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林業は国防だ!元フランス外人部隊の山守任務とは

この記事では株式会社百森(以下:百森社)スタッフへのインタビューを通して仕事の効率化・仕組み化を探ります。インタビュー第1段・長井美緒に続く第2弾は元フランス外人部隊という異色のキャリアをもつ流浪の山守・齋藤明斗です。​​

話し手 齋藤 明斗
百森社の山守。1985年生まれ京都府出身。高校卒業後、海上自衛隊、陸上自衛隊を経てフランス外人部隊に入隊。帰国後は京都府立林業大学校で森林公共政策について学んだのち西粟倉村へ移住。百年の森林事業の可能性に惹かれ百森社に参画。有事の際には出動する即応予備自衛官でもある。森林施業プランナー。

聞き手 羽田 知弘
合同会社セリフ代表。1989年生まれ愛知県出身。三重大学にて森林計画学を専攻。住友林業フォレストサービス㈱を経て、2015年に西粟倉村へ移住。㈱西粟倉・森の学校(現:㈱エーゼログループ)を経て独立。くくり罠の猟師としても活動する。@hada_tomohiro


海上・陸上・フランス外人部隊と自衛隊キャリアドリフトを経て林業へ参戦

ー齋藤さんといえばフランス外人部隊出身という異色のキャリアをもつ山守ですが、百森社に参画するまでの経歴を教えてください。

齋藤  人生迷子のような経歴でスイマセン(笑)まず地元の中学校・高校を卒業してから恩師のすすめで海上自衛隊に入隊しました。イージス艦という大型の艦艇で勤務していました。3ヶ月以上の航海に出ることもあり、当時の住所は船上でしたね。その後、農林業に関わる仕事がしたいと京都府立農業大学校へ入学したのですが、色々あって卒業後は陸上自衛隊に入隊しました。その頃から林業に興味があって災害派遣や演習場整備で山に関わる機会もあると楽しみにしていたんですが、チェーンソーを握ることは一切なく、ひたすら銃剣道に打ち込む日々を送っていました。

ーフランス外人部隊への入隊前にすでに海上自衛隊と陸上自衛隊でキャリアを積んでいたんですね。

齋藤  ある日、海上自衛隊時代の友人から突然連絡が来て、「フランス外人部隊に入隊するからもう会うことはないかもしれない。だから最後に会えないか」と言われたんです。訳も分からず友人に会って話を聞くうちに、フランス外人部隊に志願するなんて面白そうだなと一気に興味が湧きました。そこで一緒に志願しに行かないかとトントン拍子に話が進み、2ヶ月後には片道切符を握りしめて渡仏していました。フランス語どころか英語も全く話せなかったんですけど(笑)無事に二人とも入隊できて相方は歩兵連隊、わたしは戦車連隊に配属されました。紛争地に派兵されることもありましたよ。

ーサクッと話してくれましたが、英語もフランス語も話せないのに渡仏して外人部隊として働くって無茶苦茶な人生ですよね。そして最後は白米が食べたくて帰国したと聞いています。

齋藤  そうなんですよっ!毎日硬いパンばかりで白米と味噌汁の味が恋しくなってしまって。アジアン商店で買った安い炊飯器でタイ米を炊いて紛らわせてました(笑)そして5年の任期を終え帰国したら30歳になっていて、そろそろ地に足を着けようと林業に携わる道を選びました。だったらしっかり勉強しようと京都府立林業大学校に入学しました。そして先進林業地の視察として訪れたのが西粟倉村でした。

ー当時、視察の受け入れ企業として㈱西粟倉・森の学校の木材工場を案内させてもらったのが懐かしいですね。異様な存在感を放つ浅黒く眼光の鋭い男がいましたから(笑)その後インターンとして百森社に関わり始め、卒業後に合流して今に至るんですね。ヤバい経歴の男が百森社に入社するぞと村でも話題になってました。

山を良くしたい気持ちは皆同じ。だから言葉が通じればなんとかなる

ー齋藤さんの山守としての仕事について教えてください。

齋藤  西粟倉村内の山林を集約・団地化して設計管理しています。分かりやすくいえば山主さんから預かった山を適切に管理するのが仕事ですね。山主、役場、素材生産業者など様々な関係者と協力しながら仕事を進めています。

ー現場プレーヤーというより現場監督のような立ち位置で仕事を回しているんですね。自然相手の仕事ですし担う役割も多いので大変なことも多いんじゃないですか?

