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『絶望の林業』を読んで、まとめました

こんにちは!今日は「絶望の林業」田中淳夫(2019)を簡単にまとめていこうと思います。なかなかセンセーショナルな書籍で、業界関係者からは様々な感情を引き出した本です。

林業をあまりよく知らない方が業界を知ろうという場合、まず「森林・林業白書」は外せないと思います。ですが、それだけでは足りない視点があると感じさせる本になっています。

暗澹とした気持ちになるので、個人的にはあまり何度も読み返したい本ではありませんが…。よくある誤解をただす第一部、懸念点や問題点を羅列する第二部、希望を見出そうとする第三部、の構成です。

第一部 絶望の林業

林業にまつわる希望的な推測や誤解を、紐解いていく章です。

1. 林野庁は林業を成長産業にすると叫んでいるが、林業は現状成長産業になりえない。投下する費用に比較して生み出す売上が低いためだ。
2. 「木づかい運動」は山林を守ると喧伝しているが、実際は山林破壊だ。売価に影響を受けない伐採が持続性の無い皆伐を招くためだ。
3. 業界関係者は不振の原因を「外材が国産材に比べて安いから」と取り繕うが、これは嘘だ。現在の国産材は外材よりも安価だからだ。
4. 業界関係者なら林業の全容を把握していると思いがちだが、把握できているひとはいない。それぞれ個別の作業内容のみに従事するからだ。
5. 間伐は経済活動に繋がらない活動だとされているが、本来は利益を生むことができる。利用間伐は林業において重要な活動だからだ。
6. 国産材を用いた家屋は高価になると言う工務店があるが、これは嘘だ。木材価格が最終製品に与える影響は少ないからだ。

第二部 失望の林業 ①林業現場

直接的に林業に従事する、現場についての指摘です。

1. 所有者不明、境界未確定により作業が不可能な山林が多い。所有者の特定、境界の確定にはとてつもない費用がかかる。
2. 皆伐後に植林が行われない山林が多い。そもそも植栽が行われない場合、獣害により成長しない場合がある。コンテナ苗の技術革新も不十分。
3. 適切な間伐が行われない山林が多い。技術が無い事業者による列状間伐や、不十分な間伐が横行している。
4. 高性能林業機械は購入費も運用費も高く、適切な作業面積を得るためのコストが大きい。大型機械のための作業道は崩壊も起こしやすい。
5. 山主、伐採業者、木材流通業者、製材業者、工務店…など、各関係者はお互い利益を奪い合い、情報の流通が行われない。
6. 林業従事者の労働災害千人率は全産業平均の15倍、建設業の7倍である。安全性が低いこともあり、就業5年以内に半数が辞める。

第二部 失望の林業 ②林業家

山林管理に関わるそれぞれの組織や立場についての課題です。

1. 森林組合は植林・育林が主体の組織から伐採・搬出が主体の組織へとの意識改革が必要だが、補助金依存体質など改革への芽が見られない。
2. 誤伐を装った盗伐や再植林が困難になる伐採作業など、倫理的でない行為を行う素材生産業者が増えている。
3. 自伐型林業は小規模、副業的にならざるを得ず、技術の習得が困難。また請け負いでやる場合は、他の林業との違いが出ない。
4. 皆伐し放置する山主や、山林に興味のない山主が増えている。山林は売却しようにも困難で、所有しながら管理しない山主も多い。
5. 国産材を活用するにおいて、乾燥状況など品質の低い商品を販売する木材業者が多い。営業も行われず、合法証明も制度的に欠陥がある。
6. 木造建築はクレームが多くなりがちで、国産材は特に品質が低いため建築家は敬遠する。見分けがつかないが品質の安定した外材に流れる。
7. 木育はその対象も目的も曖昧で多様であり、効果も疑問が残る。自然に触れたからといって、自然を守る立場に育つとは限らない。

