魔剣騒動 15
ゴーレムの居た部屋から先は一本道だった。
途中、いくつかの部屋はあったものの迷うことは無かった。
ゴーレムも何体か配置されてはいたが、最上位に位置する冒険者が四人揃い、その上敵のデータも揃っていれば苦戦のしようもなかった。
不思議な事と言えば、ダンジョンの上の方に比べ深部に行くほど瘴気が薄くなってきている事だった。
一般的にダンジョンというのは深く潜れば潜るほどに瘴気が濃くなっていくはずなのだが、この遺跡は中層部分が一番濃く、それ以降はどんどん薄くなっていた。
そのおかげで魔物に囲まれるようなこともなく一行はほんの一時間程度でかなりの深さをまで到達したようだった。
「うん……?」
先頭を歩くアベルが立ち止まった。
その後ろを歩いていた三人も立ち止まる。
中層までとは違い深部には通路にも灯りがあったものの、途中にあった部屋とは違い通路の形がわかる程度の最低限灯りしかなく、光源で照らさなければ細部はよく見えない。
現在の光源はアレンの妖精魔法による光と空也の水晶の剣の二つ。
二人はアベルが立ち止まった辺りを照らした。
見えたのは無理矢理に破壊されたのが容易に見て取れる金属製の扉だった。
(扉……というよりは――)
「隔壁、だったようだな」
空也の頭に浮かんだ言葉をレイアが口にした。
「破壊したのは、十中八九例の自警団連中だろうな」
「まぁ、そうだろうね。破壊の仕方がいかにもお粗末だ」
アベルは破壊痕に触れた。
空也は手に持った水晶の剣を動かし、隔壁の奥の闇を照らした。
少し奥の方に同じように破壊された隔壁。
さらに奥に下へと続く階段が見えた。
「いよいよ最深部、って感じだな」
アレンが空也の照らす先を覗き込みながら呟いた。
おそらくアレンの予想は正解だろう。
この先がきっとこの遺跡の奥の奥になる。
しかし、そんな最深部へと至る通路の手前に頑丈な隔壁とは。
「不穏だねぇ」
アベルはいつもと変わらず楽しそうに呟いた。
「で、どうだい? 違和感とやらは?」
問われた空也はアベルの方へ顔を向けることもせず、黙って闇の奥を睨む様に見つめていた。
「……ここまで来てやっと分かりました。この先、確実に『ある』」
違和感は、確実なものになっていた。
『剣の勇者』の言葉に場の空気が変わる。
しん、と不意に静寂が訪れた。
アベルがゆっくりと口を開く。
「わからなかった原因は?」
「中層の瘴気、あれがこの気配をマスクしてたんだと思います」
「なるほど」
「ただ……」
空也はもう一度気配を探る。
この奥に魔剣や妖刀の類があるのはわかるが、その圧は『本物』に比べればかなり弱い。
「この先にあるのは、まだ『成っていない』剣だと思います」
「『成っていない』、ね」
聖剣も魔剣も妖刀も、そう『成る』には条件がある。
この世界におけるルールの一つ。
『その剣の真なる使い手だった者が、その剣に想いを託し、死亡している』という事。
それが特別な剣となる絶対的な条件。
だからこそそれらは強烈な存在感を有し、強烈な圧力を放つ。
しかし、この先に感じる気配にはそれが弱い。
その原因はおそらく使い手の死を経験せず、まだ魔剣として完成していないからだろう。
空也はそう予想した。
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