齋藤  そうですね。天気が相手の仕事なので予定通りに仕事が進まないことも多いですし、同じ山は2つとないので現場を見ながら都度判断しなければいけないことの連続です。また、さまざまな関係者とコミュニケーションを取りながら進める仕事なので人との向き合い方は大事ですね。立ち位置も異なるので衝突することもあります。でも、みんな日本人なので言葉は通じるんですよ。フランスでは言葉すら通じない人とも一緒に働いてきましたから(笑)言葉はもちろん価値観も文化も違う人と一緒に任務をこなすって大変なんですよ。でも、ここは日本だから言葉は通じるんです。話し合えば分かり合える。なにより良い山をつくりたいという関係者の思いは共通なんですよね。

ー異国でサバイブしてきたゆえの力強さを感じますね。齋藤さんは山主さんにきれいな山を返したいとよく言っていますが、齋藤さんの仕事のこだわりについて教えてください。

齋藤  山をきれいにしてお返しするのはもちろんなんですが、間伐ひとつとっても残された木に傷を付けないようにしたいですね。あくまで良い木を残して仕立てていくことが主目的ですから。また、道付け時の水の処理は特に気を使っていますね。道づくりは水の処理が9割といっても過言ではありません。水の処理が甘ければ土砂災害にも繋がります。いまこの瞬間がきれいなだけでは不十分で10年後20年後にも山主さんに満足してもらえるような山づくりを意識しています。

いつも最高のパフォーマンスを発揮するため任務をこなすように仕事をする

ー業務効率を高めるための日々の工夫について教えてください。

齋藤  体力勝負の仕事ですから段取りは特に意識していますね。1日の作業内容のスケジュールはもちろん、歩くルートも意識してます。山の中では目的地への直線進行が最短かつ負荷最小のルートにならないことも多いですから。最小の労力で最大の効果を発揮できるルート取りを事前に決めてから行動に移すようにしています。また、現場での段取りが悪いとひとつの作業でも積み重なれば大きな時間のロスにつながります。そのロスひとつで作業時間が足りなくなり翌日に繰り越すこともゼロではありません。立木にテープを巻くという動作ひとつをとっても何回の挙動でこなせるかなど常に考えながら作業しています。

ー齋藤さんのテキパキ感って自衛隊での経験によるものなんですか?

齋藤  完全に自衛隊で人格をつくられましたね(笑)仕事は任務。任務は必ず達成する。規律は乱さない。やるときはやる。休むときは休む。休まないといざというときにもパフォーマンスを発揮できません。軍人にとっては休むことだって任務ですから。メリハリを大事にしています。

ー齋藤さんって仕事以外のシーンで会ってもまったく気を抜いてないですもんね(笑)前回のインタビューでは山守をバックオフィスから支える長井さんを取材しました。長井さんとの関わり方はどうですか?

齋藤  マネジメント面で非常に助けていただいています。日中の現場を終え、疲れ切って事務所に帰ってきてパソコンを開いても頭が回らないことも多いんですよね。どうしても抜け漏れしてしまうタスクがあるんですが、長井さんが「あれやった?これはやった?」と状況を整理しながらお尻を叩いてくれます。そして、マニュアル化で助かってますね。軍人はマニュアル人間ですから(笑)依頼された任務はきちんとこなしたい。でも、わたしが百森社に入社した時にはマニュアルと言えるものがほとんどなかったんですよ。今では山林管理という任務を達成するための一つ一つの作業が可視化されてだいぶ楽になりました。一番助かっているのが進捗管理ツール・Redmineを使ったチケット管理ですね。タスクをチケット化することでやるべき業務が明確になりました。プロジェクト全体のボリュームやタスクの優先順位、進捗状況等をガントチャートで把握することができるようになったのは大きいです。やるべきことが分からない霧中航行の状態が一番ストレスですから。全体のタスク量が把握できるようになっただけでも心にだいぶ余裕ができました。

