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『林ヲ営ム』を読んで、まとめました

こんにちは!今日は「林ヲ営ム」赤堀楠雄 (2017)を簡単にまとめていこうと思います。先日の「絶望の林業」まとめを作成した後、次に纏めるべき書籍を募集したところ、本書が挙がりました!

どうすれば山と向き合い、山間の暮らしを成り立たせることができるのか?現状が厳しいことを踏まえながら、ヒントとなる要素を各地の林業家へのインタビューを中心に論じているのが「林ヲ営ム」です。

木の価値を高める必要があることを示す第1章、実際に価値の高い木を育ててきた例を見せる第2章、自伐林家として林業を成立させている方々を紹介する第3章、素材以外の要素で価値向上を論じる第4章からなります。

※まとめませんが、プロローグ、エピローグもぜひ読んで頂きたいです。智頭でご活躍されている林家の方が出てくるのですが、西粟倉のお隣なので勝手に少し親近感を覚えています(形態はウチと大きく異なりますが)。

第1章 木の価値を高めて林業を元気にする

林業の現状を取りまとめ、高い木を育て、高く売れる市場を作る必要性について述べています。

日本は国土の約7割が森林だが、そのほとんどは人との関係が希薄な山である。手入れも利用も滞っている。
森林資源量のデータはあやふやだが、木材自給率の向上が目標として掲げられているように、今後も利用拡大の施策は行われるだろう。
しかし、需要拡大は合板やバイオマスが中心で、原木価格は上がらない。素材生産を行う事業体には良い状況だが、林家には利益が残らない。

※素材生産を行う事業体=森林組合や林業事業体ほか、実際に伐採を行う立場の組織など。林家=山林を実際に所有する人たち。

また、工場に安価で安定的に供給する能力ばかりが重視され、品質の良いものを提供する能力=木を育てる行為が軽視されている状況にある。
本来は、木を育てる行為にこそ意味がある。雇用機会を創出し、木への愛着を生み出すことが、森林を健全な状態に保つからだ。
状況を変えるには、リフォーム用の板材など、良質製材品の需要を伸ばすことが重要。これは林家だけでなく、中小製材所にも恩恵がある。
良い木を育てることを考えると、自伐林家で経費を削減したり、兼業で収入源を確保するのは有効だが、根本的解決には不十分だ。
コストダウンだけではなく、より高く売れる木を育てること、そのような木が売れるマーケットを作り出すことこそが求められている。

第2章 価値の高い木を育てる 導入部

では、どのようにして価値の高い木は育てられるのか?各地の取材を中心に、方法を探ります。

自然条件により林業の条件は大きく異なり、それぞれの場所に適した方法がある。一律なやり方では、技術力の低下を招く。
間伐や枝打ちは、安定した品質の木を育てるための作業、目標とする材を得るための作業だ。林内の環境改善だけが目的ではない。

ここから、上記を体現する例として、吉野林業の岡橋さん・小久保さん・民辻さん、撫育専門業者の譲尾さん、尾鷲の速水林業さんの取材記事が続いています。

ここでは総括としてエッセンスをまとめていますが、具体の話はぜひご一読を。セロテープそうやって使うんだ…など、興味深い話ばかりですよ!

第2章 価値の高い木を育てる 吉野林業

まず、作業道で有名な岡橋さんを初めとして、吉野の林業に携わる3人の方への取材が行われています。ざっくりと一括でまとめました。

吉野での林業は通常の4倍であるha12,000本程度の密植を行い、これを200-250年以上の時間をかけて育て続けている。6-8年で除伐、20%程度。その後5-8年で10%から20%程度の間伐。20-30年でやっと他所と同様のha3,000本程度に落ち着く。120年から150年まで育てる間に15回ほど間伐に入る。
間伐木を選ぶ役割の「鉈取り」には高度な技術が要求され、その水準に一生辿り着けない場合もある。流派により様々な仕立て方があるが、どれも遠い未来を見据え、複雑な要素を整理した上で間伐を行う木々を選択している。上方伐倒や間伐頻度も、その姿勢から生まれるものだ。
吉野林業の真髄は、自然枯死する程度まで育てきる「木の命をまっとうさせよう」とする姿勢にある。