第二部 失望の林業 ③木材商品

次に、商品としての木材が置かれている状況です。

1. 木造建築は減少しているが、コンクリート施工の型枠や、合板材といった消費は存在する。問題は利益が薄いことだ。
2. 木造建築においても、コストや手間を考えて目に触れる部分で木を使わないことが増えた。目に触れないことで、今後も減るだろう。
3. CLTが新素材として注目されているが、需要がなく、原材料の供給にも不安が多い。林業や山村の振興に関する影響は限定的だ。
4. CNFは技術的に未熟で、コストや廃棄処理等多くの障壁が想定される。原木そのものが必須ではなく、林業振興にも繋がらない。
5. バイオマス発電は運送などを考慮するとカーボンニュートラルではない。またFITに頼っているため二十年後には破綻する。
6. ハードウッドや大径材は世界的に資源が枯渇し、環境破壊を招いている。そんな中、日本は大径材を育てる前に伐採しようとしている。
7. 育林コストが度外視され、補助金による収穫の結果、国産材は世界一安く輸出されている。技術力もなく安さでしか戦えないからだ。

第二部 失望の林業 ④林業政策

ラストは政策についての問題点が述べられます。

1. 森林の公益性よりも素材生産量を重視した補助金は、素材生産者にも補助金目的の事業を行わせることになり産業を壊死させる。
2. 木材生産量を政策の目標とした結果、市場に見合わない生産活動、伐期や樹齢平準化への不自然なこだわりが発生している。
3. CO2の吸収量増加に間伐が効果的としたり、複層林施業を推し進めるなど、科学と政策、現場と政策の間に乖離が見られることが多い。
4. 合法木材の流通を目的としたクリーンウッド法は、国際的な基準からすると、違法木材使用の隠れ蓑とも言えるような法律だ。
5. 林業を学ぶ大学校などが多く設立されているが、定員割れと卒業後の進路、講師となる人材、どれをとっても課題が大きい。
6. 赤字事業を成功例として紹介・視察したり、白書の単位が統一されておらず林業の実情が見えなかったりと、不誠実な事例が多い。
7. 数十年の長期視点が必要な林野行政の担当者は、数年で任期を迎える。地方自治体についても、専門家と呼ぶべき人材が存在しない。

第三部 希望の林業

持続性を保つことを条件とし、幾つか「希望」の事例が紹介されます。

1. 江戸後期から昭和初期の吉野林業は造林・搬出技術、多様な素材の生産能力、商品化に向けた情報収集能力を兼ね備えていた。
2. スイスエメンタールの恒続林は多様な樹種が自然に任せて育成されており、環境や防災、経済的にも強靭になっている。
3. アメリカにおけるTIMOやT-REITなどの森林に関する投資ファンドは、他の金融商品には無い性格を持ち安定した森林経営が可能だ。
4. 家訓や社是がある場所や、愛がある篤林家の山林は恒続林としての手入れがされるような場合がある。

そして、最後のまとめとして幾つかの提言。

長期的視点で動く森林経営を、別の収益源を以て支えることでバランスを取るべきだ。収益源としては、森林を別の視点で活用する道もある。
林業は多様化が必要だ。たとえば樹齢、樹種、産物など。多様性は、環境だけでなく経営にとってもリスクヘッジに繋がるので必要である。
多様な製品を販売し価値につなげるための技術力や情報力を養うことも必要だ。将来の需要予測ではなく、今あるものを見る目利きが大切。
行政は、情報の収集と提供、関係分野の人間をつなげるコーディネイト、人材の育成に力を割くべきだ。

ひとこと

いかがだったでしょうか?個人的にはファクト的に?なところも幾つかと、全般的にネガティブな言い草が多く、やはり読んでいて気が滅入るというのが正直なところ(特に、これはウチのことでは…?と思う部分なんかもあったりして)なのですが、重要な指摘も多いです。特に、多様性をどのように日本の山林へ導入していくか?は重要なテーマだと考えています。

株式会社百森は、西粟倉村の主催する、百年の森林事業ver2.0の会議にも参加しています。まさに上記のような森づくりを議論する場ですが、こういった自治体主導の「意識高い系」取り組みは、口だけで実態が伴わない・どうせ失敗するに違いないなどと冷笑されることも多く、事実として成功例は多くありません。

しかし、そうやって距離を置くだけ、絶望するだけでは何も始まりません。私達は森林管理のど真ん中で、多くの関係者の皆さんと協力していきながら、様々な取り組みを行い、山と人がともにある社会をつくり上げます。色々と気になる方、ヒトコト言いたい方も多いと思います。ぜひ一緒にやっていきましょう。お待ちしています。

"Never doubt that a small group of thoughtful, committed people can change the world. Indeed, it is the only thing that ever has."

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