魔剣騒動 9

 盛大な音を立てて三人の行く手を阻んだゴーレムが地面に崩れた。
 完全停止を視認してから、レイアは構えたままだった魔導銃を腰のホルスターに戻した。
 それから小さく息を吐いた。
 「いやぁ、お疲れ」
 レイアの背後から呑気な声が掛かる。
 「……まったく、お前たちがもっと早く処理してくれれば楽だったのだが」
 今度は盛大にため息を吐いてやりながら振り向けば、アベルとアレンがレイアの方へ寄ってきていた。
 「だって適当に破壊したらレイア怒るじゃない」
 「当たり前だ。いったいこれほどの遺物がどれだけ貴重なものなのか、いい加減理解しろ、アベル」
 「俺はしょうがねぇだろ。後ろの連中片付けてたんだから」
 「遅い。アレン、お前ならもっと早く処理できただろう」
 「無茶言うな。というか、ああいうのの処理こそ『爆発』の出番だろ? 俺に押し付けやがって」
 「えー、小物の相手なんてめんどくさいじゃない」
 「そんな適当な理由で俺に押し付けんな。そのうち死ぬぞ、俺が」
 「アッハッハッハッ」
 「笑い事じゃないんだが?」
 「談笑は構わんが少し静かにしてくれ」
 レイアは自分の後方にいるアベルとアレンを黙らせてから、静止したゴーレムの方へ近寄った。
 話し始めたのはレイアの方だろうという不満を飲み込んだアレンが隣に目を向ければアベルも苦笑を浮かべて肩を竦めた。
 二人の反応に取り合うこともなくレイアはゴーレムの側にしゃがみ込んで、腰のホルダーから手のひらに収まるサイズの何某かの魔導器を取り出すとその身体を確かめ始めた。
 「装甲は……やはり、大戦初期の物で間違いなさそうだな。いや、しかしそれにしても随分と硬度があったように感じたが……。……ふむ、なるほど装甲下に魔力を伝導させて硬度を上げる仕組みを取っているのか。アベルの『爆発』を防いだのもこれが原因か……」
 ブツブツと呟きながら手元の魔導器とゴーレムを交互に見比べる。
 レイアがこうなると長い、というのは付き合いの長い二人にとっては今更な事なので特に止めるようなこともせず、後方の二人は邪魔をして機嫌を損ねないように雑談を再開する。
 「いやぁ、しかし、久しぶりにちょっと手応えのある相手だったね」
 「そうなのか? こっちの様子を確かめてる余裕なんてなかったから知らんが」
 今度は責めるようなニュアンスは載せないでアレンは会話を続ける。
 アベルは頭の後ろで手を組んで、身体の力を抜いた。
 「一発目の『爆発』防がれちゃったよ」
 「……どうせ手抜いてたんだろ?」
 「そうりゃそうだけど。それでもいけると思ったんだけどなぁ」
 相手の実力を測りながら手を抜くのはアベルの悪い癖だ。
 それが原因であわやという自体に陥ったことは一度や二度の話ではないのだが、それを指摘したところで目の前の男がヘラヘラと笑うだけなのをアレンはよく知っているので無駄な言及は今さらしない。
 代わりに天井を見上げて話題を変えた。
 「そういや、明かりのあるフロアに出て良かったな」
 アレンの言葉にアベルも天井に取り付けられている永久発光体を見上げた。
 「ねー。明かり取りながらの戦闘にならなくてよかったよ。面倒だもんね?」
 「おめーが松明でも持ってくれれば俺は面倒じゃないんだが?」
 「嫌だよ。面倒臭い」
 「こいつ……!!」
 眉間に皺を寄せるアレンにアベルはヘラヘラと笑いを返して、未だゴーレムを調べているレイアの背中に視線を移した。
 「……でも、発光体が無かったさっきまでのフロアを抜けて、発光体のあるフロアに出たってことは相当潜って来たわけだね」
 潜る、というのはけして深度だけを指している言葉ではない、ダンジョンと化しているこの遺跡の奥の奥に近いているという意味だ。
 「大戦初期の遺跡にしても不親切な作りだよな。ここまで発光体が無いなんて。初期ってことはまだ永久発光体の技術も失伝してない頃だろう?」
 「だねー。まぁ、不親切というよりはそういう意図の作りな気がするけどね」
 「意図……。あー、敵軍に知られない為のカモフラージュとか、万が一潜られた時の対策の一環とかか?」
 「そうだね。この先によっぽど知られたくなかったものでもあるのかも?」
 面倒臭そうな予測にうへぇと言うアレンの横で、アベルは小さく口角を上げた。


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