魔剣騒動 10

 「ん……?」
 すっかり気の抜けた雰囲気の流れる中で、レイア・ウルトゥスがその違和感に気が付けたのは、やはり彼女が一流の冒険者で、尚且つ一流の遺物調査官だったからなのだろう。
 本当に小さな、ごく些細な違和感。
 検体していたゴーレムの装甲下を流れる幾流の魔力の流れの中に極細い流れが存在していた。
 レイアは無言のまま、一瞬考えを巡らせる。
 装甲下の魔力の流れはそれぞれ役割を持っている。
 その殆どは装甲を上げるものやゴーレムの身体を動かすもので、それらは基本的に出来る限り太い流れを作る。
 その方がコストもパフォーマンスも上がるのだから当然だろう。
 では、それらに紛れるように存在する極細のこれはいったいなんだろう。
 このゴーレムが、戦闘用でないシステムであれば極細の魔力回路にも用途や意味があるだろうが、通常戦闘用のものにこれを割くだけの意味があるとは思えない。
 だと、すればこの魔力回路の意図は――。
 「〜ッ! マズいッ!」
 ゴーレムの身体を検めていたレイアが突然立ち上がった。
 「?」
 背後の男二人はレイアの慌てた様子を不思議そうに眺めていた。
 レイアは男二人を置き去りにしたまま手に持った魔導器をホルスターに仕舞い、即座に抜刀。
 すぐに構えた。
 「おい? レイア?」
 「私のミスだ! 貴様らも直ぐに構えろ!」
 アレンの言葉を遮るようにレイアは叫ぶ様に言った。
 状況判断が出来なくとも行動は早い。
 アレンは直ぐに魔法陣を組み上げる。
 アレンの横では、アベルがいつの間にかもうすでに魔法陣を展開していた。
 アベルは魔法陣の光を受けながら心底楽しそうに口角を高く歪めて、それから口を開いた。
 「で? 何があったの、レイア?」
 「……アラートだ」
 「アラート?」
 「自分が倒されると他の部屋のゴーレムを呼び寄せるアラート。しかも、その信号を何体に飛ばしてるのか分からん」
 「は⁈  じゃあ、そこら中からさっきのクラスのゴーレムが来るって事かよ!」
 アレンが叫ぶ様に言った。
 その言葉にレイアが小さく頷いた。
 それから、言葉を付け加えようと口を開きかけたところでアベルがそれを遮るように唇の前に人差し指を立てた。
 音を聞け、というアベルの意図を瞬時に汲み二人は耳を済ませた。
 部屋の後方に空いた通路以外、奥へ続くと思われる三つの通路のそれぞれから地響きが聞こえる。
 音の重なりが酷く、大まかな数の把握すらままならないが、その数が多いということだけは確かだった。
 次第に大きくなるその音は、おそらく一分もせずにこの部屋に着くだろう。
 「はは、楽しくなってきたねえ」
 とアベルが笑う。
 「楽しくねーよ! おい、なんか手はねぇのか⁉︎」
 とアレンが声を上げる。
 「無い」
 レイアが冷静かつ無慈悲に答えた。
 ゴーレムの群れが迫る。
 その姿が通路の奥に薄らと見える。
 「レイアには悪いけど、今度は容赦なく壊すよ。なんたって、絶対絶命だからね!」
 「くっ、……仕方が無いな」
 「おい、本当になんか無いのか⁉︎」
 「無いよ」
 ゴーレムが遂にその姿を室内の灯りの元に晒し始めた。
 その数およそ十。
 「第二ラウンドだね!」
 「俺だけ第三ラウンドなんだが!!」
 「じゃあ、第三ラウンド!」
 直後、特大の爆発が三人の全面を爆炎と爆音を伴い覆った。

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