1000人に1人が死ぬ林業界は紛争地と同じぐらい危険

齋藤  日本の林業従事者って4.4万人を切ってるんですよ。国内産業の中でも労働災害がトップレベルに多くて毎年30〜40人が亡くなっています。ちなみに東京ドームの収容人数は5.5万人です。つまり日本の林業従事者全員が東京ドームに集まっても全然満員にならないんですよ。そしてドーム内では1〜2週間に1度は事故が起き1人ずつ死んでいく。まさにバトルロワイヤルのような状態なんですよね。次は自分かもしれない。死が隣り合わせにある産業なんです。

ー林業バトルロワイヤル!言い得て妙ですね。怪我人は毎年1000人を越えますし、10年20年と働き続けていれば無傷の方が珍しいくらいですよね。

齋藤  林業の現場は紛争地と同じぐらい危険と言っても過言ではない産業なんですよね。わたしはフランス外国人部隊に所属していた2012年にマリ北部紛争に参加していました。調べてみると紛争に関わった兵士の死亡率と日本の林業従事者の年間死亡率はほぼ同じだったんですよ。

ー林業は紛争地と同じぐらい危険ってショッキングな事実ですよね。わたしも知人が伐採中の事故で亡くなっています。死んだら終わりですから怪我せず安全に仕事ができることが最重要スキルですよね。齋藤さんは服装や装備に気を使っていますよね。いつも手入れが行き届いてます。海上・陸上・フランスとフィールドを跨いだ自衛隊での経験が今のスタイルを形成しているんですか?

齋藤  そうかもしれないですね。単純に山道具が好きというのもあるんですが、自分の命に直結するものなので装備や装具には気を使っています。安全性はもちろん、最高の状態で仕事をするためのコンディションのひとつですね。よしやるぞ!と身が引き締まるのでモチベーションにも大きく関わります。自衛隊でもボロボロの装備を回されたらチームの士気が上がりませんから。

ー3K(キツい・汚い・危険)産業といわれる中で、効率良く・格好良く・怪我しない林業を目指そうという姿勢を感じます。齋藤さんにとっての林業は、飯を食うためのライスワークだけではなく、自分らしさを形成するライフワークでもあるんですね。

*日本の林業従事者数は、2020年に43,710人。1985年に126,343​​人。直近35年で3分の1以下にまで減少した。<令和4年度 森林・林業白書
*令和4年度は死亡者28人。休業4日以上の死傷者数​は1176人。<林業・木材製造業労働災害防止協会

林業は国防だ!国土を守れる人が増えて欲しい

齋藤  日本は海に囲まれた国です。国土の7割が山ですし、西粟倉村は面積の95%が山です。西粟倉村では多くの集落が山と山の間の谷あいに集まっているんですよね。河川が氾濫したり土砂崩れなどで道路が遮断されたりすると生活に支障をきたすどころか人命に関わる危険性があります。山を適切に管理することはそれらの脅威を未然に防ぎ、人々の生活と安全を守る防衛活動につながるんです。つまり林業は国防なんですよ。

ー軍隊出身の齋藤さんらしい持論ですね。2018年の西日本豪雨では西粟倉村も大きな被害が出ました。河川が氾濫して目の前の道路が崩れた瞬間を見てゾッとしました。民家が土砂で埋まらないように消防団員総出で土嚢を積んだこともありましたね。

齋藤  被害に差はあれど毎年のように自然災害は起きてますよね。我々プロが自然災害が起きにくい山づくりをすることはもちろんですが、そもそも自分の山を自衛できる人が増えないといけないのではないかと思います。

ーそのとおりですね。百森社が定期開催する2泊3日のチェーンソー講習会に参加させてもらいましたが素晴らしい取り組みでした。実際に山に入り伐木する経験を積めるのが学び深いですね。チェーンソーはホームセンターでも買える林業に欠かせない道具ですが、使い方やメンテナンスを教えてもらえる機会はないですから。山林管理会社が自分の山は自分で管理しようとチェーンソーを握れる人を増やしているのが面白いですね。

齋藤  百森社だけでやれることは限られていますからね。西粟倉村の山を管理するだけでもいっぱいいっぱい。日本の山全体を考えると、山を自衛できる人が増えたほうが良いはず。それだけではなく、チェーンソーを扱えると災害時などいざという時に役立ちます。ですからチェーンソーを扱える人員を増やすことは防衛力に直結します。弊社で開催しているチェーンソー講習会の目的のひとつでもありますね。国防のためには銃だけでなくチェーンソーも握りましょう!

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