魔剣騒動 13

 「いやぁ、助かったよクウヤくん」
 そこかしこに転がる先程までゴーレムだった残骸を蹴り飛ばしながらアベルは空也に声を掛けた。

 あの状況からアベルが発動させた魔法は端的に言ってえげつないものだった。
 具体的には空也の倒した2体を含めた計7体のゴーレムを内部から爆破した。
 そのせいで、あたり一面はゴーレムの残骸が埋め尽くしていた。

 「……相変わらず、随分派手にやりましたね」
 空也は咄嗟に取っていた防御姿勢を解きながら愚痴るようにこぼした。
 なんせ破片が勢いよく飛んでくるので流石に軽く焦る。
 嫌味混じりの空也の言葉を気にも止めることもなくアベルは朗らかに笑みを浮かべた。
 「なんせ装甲が堅くてね。ま、こうして内部から爆発させてやれば関係無いんだけどね」
 「……」
 アベルの言葉に閉口しながら空也は辺りを見回した。
 ゴーレムの残骸は散らばっているがダンジョン自体の壁や天井、床が崩れている様子は一切なく崩落する気配は無い。
 おそらくすべて計算づくで威力と範囲を指定したのだろう。
 あの混戦の中でそれだけのことをできるのだから、素直に凄いというべきか異常と言った方がいいのか。
 視線をわずかに動かすと瓦礫の中で蹲るように床に座っている女性とその横に立つ男性の姿が見えた。
 言うまでもなくレイアとアレンの二人だ。
 「な、なんてことをしてくれるんだ……」
 「いやぁ、レイア。ほら、流石に危機一髪だったししょうがないんじゃないか?」
 「馬鹿言うな! どんな状況でもこんなに貴重なものを目の前で破壊されて正気を保てるわけがあるか!」
 「ウス……」
 慰めていたアレンの視線が動き、困ったようにこちらに投げられた。
 レイア・ウルトゥスという女性は普段は落ち着いた雰囲気の女性でアベルが好き勝手やるパーティの中でストッパーの役回りをすることが多いのだが、こと遺跡や遺物に関しては冷静さが無くなりがちだ、ということを知ってはいたが空也が実際に目にしたのはそう多くはなかった。
 なので、アレンの視線に対して空也も困ったように眉を顰める事しかできなかった。
 しかし、後ろに立つ男は違う。
 この惨状を作り出した張本人で、レイアとの付き合いの長いアベルはひょいと軽やかな足取りで二人の方へと移動した。
 「まぁまぁ。落ち込まないでよ、レイア」
 「……」
 「『お前のせいだ』って言いたいのはわかるけどさ。でも、アレンが言った通り、流石の僕もそんな余裕なかったんだから仕方ないじゃない」
 「……」
 「それに、別に全部壊したわけでもないじゃない」
 「は?」
 思わず鋭い声を上げたレイアに対して、気にした風もなくアベルは床に転がっているゴーレムの一体を指差した。
 空也に知る術は無いがそれはアベル達が最初に相手していたゴーレムで、その損傷は最小限に留めてある。
 そして、その周囲は不自然な程にゴーレムの残骸が飛んできていなかった。
 レイアの反応を予期して、ゴーレムの損傷が増えないようアベルがそうしたのだろう。
 「ね?」
 朗らかな笑顔を浮かべるアベルにレイアは数瞬顔を顰めたままだったがやがて諦めたように深い溜息を吐いた。
 「……少し時間をくれ。これ以上、他のゴーレムが来ないかどうかだけでも調べる」
 「うん。じゃあ、よろしくね、レイア」
 レイアは立ち上がって腰から魔導器を取り出して辺りを調べ始めた。


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