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カレンダーの向こう側〜農家のお茶の間〜 Vo5. 【大島 歩さん】中川村で実践したい。主体性を育てる農業×教育への思い

現在、農家プロデュース&デザイン集団の「HYAKUSHO」では、クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」を通じて資金調達に成功した「農家さんの 365 日をそのまま伝える HYAKUSHO カレンダー」の制作プロジェクトを実施中です。

カレンダーは、ひと月にひとりずつ農家さんをご紹介。農家さんへの取材から見えたストーリーを通して、農家さんと消費者を繋げることを目指し、2022年に向けてお届けできるよう、走り出しています。

こちらのnoteにて展開するWEB連載「カレンダーの向こう側〜農家のお茶の間〜」では、農家さんへの取材から見えた「つくり手の生き方」を、より詳しくお伝えしていきます。ぜひ読者の皆さんにも、農家さんと一緒にお茶を飲みながら、お話を聞いているような気分を味わっていただけると幸いです。

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今回の農家さんは、長野県中川村にある「大島農園」の大島 歩(おおしま・あゆみ)さん。およそ5ヘクタールにも渡る畑で、農薬も化学肥料も使わずに、サラダで使われるような葉野菜を中心に栽培しています。

取材した4月後半は、中央アルプスには雪が残り、里山には山桜があちらこちらに咲いている気持ちのいい時期。大島農園のロゴのテーマとなる「五人坊主の野菜」の由来となった、南駒ヶ岳のカール上部にある雪形「五人坊主」が綺麗に見えます。

畑の近くにある神社の境内にて、とってもチャーミングな大島さんが起点となる、ほっこりとした笑いに包まれながら、取材が行われました。

大島農園は、旦那さんの大島太郎さんを代表として2004年に開園、2010年に個人事業から法人化をしました。仕事や子育てをする中で大島さんが感じたのは「主体性の大切さ」です。「農業と教育を掛け合わせ、主体性を育てる教育を地域で支えたい」という思いを伺いました。

飲食店から頼りにされる、困った時の大島農園

大島農園が育てる野菜は100種ほど。多品目かつ通年販売をしています。主力野菜は、水菜や、ルッコラ、わさび菜など、サラダで使われるような野菜です。

「有機栽培は虫が付いてしまうイメージをお持ちの方もいらっしゃると思うんですけれど、有機栽培でも、土作りができていれば虫にボコボコにされず、綺麗に育つんです。」


売り先は有機野菜を扱う地元の卸業者や、八百屋、地元の直売コーナー、飲食店など。そして個人のお客さんへはに、野菜ボックスを直送しています。

いろんな種類の野菜を扱い、ハウスも活用することで年中安定的に供給できる大島農園は、飲食店からも「困った時の大島農園」と頼られています。

また、野菜の袋につけるポップには、野菜の名前や特徴、食べ方を記載。ポップが、大島農園の目印です。

「例えばビーツのような、普段スーパーでは見かけないような野菜もあるので、お客様が手に取る時の敷居を下げるために付けています。『食べ方のヒントが書いてあって嬉しい』とおっしゃるお客さんも多いんですよ。」

駒ヶ岳

主体性を育てる農業を通じて、地域を楽しくしたい

大島さんが生まれ育ったのは鎌倉市。幼少期から秘密基地を作って遊ぶなどして山に親しみ、高校では山岳部で山を縦走。大学に入れば日朝関係史を専攻しましたが、その頃から農業に興味があったのだそう。

「面白い農家がある」と話を聞いたのは、愛媛県にある農業法人「無茶々園(むちゃちゃえん)」。有機栽培でみかんを育てるだけでなく、漁業や福祉事業も展開している企業です。

「おもしろそうだ、と新卒で飛び込みました。いち民間企業だけど、地域作りのようなことをしている企業です。今でも影響を受けています。」

そこで出会ったご主人と結婚した後、ご主人の地元である中川村で農業を始めましたが、中川村でも同じように「地域を楽しくする働きかけをしたい」と語ります。

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大島さんが目指すのは、みんながやりたいことに従事できて、楽しく生きていける世界。

