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<対談> 農家×八百屋シェフ 野菜の ”住み心地” を追求。料理家の胃袋を掴む『さとわ農園』の野菜

今回の対談は、『農家×八百屋シェフ』。朝日村にある『さとわ農園』を営む舟生 里(写真左)さんと、安曇野市で八百屋シェフとして八百屋『よろづやいっかく』を営む崎元 伸郎(写真中央)さん・生歩子(写真右)さん夫婦です。


出会いは、農家のファンづくりイベント『HYAKUSHO BAR』にて料理家の顔も持つ崎元 伸郎さんが、舟生さんの野菜を調理して提供したことがきっかけ。そこから舟生さんの『さとわ農園』の野菜は、崎元さんの『よろづやいっかく』の店頭に並び、人気となっています。

農家と料理家の関係性、野菜に対する思いの詰まった対談が、和やかに始まりました。

料理家の胃袋を掴む、舟生さんらしい野菜

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崎元さん夫婦は、舟生さんが育てた野菜の大ファン。崎元さんは、長きにわたって料理家でもあるため、いろんな食材を見てきたはず。料理家として、なぜ舟生さんの野菜に魅了されたのでしょうか。

崎元:完全に胃袋を掴まれましたね。この前のゴボウや長芋も美味しかった。香りも味も、他に代わりとなるものがありません。来年また食べられるのが楽しみです。お客さんからも『あの長芋はもうないのか?』と聞かれますよ。

舟生:ありがとうございます。目指しているのは、忙しいひとでも手軽に味わえるような、香りや味の豊かさが際立つ野菜。あれやこれやと添加しなくてもいい、シンプルな加工で美味しくなる野菜です。

崎元(きほこ):舟生さんの紫玉ねぎを切ったときは、味だけでなく、断面の緻密さにも舟生さんが表れていましたよ。割れた瞬間に『舟生さんがいる!』と思いましたね(笑)

野菜の住み心地を考えた野菜づくりを大切にする「さとわ農園」

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野菜は、農家の思いによって育ち具合が変わります。「さとわ農園」を運営する舟生さんの野菜づくりには、どのような哲学があるのでしょうか?

舟生:僕が大切にしているのは、野菜の住み心地。野菜は、実の中に種があるので、子孫を残そうとして実をつくります。だから『野菜に、どうしたらこの地で子孫をつなげるために頑張ってもらえるのか?』を考えながら育てています。

だから、オーガニックの大きな路線からは離れたくないのですが、こだわり過ぎたくもないんです。方法論に縛られるべきではないという考えです。野菜が喜んで充実することを目指して、土の状態や植物生理学を元に、必要だと思われる栄養素を適宜供給しています。

崎元(きほこ):子育てに似ていますね。子どもにあまり薬を与えない方針であっても、病気の時に子どもが苦しむのなら、それは親のエゴになってしまうのかもしれません。

「食べるものが身体を健やかにする」料理家が伝える八百屋

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崎元さんは、東京のレストランで働いていましたが、産地から届く野菜をビニール袋から取り出して料理をすることに違和感を抱き、生産者の近くにいたいという思いから長野県に移住しました。現在は、野菜の活用方法、お客さんの体に合う野菜の提案などを行う『料理家が野菜を売る』八百屋を運営しています。

崎元:食べるものが身体を健やかにする、と考えています。料理人として広く伝えて、社会を良い方向に進めたいという思いがあります。これは、『人間の身体と土地は切り離せない関係であり、その土地でその季節にとれたものを食べることが健康にいい』という『身土不二(しんどふじ)』の言葉がもとになっています。『夏野菜は体を冷やす、冬野菜は体を温める』と言われる関係の由来です。

崎元さんが運営する八百屋「よろづやいっかく」が扱う野菜は、その身土不二に沿った価値観に基づき、“長野県内でとれた旬の野菜” のみ。

崎元(きほこ):長野県の冬は、小松菜、白菜、大根くらいしかありません。だけど、ほかの地から取り寄せることはせず、その場にある野菜からレシピをつくり出して提案します。『さとわ農園』を含めて、畑が冷蔵庫の代わりのようなものですね。