第2章 価値の高い木を育てる 譲尾一志さん

次は枝打ちだけで200本以上の鉈を駆使するなど、育林技術の研鑽に30年以上を費やしてきている撫育専門の一人親方、譲尾さん(兵庫県豊岡市)への取材が続きます。

譲尾さんは、適寸による四面無節の製材品、床柱に使える磨き丸太を得ることを想定して枝打ちを行う。枝打ちの時期・箇所・道具・手法などは、巻き込みがどのように行われるかを想定した上で、最終製品の価値が最も向上するように決定され、熟練の業で遂行される。
研究のために行っている植栽についても、譲尾さんは厳しく考察と実践を繰り返すことで真っすぐの木を育てている。スギやヒノキの種類はもちろん、植え方から支柱の太さ・素材までこだわり、計画した通りの木が育つように行われており、偶然の要素を排除することに苦心している。
譲尾さんは、自然を観察し「木の立場にたって考え」ながら、試行錯誤を繰り返し、より良い方法を常に追求し、進歩し続けている。

第2章 価値の高い木を育てる 速水林業

古くからの林業地尾鷲にあって、日本で初めてFSC認証を受けるなど最先端を走り続ける速水林業さん。そこで行われている幾つもの挑戦について触れられています。

速水林業では、商品価値の高い「年輪幅がそれなりに細かく均一で、通直で芯ずれがなく、節がない木」を育て、林業経営を成立させることが常に意識されている。広葉樹を残す環境配慮型の仕立ても、ありとあらゆる要素を考慮した職人により行われる造材にも、冷静な経営の視点が入っている。
材価の変動に対応していくためにも、疎植や枝打ちをせずにおく木を作るなど、実に多様な取り組みが行われている。それらの効果は全て数値化されており、例えば保育につては80年代頃の1/4に近い工数で行われている。目指すべき品質が意識されるからこその合理化である。
速水林業は、林業経営を成立させるための新たな挑戦を続けながらも、これまでよりも質の高い木を育てる矜持を持ち続けている。

第2章 価値の高い木を育てる 人材・造材

この章における主な取材はここまでで、後は「価値の高い木を育てる」ことが人材獲得に有効であることと、造材がその要であることを論じています。

低コスト化は必須だが、質を無視してしまうと創造性や技術が不要になり、仕事としての魅力が逓減し人材獲得に不利だ。
最終商品により、許容できる寸法や必要な余尺が異なる。市場状況はもちろんだが、最終商品を想定して造材を変える効果は大きい。

取材の項目もそうですが、こちらについても具体的な方法論などは本書を読んでくださいね!

第3章 木を育て続ける 導入部

この章では、山間の暮らしを成り立たせるため、単純に今あるものを収穫するだけでなく、木を育て続けるにはどうすればいいか?という視点に立って、自伐林家について詳しく書かれています。

零細な林家の主導権を奪うような、補助金の仕組みは残念だ。森林組合などが集約する場合、自伐林家の意志は尊重されるべき。
父祖の残した山林から価値を取り出し、なるべく経費を他人に払わないという意味において自伐を行うことは理に適っている。
しかし、木を植え育てるということができなければ経営が成立しているとは言えない。木や山の価値を高め続けることが必要だ。

ここから、第2章同様、上記を体現する例として5つの自伐林家が紹介されます。

第3章 木を育て続ける 5つの自伐林家

愛媛県 菊池俊一郎さん:

祖父の代より林業経営を始め、28haを所有する。1年のうち2ヶ月を枝打ちに割かざるを得ないなど、育てる作業まで含めると林業では赤字である。その分は、ミカン農業で充当している。しかし父祖より受け継いだ木々を収穫することにおいては、補助金などを利用することなく、なおかつ自らの人件費以上の収益を出すことを前提としている。製材の様子を観察することで得た知識をもとに、木が立っている状態で概ねの造材につき目安をつけることは、儲けを確保するには必須だという。育林においては、通常よりも高密度な植栽・多様な品種の活用・大きな木から抜く間伐手法など、省力化を念頭に独自の手法を開発している。

福井県 八杉健治さん:

所有山林以外にも管理を任せられているところを合わせ、年間250-300m3の生産を行う。120年生の優良大径木の生産が主。育林においては雪折れを防ぐため、被害の統計に基づいて植栽密度を変更したり、チルホールのようなものを使って雪起こしを行うなど、対策を行ってきた。芯去り材を多く製材する地域性を考慮し、年輪が3-4mmで揃うように間伐と枝打ちは高頻度で行う。葉枯らし乾燥なども行うため、年間を通して作業が多く忙しい。枝打ちを12mまでした木など、自らが植林から手掛けた山もあるが、伐期まではあと70年ある。前の世代が育ててきた苦労を思うと、次の世代に木を育てていこうと考えるようになると説く。

和歌山県 大江俊平さん・英樹さん:

98haの山林を所有。古いものは100年を超えるが、主なものは40-50年生。現在は枝打ちされた柱適寸のヒノキを主力として年間300m3程を間伐にて生産。将来的に70-80年生の良質材を生産できる山に仕立てる予定。高密度の路網を作設し、素材生産以外のメニュー=花卉生産にも活用している。路網のおかげでコウヤマキの生産性は非常に高く、また日本一の品質と新鮮さを誇るサカキを富裕層向けに販売するなどしている。年に300回は山に入る俊平さんは、息子の英樹さんに幼い頃から林業のことを教え、後継者の育成にも力をいれてきた。

岡山県 奥山総一郎さん:

岡山県森連職員として働く傍ら、休日は所有する6haの山林価値を高める山仕事に没頭する。東京農業大学林学科出身だが、仕事が上手く行かず鬱屈していたときに山に入ったことを契機に山林管理に「目覚めた」。簡易製材機で六次化を行ったり、仕事上で得た知識や技術などを用いて試行錯誤しながら山と向き合う。山から発生した収益は、全て山のために使うという制約を設けている。代々継がれている林内の祠や、祖父の詠んだ和歌などから、自分の代で終わらせるわけにはいかないという想いを新たにする。「子どもの日いちばん好きな山に行き まだ見ぬ孫へ栗の穂を継ぐ」

熊本県 栗屋克範さん:

農業を営みながら、40haの自家山林で撫育を行う。間伐や枝打ちはもちろんのこと1本1本を丁寧に見る施業。非皆伐を基本方針に、長期的な成長が見込める品種を中心に短伐期に適した品種を混植し、質の高い木を搬出しながら、100年生や300年生を目指す。質の良い木を育てることは今やあまり見返りのない作業とされがちだが、市場に出しても丁寧に育てた木は掽積みされることなく1玉で評価されるため、良い価格になると反論する。農林業を丁寧にやることで、自ら独立した暮らしを営むことができると言う。

これらの例を並べた上で、著者赤堀さんの自伐林家に関する評は以下のようになっています。

"山間地域に居を構え、そこで与えられた条件のもとで、自らの才覚や体力を生かして暮らしを立ち行かせている自立した生活者" p.178

第4章 木の価値を高める木材マーケティング

最終章は、育てた木について、どうすれば更に価値を高められるのか?という点について論じられています。

丸太は農製品などと異なり、消費者がそのままでは使用できない。故に、それまでの加工や流通といった工程が重要になる。
建築工法の変化や住宅市場の構造変化により無垢製品の需要が大幅に減少したため、良質材の価格は名産地においても下落している。
「間伐材」というコピーや、森林整備への貢献を過度に謳うことは、品質本位の販売を妨げることになるため、避けるべきだ。
品質に関する規格を統一し、在庫検索などを可能にする必要がある。その上で、規格のみでは不十分な部分を材木屋が担うのが良い。
木造建築の補助において「木を現しで使うこと」を条件にするなど、良質な無垢製品が使われるよう制度設計を行うことが求められる。
林業には就業促進・キャリアアップの研修制度が組まれているが、木材産業においては業界横断的な制度が無い。何より、明るい展望が必要だ。
技術力のある大工や、木材に関する知識のある建築士やデザイナーの育成は急務だ。人材の不足が、質の高い木材利用の大きな障害である。

ひとこと

正直言って、あまり上手くまとめきれませんでした。しかし、あまりまとめてどうこうする本ではない!というのが僕の感想です笑 というのも、やはりこの書籍の魅力は取材における生の声や、具体的な手法の部分にあるのであり、それは一言一言を読んでこそ伝わるものだからです。ちょっと逃げ口上ぽくなってしまいましたが、本心です。

さて、本書では一貫して「良い木を育てる」ことの大切さついて述べられていましたが、林業の面白さ・創造性はまさにここにあるのだよな、と再認識しました。そして、印象的なのは最終的な商品をイメージしながら山づくりをしている方が多かったことです。戦後の拡大造林から始まった若い林分でも、そのような仮説が無いと色々とブレてしまいますね。

また、世代を越えて木を育てるという営みは、その育林の技術だけではなく、その周辺に関わるあらゆるものに対応した強靭な環境づくりも含んでいることも痛感させられます。自分たちがこれからどうすれば良いのか?すぐに答えは出ませんが、林業家の皆さんが持つ矜持や覚悟に尻を叩かれた気持ちです。本当に、そういったものの息遣いを感じられる本でした。

がんばっていきましょう。

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