「壮大だけどつくりたい。そのためには『主体性』をね、学校教育で育てる必要があると思うんですよね。」

子育てを行う中で見えたのは、学校の子ども達が、成長に応じて受動的になっていく姿。例えば、保育園に通うような子どもたちは、先生の問いかけに対してガツガツと手を挙げて自分の主張ができるのにもかかわらず、大人になるにつれて、だんだんと周囲の目を気にして、控えめになっていくことが見受けられました。また、指示がないと動けなかったり、疑問点をそのままにしたりしてしまう、組織内の大人たちの姿勢も気になります。

「その人たちが悪いわけではなくて、周囲に合わせる姿勢を求められたり、失敗が許されなかったりする環境があって、適応しているうちに、そうなってしまうんだと思います。

もし、みんなが主体的になれたら、もっと楽しくなるって思うんですよね。受動的で誰かのせいにしているうちは、先に進めないんですよ。自分が主体になって問題を変えていこうと思えたら、自由になれる。きっと、何でもできるんですよね~。」

大島さんが中川村でみんなが楽しく生きる世界を実現させるため、土台として整えたいのが学校教育。子どもたちの主体性を育む授業として、農業を取り入れることを考えています。

農業で学ぶ力

「農業の文脈では、生き物、計算、体を動かすことなど、学校の授業でやっているようなことを学べます。

そして、食べることは生きる力。一生にわたって糧となる大事な勉強だと思います。」

学校教育と農業は、親和性が高いとするのが、大島さんの持論です。

「地元の農家さんや、おじいちゃんおばあちゃんによる農業担任をおきたいんです。学校の先生たちは日々の授業や行事の準備、実行、振り返り、個々の子どもたちに向き合うことに、めいっぱい時間を使っていらっしゃる。そこで私たちが、農業学習のお手伝いをして、授業を担当、サポートするのがいいと思うんです。」

地元の農家やベテラン世代の方たちが、子どもたちと触れ合う機会にもなり「幅広い世代が、農業担任を通して生きがいを感じてもらえたら嬉しい」と話します。

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授業カリキュラムは、主体性が育まれるものが理想です。

「大人たちは見守るだけ。子どもたちは、教えられるのを待っているのではなくて、何を育てるか、何をするか、自分たちでデザインできるようになったらいいですよね。」

子ども達の力を引き出すために、大人たちはあえて教えない。そうすると、質問が来たとしても、まずは自分で考える癖がつきます。これは農業だけでなく、いろんな場面で応用される力です。

さらに、教材は計り知れない自然。怒っても泣いても、日が照らないときもあれば、雨が降り続けることもあります。

「自然に感動できることもあるでしょうし、子ども自身が率先して気づいて動かなくてはならないこともあるでしょう。心を広く保っていないと、きっと、やっていられないこともあるでしょう。

答えとなるものを教えたとしても、その通りに行かない、それを上回るのが、農業です。自分の思い通りにできない要素が多いというのが大変さであり、魅力なんです。」

思い通りにいかなくても、受け止めなくてはならないことがあるのが、農業。

「だけど、最後においしく食べられるご褒美があるのが、強力ですよね。」

収穫を目指して、がむしゃらに進んでいる過程には、周囲に合わせたり、失敗を気にしたりする暇なんて、ないのかもしれません。

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学校給食から、地域をつなぐ

今後は、まず給食を通して、地域と学校のつながりを作りたいと考えます。

「中川村の給食はとても良いんですよ。地元の農産物をできる限り使おうと、給食センターの方は動いている。それを限りなく100%にしていきたいですね。」

給食は、食と地域と農業、子どもと大人など、あらゆるものが繋がる結節点なのかもしれません。いろんな可能性が広がっていきます。

「そこで築いた繋がりを通して、それぞれの農家さんの進みたい方向が、新たに見えてくると思うんです。例えば、農家さん同士が畑を見学し合って、自分の知らなかったやり方を見つけることができる機会を得られますし、農業の新しい魅力を見つけることもあるでしょう。みんなの心がパワーアップしていけたらいいなと思います!」

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日の光が差し込んだかのように、そこにいるだけで明るい雰囲気を作り出す大島さん。これからも大島さんの周りでは、みんなが楽しく生きられる世界を構成する活動や笑顔が、どんどんと生まれていくことでしょう。


大島歩

株式会社大島農園勤務。主な仕事は、出荷作業と雑用。最近は、村や近隣のいろんな分野の方とコラボして、
「皆が好き勝手やってたら、いつの間にかサステナブルで、メチャんこ面白い村(地域)になっちゃったね!」という未来を作ることに、心を動かしている。


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