畑に表れる、農家の人柄

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今回の対談は、舟生さんの畑を目の前にして行い、畑を眺めながら話が進んでいきました。畑を見ることは、崎元さん夫婦にとって、とても楽しい時間なんだそう。

崎元:畑は農家さんによって異なります。育てている野菜や畑の規模なども、農家さんの人柄が出る。舟生さんは、ナスの近くにバジルを育てることで、バジルの香りによってナスの味に深みを出したり、虫よけにしたりしていますね。畑づくりの奥深さを、お客さんにも知ってほしいです。まさに畑は、農家さんの芸術です。

対談途中で、採れたばかりのズッキーニとスナップエンドウを見せてもらうことに。一般的なスーパーに並ぶものとは異なることが、素人目にも分かります。

崎元:どちらも、ずっしりとした重みと、筋肉質のようなハリとツヤが素晴らしい。生でもえぐみが少ないから、後味が爽やかです。

試食をしたスナップエンドウには、外側の鞘(さや)にもぷりっとしたハリがあり、生で食べても甘味を感じられます。スタッフを含め、その場にいた全員がスナップエンドウの甘味に驚き、思わず手が伸びました。

八百屋がお客さんに翻訳する、ポテンシャルのある野菜

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「よろづやいっかく」に並ぶ野菜は、どれもポテンシャルのある野菜。ポテンシャルのある野菜とは、常温保存できる期間が長く、繊維が緻密で、重みがあり、生で食べてもえぐみが少ないことを意味しています。

崎元(きほこ):いい野菜には、うま味があるので、いつもどおりに味付けをすると味が濃くなってしまいます。料理家として野菜を美味しく食べる方法を伝えています。

八百屋は、農家とお客さんの間に入る存在。お客さんに、農家のファンになってもらえるように、野菜や農家の思いを、十分に理解して伝えることを心がけています。

崎元:いろんな農家さんとかかわっていますが、農家さん全員の野菜への愛情を、そのままの熱量でお客さんに届けたいと思っています。私たち料理家は、消費者言語も分かるし、生産者言語も分かる存在。つまり、翻訳家なんです。

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農家の思い、野菜の美味しさを伝える翻訳家である崎元さん。舟生さんは、翻訳家である崎元さんを通して、お客さんに伝えてほしいことはあるのでしょうか?

舟生:私が作る野菜は、シンプルな調理で美味しくなるものばかりなので、『味付けのひと工夫』のバリエーションを、お客さんに提案してほしいですね。例えば、お塩を少しだけ加える、焼くだけ、などのいろんな調理法で、野菜の良さを引き出してほしい。以前のHYAKUSHOのイベントでも、徹夜でうちの野菜のためにレシピをつくってくれたんです。いろんなバリエーションがあって美味しかったので、また期待しています。

シンプルな調理によって活かされる、舟生さんの野菜。『野菜の住み心地』を考えた野菜づくりによって、生命の強さが現れます。実際に畑を見て、野菜を食べて、3人のお話を伺うことで、ポテンシャルのある野菜とはどういうものなのか、身を持って感じられました。また、野菜だけでなく、農家さんの存在を、野菜の創作者として改めて敬服する機会となりました。

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◆崎元 伸郎さん、生歩子さん:さきもとのぶお・きほこ 写真中央・左
東京のフレンチレストランで働いた後、2007年に長野県に移住。
レストランのシェフなどを務めた後、生歩子さんと共に安曇野市のオーガニック八百屋『よろづやいっかく』を開店。味覚をテーマとした子ども向け料理塾なども運営している。
生産者と消費者をつなぐ翻訳者であり、生産者のストーリーを伝える伝達人の役割を担う。
https://www.facebook.com/ikkaku/

◆舟生 里さん:ふにゅうさとし 写真右
2016年新しいことを始めたいと一念発起し、コンサルティング会社を辞め長野県朝日村にて就農。
目指すのは、忙しい人でも手軽に味わえる、香りや味が際立つ野菜。
オーガニックの大きな路線からは離れたくないが、こだわり過ぎるわけでもなく、植物や土の状態を日々観察し、必要だと思われる栄養素を与える。
「一番は野菜が喜び充実した成長を促すこと」を信念としている。
今日の作業が10〜20年後の野菜を育てる。https://www.facebook.com/satowa831/

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