夢みている」とか的外れだと思います。何かプーチンが突然領土拡大に走ったように思っていたとしたら大間違いです。なぜ核施設に攻めたのでしょうか?プーチンの頭がおかしくなったのでしょうか?

少し前から振り返ってみましょう。

2008年8月、この時も北京オリンピック(夏)開催中。

ロシアのメドベージェフ大統領(当時)はグルジア(ジョージア)から南オセチアとアブハジア共和国を奪い取り独立を承認して衝撃を与えました。(日本人は忘れていると思うけど)

突如、グルジアに空爆を開始して大規模軍事作戦が始まりました。プーチン首相(当時)、ブッシュ、サルコジも北京にいたのです。プーチンはすぐに南オセチアに飛びましたが、ブッシュはオリンピックに留まりました(いつも反応が鈍い)。もちろんプーチンは用意周到な準備をしていたはずです。

アゼルバイジャンのバクー油田は欧州、アメリカどの国も欲しい。ここからトルコにパイプラインが通じているのです。地図をみてもらえばわかるのですが、途中グルジアを通るわけです。これは面倒なロシアを通さないように建設したわけです。このパイプラインは重要ですのでNATOもアメリカもグルジアに経済支援、軍事供与したりしてロシアから引き離そうとしてきていました。同時に旧東欧諸国もアメリカによってミサイル防衛施設を配備していました。

これを驚異に感じたロシアはグルジアを分断してバクー油田の石油が西側にいかないように考えました。ブッシュはこの軍事行動に準備できていませんでした。よってロシアの思い通り、欧米の石油メジャーはグルジアと距離を置くようになりました。

さらに少し前、ロシアは旧ソ連時代からイラクと進めていた石油開発がアメリカ(ブッシュとチェイニー)のイラク戦争で全てダメになり、結局イラクの油田はアメリカとイギリスに取られてしまったのです。その後のイラクの油田開発権はロシア抜きの欧米企業に与えられてしまいました。プーチンの大きな恨みの始まりはここにあります。

チェイニー副大統領は、2000年までハリバートン社のCEOでした。ハリバートンは世界最大の石油掘削機の販売会社であり、湾岸戦争とイラク戦争で巨額な利益を得ています。

なお、南オセチアと北オセチアの隣国であるチェチェン共和国があります。1990年代にこの独立を阻止しようとエリツィンは猛攻撃しました。これも日本人にとっては”いじめ””みせしめ”くらいにしか見えなかったようです。

実は、チェチェンも石油が出ます。旧ソ連時代には石油を年間400万tほど産出していました。チェチェン領内には、世界的大油田のカスピ海から黒海の輸出港に繋がる複数のパイプラインが通っています。ロシア軍はパイプラインを破壊しないように攻撃したのでした。

2008年3月にロシアは、わざわざイラクの債権を放棄(約120億ドル)して、再度イラクの油田の権利を得ようとしました。しかしこれもアメリカの横やりでアメリカの企業(シェブロン)に取られてしまいました。またしてもプーチンはアメリカから屈辱を味わってしまったわけです。

石油がダメになったロシアは天然ガスの方で、リビア、アルジェリア、カタール、イランとカルテルを画策していました。

こんな中でグルジアのパイプラインをアメリカに取られてはいけないと行動したわけです。

ロシアの輸出産業は天然資源です。産業はそれしかないのです。

冷戦時代の軍事技術を応用して油田採掘の技術などは世界でも高いレベルにあります。中国やインドと組んで、欧米のエネルギー市場を無力化するつもりなのです。

ちなみにロシア・ウクライナは研究の結果、「原油無限説」を信じています。だからプーチンは油田再生化を計画しています。一方、我々西欧のほとんどの人はいまでも「ピークオイル説」(有限)をなんとなく信じていますから常に供給不安や将来の枯渇への心配を持っています。

西欧は天然ガスの1/3以上をロシアから輸入しています。それだけでなく原油、石油製品、石炭もロシアから買っています。一次エネルギーの1/3は依存しているわけです。

ロシアから西欧への天然ガスの半分はウクライナ経由です。もしウクライナ向けの天然ガスの供給が止まると、西欧は大きな影響となります。経済的な影響が大きいのはロシアにとっても同じですが。

じゃあアメリカから欧州に輸出すればと考えます。アメリカは原油の輸出を禁止にしています。それならばと、アメリカから天然ガスを送るにはLNGにします。しかし、アメリカにはその設備はありませんでした。

それが2000年代半ば以降はシェールガスの発見によって状況が変わって、アメリカから輸出するようになりました。それで欧米にLNGの設備が整備し始めたところです。

グローバルな流れはロシアも同じで、欧米はロシアのエネルギー事業に投資しています。日本もサハリンⅠ、サハリンⅡという原油・天然ガスプロジェクトに投資していました。

ソ連崩壊のあとの11か国のCIS(独立国家共同体)を思い出してみましょう。1991年当初グルジアは入っていません。その後、グルジアが加わり12か国となりましたが、ウクライナ(1993年)とトルクメニスタン(1994年)は客員参加国に変更。グルジアが2009年に脱退。ウクライナも2014年にやはり脱退宣言。もともとロシアから距離を置きたかった国々です。

グルジアのロシア嫌いは国名にも表れています。ソ連崩壊後、グルジアは国連に「ジョージア」と登録しましたが、日本や旧ソ連では「グルジア」のままでした。しかし2008年のロシアからの武力侵攻をきっかけにロシア語読みの「グルジア」から英語読みの「ジョージア」に変えるように各国に働きかけました。日本も2015年4月14日「ジョージア」と改める法律が成立しています。日本人の多くは「なんか読み方が変わった」くらいしか感じていなかったはずです。

