魔剣騒動 20

 魔剣もどきが持ち出したゴーレムは、上層に居たゴーレムよりもさらに高性能な代物であった。
 中でも特別に備え付けられた機能の一つが『装甲部即時再生』だった。
 内蔵魔力や外部から供給される魔力を用いて、万一に戦闘中に装甲が破壊された際にそれらを修復・再生させる技術。
 だから、仮にアベルの発動させた魔法が『強力な一撃』であったなら、ゴーレムはすぐに破壊された装甲を再生させ、反撃の態勢に移っただろう。
 だが、そうはならなかった。
 それが計算づくだったのか、はたまた偶然だったのか、アベル本人以外には決して判断が着かない事であるが、アベルが発動させたのは多重爆撃の魔法であった。

 正確無比の多重爆発はほんの刹那の時間差を置きながらゴーレムを数秒間に渡って襲い続けた。

 一撃一撃の爆発は小さなものが多いが、修復の暇を一切与えることなく繰り返される高密度の爆発がゴーレムの全身に渡る装甲を確実に削っていった。
 最後の爆発が終わった時、特別な個体であるはずのゴーレムは見るも無残にその巨体を崩壊させ始めていた。
 魔剣もどきはゴーレムの崩壊を止めるべく、魔力を集中させ、修復を加速させるが、かろうじてゴーレムの形を留める程度の修復までは行えても、それ以上の修復は行えなかった。
 魔剣もどきがいったいどの程度の意思を持ち合わせているのかわからないが、奥の手のはずのゴーレムを最も容易く行動不能にされ、おそらく必死に思考しているのだろう。
 数瞬の間の中でアベルだけが不敵に口角を上げていた。

 ほんの些細な静寂は、しかしすぐに破られた。
 部屋中に警報のけたたましい音が響き渡り、永久発光体が赤く点滅した。
 部屋の側面にいくつか設置されていたハッチが大きな音を立てて開く。
 中に設置されていたのは、アベルが破壊したばかりのものと同じ高性能ゴーレムだった。 
 それが、六体。
 起動音が同時に響き、内部の魔導機が唸り始める。
 あきらかな危機的状況のはずだが、空也たち四人の誰も表情も態勢も動かさなかった。

 六体のゴーレムの起動が終わり、同時に動き出す、その瞬間だった。
 「させる訳ないだろ」
 動いたのは最後方に下がっていたアレン・リード。
 片手の指先を天井に向けた。
 直後、天井の全面を覆うような巨大な魔法陣が展開され、発動した。
 音は何もしなかった。
 ただ静かに、黄金色の雨が部屋中に降り注ぐ。
 それだけ。
 魔力によって形作られた雨のようなものは当然何を濡らすわけでもなく、何を壊す訳でもない。
 しかし、それだけで動き始めたばかりのはずの六体のゴーレムは、完全に動きを止めてしまった。

 時間が止まったような静寂が訪れた。
 ゴーレムは動かない。
 アベルやレイア、アレンも動かない。
 空也だけが動き出した。
 決着を付けるため。
 アべルの崩壊させたゴーレムに向かって、真っ直ぐに。



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