魔剣騒動 7
ゴーレムは遺跡探索を日常的に行うアベル達『爆発の勇者パーティ』には比較的見慣れた敵だ。
その素材、動力は様々で古代遺物として未だに動き続けているモノもあれば、朽ちる寸前に瘴気によってモンスター化したモノもある。
今回のこの遺跡に出現した目の前のゴーレムは、と言えば半遺物半モンスターと言った具合であった。
そして、アベルにとってはこれが一番厄介なタイプのゴーレムでもあった。
まず前提として、古代遺物であるゴーレムを徹底的に破壊することに対して遺物調査官であるレイアは良い顔をしない。
であれば必然、損傷を最小限にゴーレムの活動を停止させる必要が出て来る。
完全な遺物であればその動く仕組みは大方幾つかにパターンに分けることが出来、大抵は魔力回路のパターンに沿って各所を破壊すれば活動を止めることが出来るので比較的楽だ。
また場合によってはレイアがゴーレムの基部辺りをいじることで敵意を失わせることが可能な場合も少ないながらも存在した。
逆にほぼ完全に朽ちたゴーレムがモンスター化していた場合も楽だ。
この場合は調査・研究の対象にできるのはそもそもその素材程度の物しか残っていないので徹底的に破壊しても大きく非難はされない。(嫌な顔はされる)
そして一番面倒な場合が、いまアベル達の目の前にいるような半々で動いているタイプだった。
なんせどこまで回路が生きていて、何処から瘴気で動いているのか外から見ても基本的に知る術はないし、そうなると適当に破壊するとレイアが怒るのだ。
だから、アベルは苦戦していた。
ゴーレムはこちらを観察するようにその巨体をピクリとも動かさない。
睨み合うようにレイアも剣を構えた姿勢を動かさない。
「いいか。とりあえず右の拳にだけ内部に届くダメージを与えろ。そうすればアレンを待って魔力回路を解析して、話はそれからだ」
早口に背後のアベルに指示を出すレイア。
レイアの指示にうへぇと面倒くさそうにアベルは顔を歪めた。
「威力制御が一番面倒なのが僕の魔法だって知ってるじゃないか、レイア。それにアレンを待つって言ったって、まだ掛かりそうだよ?」
アベルは呑気にゴーレムから視線を離して自分のさらに後方に顔を向けた。
そちらはそちらで何やら愉快そうな音が乱舞している。
アベルとレイアが今ゴーレムと対峙している空間は半径三〇メートルほど大きさを持つ開かれた空間なのだが、前後左右の四方それぞれに通路がある。
当然ながら二人がここに入ってきたのは二人の後方にある通路なのだが、その通路の先でアベル達のパーティメンバーであるアレン・リードは一人で多数の魔物相手に足止めしている。
アレンがそんな状況に陥ったのは、もとはと言えばアベルが三人からすれば大した敵にもならない魔物の相手を面倒臭がって背後に引き付けたまま迷宮内を走り回ったせいだ。
そのせいで、この部屋に辿り着いた際に前方を強力なゴーレム、後方を魔物の群れに挟まれるという事態になったのだった。
先頭で部屋に辿り着いたアベルはゴーレムを認識して即座に魔法を発動させ、ゴーレムからターゲットを取って指示を出した。
アベルとレイアの二人でゴーレムをしのぎ、その間に後方をアレンに何とかしてもらうという指示。
長年連れ添ったパーティメンバーはすぐに指示通りに動き出し、レイアに前衛を代わってもらったり紆余曲折しながらも戦闘を続けていた。
その紆余曲折の間、アレンは一人で後方を支え続けている。
「つべこべ言うな。アレンの奴もすぐに終わ……ッ!?」
レイアの言葉の途中、静止していたゴーレムが突如として動き出した。
ユラリ、と巨体が揺れたと思った次の瞬間には空気を弾くような音を伴う左の拳がレイアを襲う。
すかさずレイアも反応し、構えていた剣を拳に合わせ迎撃する。
若干、不意を突かれたこともあり、完全に打ち合う形ではなく、相手の動きに合わせ体を滑らせるように動かしながら受け流すように剣を合わせた。
先程までのゴーレムとの打ち合いとは違う、ギャリギャリギャリという金属同士を擦り合わせる不快な高音が一秒にも満たない刹那の時間、短く響く。
レイアの手にする剣が嫌な音を立てる寸前で、ゴーレムの拳を流しきる。
が、脅威は終わらない。
直後、追撃の右拳が迫る。
だが、ここからは先ほどの展開と同じ。
刹那ほどの時間もあればアベルは『爆発』の魔法を発動できる。
ゴーレムの速い拳速よりもさらに速く。
拳の中央に小さな魔法陣が煌々と輝いた。
直後、鳴り響いたのは先ほど発動させた爆発よりもさらに小さな爆音。
銃の発射音にも似たそれは、しかし先ほどよりも大きくゴーレムの拳を弾き返し、更には転倒させるまでに至った。
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