すべての仕事(X)はサービス業(S)

最近、1次産業とか2次産業という言葉をあまり聞かなくなった気がします。一方で、6次産業、6次化は割とよく耳にします(関心があるだけかもしれませんが)。

この1次〜3次の分類は「コーリン・クラークの産業分類」と言うそうで、1940年頃に提唱された概念とのこと。日本では太平洋戦争の頃です。私は初めて知りましたが、意外と知っている方は少ないのではないでしょうか。経済の発展に従って、1次から3次へ移行する、その指標に用いられたようです。しかし、もはや3次までが成熟してしまったため、産業の次のステージとして、6次という言葉が生まれたとも考えられます。
この6次は「農業の6次産業化」として、今村奈良臣という先生が考案され、1+2+3ではなく、1×2×3が正しいようです。

価値があるのは、お米そのもの?

これまで、いわゆるサービス業は、3次産業の括りの中で、時に「虚業」などと揶揄されてきました。しかし、1次産業も2次産業も、自然の営みや自然の法則を人が利用して、人の手を介して生産や製造が行なわれます。

特に1次産品では、それ自体に価値があると考えてしまいがちです。しかし、お米であれば、種を改良し、水田を整備し、雑草を取り、収穫して、精米して、包装して、利用者の近くまで届ける、この一連の他者の営みに対して、価値は発生するのであって、自生している稲を誰もが自由に利用できるとしたら、それは空気や雨水と同じです。これらを権利化する発想力の豊かな人々もいますが、一般的には、自然の恩恵ではあるけれど、それらに対価を払う人はいません。

論点が変わってしまいますが、食べられること自体に価値がある、そんな見方もできます。ただ、それは、食品の生産が不安定で、供給が充分でなかった時代の考え方です。食品廃棄、フードロスが問題になる国に住む、現代の我々にとって、食品の位置付けは変わってきていると感じます。もちろん、安定的な供給が行われていることを当たり前に考えてはいけませんが、一方で、食べ過ぎによる肥満や、成人病をフードロスと同様に、一つの食の問題と考えることもできると思います。

以上のように、我々が仕事と呼ぶ営みは、様々な面において、他者の営みを助けるものです。私たちが、肉体や五感、言葉、知恵などを使って、他者に作用する。作用の連鎖によって社会、すなわち、人間の集合体としての営みが保たれる。つまり、生産であろうが、製造であろうが、すべての仕事、すべての産業は、他者へのサービス業と考えることができます。最近の言葉を借りれば、XaaS(X as a Service)です。自動車のMaaSや、ソフトウェアのSaaSが有名ですが、これらと同様に、Xには、すべての産業や業種をあてはめて考えることができます。

なぜ、こんな一周してふりだしに戻るような話をしているのか。それは、自らの仕事をサービス業と考えることで、それぞれの仕事を時代に合わせてアップデートできると考えるからです。

量から質へ

量から質への転換が叫ばれて久しいですが、かつては多くの人の空腹を満たすため、物的不足を満たすため、量の拡大が希求され、収量の多い品種の開発、時間あたりの生産量の最大化(効率化)などが図られました。今の日本では、ありがたい事に、それらがほぼ達成されたことによって、単純に「質」と言っていいのかわかりませんが、今では、より個人の必要や、嗜好に合うものが求められるようになってきました。

マーケティング4.0で大切になるのは「顧客の自己実現を支援したり、促進したりするような商品やサービスを開発すること」だという。

マーケティングは、人を騙して儲けるためのテクニックのように思われがちですが、本来は人々のニーズを先取りし、新たな文脈(価値)を提案し、社会の営みを前進させるための知的生産行為です。

実は「質」というのは単純ではなく、こちらで書かれているマーケティング2.0〜4.0が、「質」にあたるものだと思います。機能を高める、例えるなら「すでにある穴を深堀りする」のが、2.0。「新しい穴を掘る」のが、3.0。「利用者が欲しい穴を掘る」のが、4.0でしょうか。今のスマートフォンを含めて、多くのプロダクトは3.0から2.0へ移行し、コモディティ化します。

X4.0

続けてお米を例にするならば、今や、お米は、お腹を満たす事だけを求められているのではなく、お米によって、利用者の何が解決されるのか、何を助けるのかが、重要になっています。500円でお腹を満たせる時代にお米の働きは何か。

全国の自治体が、食味で「特A」を競い合ったお米は、2018年産では、55銘柄にもなり、もはやそこが平均点となって、差別化としての機能は難しくなっているように思いますが、その機能は、単においしいというだけではなく、新銘柄に対する関心や、話題性という役割も大きかったと思います。

食糧としてのお米が、お米1.0だとすれば、おいしさを追求したお米は2.0、「特A」や新銘柄が3.0でしょうか。では、次のお米4.0には、どんな働きが期待されるのでしょうか。お米作りや、お米の販売をサービス業として考えることで、次のステージが見えてくると思います。もちろん、これはお米に限ったことではなく、すべての産業Xに当てはまると思います。


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