魔剣騒動 14

 どうやらアベルの爆破で内部の魔導機関ごと壊されたようでこれ以上ゴーレムが出現することはないだろう、というのがわかったのはレイアがゴーレムを調べ始めてすぐだった。
 アベルが爆破しなかった四体のゴーレムに関しても、レイアとアレンが何やら短く話し合い、アレンの魔法を使って魔導機関を止めたらしい。

 そんな訳で差し迫った脅威を対処したところで、先に進もうかとアベルと空也が提案したのだがレイアが拒否した。
 もう少しゴーレムを調べたいとのことだった。
 レイア曰く、単純な個人的な興味だけでなく、この先に重要施設があるのは確かなので、ゴーレムを調べ、この遺跡にある魔導システムの設計や特徴を捉えておきたい、との事だった。
 そう言われてしまえば反対する訳にもいかず、ゴーレムを調査しているレイア以外の男三人は休憩を取る事にした。

 「空也、スープだ。飲むか?」
 「あ、いただきます」
 アレンが水筒に入れていたスープを薄い金属製のカップに注ぎ、空也に手渡した。
 受け取った空也がさっそく口を付けようとした寸前で今度は手際よく切り出した堅焼きのパンが差し出された。
 短く礼を告げ、それも受け取る。
 「アレン、最近パンも焼き出したんだ」
 「へえ。じゃあ、このパンも?」
 「まぁ、まだ試作だから美味しさの保証は出来ないけどな」
 「アレンさんの料理の上手さならなんでも美味しいでしょう」
 パンを齧る。
 固い食感が口の中で多少抵抗するが直ぐに噛みちぎれ、小麦の風味が広がった。
 多少の固さはあるものの味は充分。
 持ち歩く上での保存を考えたのだろう固さもスープを飲んでふやかせば気にならない。
 「美味しいです」
 空也がお世辞抜きにそう告げるとアレンは柔らかく笑った。
 アベルとアレンも同じ食事を始める。
 「無事クウヤくんと合流出来て良かったよ」
 「本当ですよ。もうちょっと目印とか残しておいて下さいよ」
 「俺とレイアは目印残すように言ったんだぞ、でもアベルが」
 「上の連中に邪魔されたら面倒いからいいかなあ、と思って」
 呑気にそう言うアベルに思わずため息を吐いた。
 文句ぐらいは言ってやりたいが拘泥したところでまともに取り合うような人物ではないことを知っているので、スープと一緒に飲み込んだ。
 何はともあれ合流出来たのだからよしとしよう。
 「……そういえば」
 話題を変える為に空也は天井を見た。
 「此処には光源があるんですね」
 「そうそう。だからこの先に重要施設があるんだと思うんだよね」
 「じゃあ、この先が」
 「件の事件現場だろうね」
 メオノラの自警団が全滅したという事件。
 その現場がこの先。
 空也は視線を暗い通路の先へと投げた。
 見通しの効かない闇で染まるその先は未だ何を見ることも出来ない。
 「で、どうだい? 『剣の勇者』的には何か感じない?」
 アベルがニヤリと口角を上げながら訊ねてくる。
 「そう、ですね……」
 即答は出来なかった。
 遺跡に入った時点から微かな違和感のようなものを感じていた。
 凡そ魔剣や聖剣など名のある剣が放つ圧力はもっと強いものなので、微かな違和感というのが引っ掛かる。 
 はいともいいえとも言えない、ということだけは確かだった。
 アベルと目が合う。
 アベルは空也が感じている違和感を受け取ってくれたのかそれ以上何も言わなかった。
 数瞬、沈黙が続いたところで足音が近づいてきた。
 「なんの話をしてるんだ?」
 調査を終えたらしいレイアがアベルの隣に腰掛けた。
 レイアが座るのに合わせてすかさずアレンがスープとパンを渡すと、レイアは軽く礼を告げてスープに口を付け、息を吐いた。
 「いえ、この遺跡の空気に微かな違和感を感じてまして……」


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