2013年末に、ウクライナは、EU加盟国希望を明確に示しました。

こうした中、ロシアは2014年3月にクリミア併合を行ったわけです(日本人はこの事件すら関心がない)。クリミアは陸上および海中の両方にガス田があります。これらはすべてウクライナのパイプラインに接続され、西側に供給されています。クリミアはロシアにとっては「不凍港」としての地政学的な意味も重要です。

1853年のクリミア戦争(ナイチンゲールね)もオスマン帝国(イギリス)とこれの取り合いだったわけです。負けたロシアは東へ行って清、日露戦争へと行くわけです。ちょっと話がそれた。

ウクライナは、さらにNATOに加入する動きを見せて刺激し続けてきたわけです。

2006年、2008-2009年、2014年にロシアとウクライナでガス紛争が起きています。ロシアは、ソ連時代に一大パイプライン輸送網を構築していて、ウクライナなどに割安な価格で供給していました。それなのにウクライナはソ連時代からガスの抜き取りを行っていました。その後も何度もロシアともめてきたのです。その間、ウクライナの政権は不安定でした。

2006年、2009年にはウクライナを経由してガス供給を受けていたヨーロッパ諸国は大きな被害を受けました。特にバルカン半島諸国ではこの紛争によってガス供給が全面停止しています。よってロシアは黒海海底のパイプラインを計画します。

2010年「ハリコフ合意」ではウクライナがクリミア半島でのロシアの黒海艦隊の駐留期限を延長する代わりに、ウクライナ向けガス料金を割り引くことになりました。まけてあげたのです。

それが2014年ウクライナ騒乱で、ウクライナの親露政権が崩壊したことから、ロシアからのガス供給を打ち切る可能性を示唆しました。ロシア側が示す債務の三分の一でしか払いませんでした。その後、ウクライナはロシア産ガスへの依存を低下させようとしてきたわけです。

2014年9月5日にウクライナ、ロシアが調印しました、ドンバス地域における戦闘(ドンバス戦争)の停止について合意した文書「ミンスク」合意ができました。でも双方とも休戦規定に違反。非難合戦が始まりました。その後、停戦は完全に崩壊してしまいました。

2015年2月11日にはドイツとフランスの仲介により「ミンスク2」に調印。2021年10月末にウクライナ軍は攻撃ドローンを使用し、 ドネツク州の都市近郊で攻撃。ロシアはこれをミンスク合意に反していると非難しました。

これに対して2022年2月21日にプーチンは 「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認、EUはこれをミンスク合意に反していると非難しています。こういう経過で今回のウクライナ侵攻となるわけです。

要するに、ロシアにとってのウクライナは、30年以上にわたってガスで損させられ続けてきた不肖の息子だったわけです。しかも、またしても英米にウクライナを取られてしまうかもしれない危機に陥ったのです。喩えが違うな、長年貢いできたダメんずが自分の嫌いな女の方になびいているので激怒!って感じかな。しかも紛争の合意すらも反故にしたウソツキ国と見ているわけ。ドローン攻撃までして、もう許さんと。堪忍袋の緒が切れた。

ウクライナはヨーロッパで最大の電力生産国の1つ。そのウクライナが電力網をロシアから切り離す試験を実施しはじめました。これがうまくいけばベラルーシとロシアに依存することなく電力をまかなえます。

この「同期化」の試運転を開始したまさにその日の2月24日に、ロシア軍による侵攻が始まりました。

ちょうど今回も仲良しの中国が北京オリパラ(冬)の最中となりました。偶然でしょう。

長年苦しめられ損させられ続けてきた(と強く思っている)ロシア国民は拍手喝采、溜飲が下がったのです。だからといって今回の侵略が正当化されるわけはありませんが。

侵攻直後、ロシア軍はエネルギー基盤の占拠を最優先事項とします。だからその象徴としてロシア軍は3月上旬にザポリージャ原子力発電所を爆撃して占拠したのです。

単なる緩衝地帯が欲しいだけならここまでの攻撃などしないはずです。

核施設の掌握もエネルギー問題の一環として考えれば、わかりやすいと思います。今回のウクライナ危機で欧州は原発回帰となるのは間違いないと思います。

さて原油覇権主義は中国も同じこと。東シナ海、アフリカ諸国へ食指を伸ばしています。

インドも同じ。だから国連決議で棄権したのです。

こうしたエネルギー・リテラシーが極度に低い日本人も問題だと思います。

私たちはロシア国民がプロパガンダにやられていると思っていますが、ロシア国民は私たちこそ西欧マスコミのプロパガンダにやられていると思っています。エネルギー視点や経緯を知らず、現在の現象だけ見て語るな、という訳です。

もしここに書いてあることを全く報道していないならそうですが、そういう事はありませんので当たりません。(むしろ私たちが知ろうとしていないような気もします。)

話せばわかりあえるとか言っても見てる次元が違いすぎます。こうなったら「戦争反対」とかいくら叫んでも無理な気がします。

最後に日本との関係。

日本は幸か不幸かエネルギー天然資源がありませんので、ロシアはエネルギーの戦略としては興味ないと思います。北方領土は漁場という資源があります。あとはサハリン投資してもらってガスを買ってもらえばいいだけ。

残念ながらロシア外務省は経済制裁を理由に日本との平和条約締結交渉の中断を発表。

少ない不凍港のために東の領土なんて死んでも返すわけない。仲良くしていれば良いことあると信じているお人よしが負けなのよ。















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