魔剣騒動 8

 「アレン」
 ゴーレムの転倒を見届けることもなくアベルは短く仲間の名前を呼んだ。
 「俺、今後ろの連中を片付けたばっかりなんだが……?」
 呆れ交じりに抗議の声を漏らし、モンスターを片付けたアレンが通路からアベル達の居る部屋の中央へ走り寄る。
 アベルの横を通り過ぎ、レイアの横に着くと足を止め、それからパンという音を鳴らして両手を合わせた。
 「というか、俺とアベルの役目は逆の方が良かっただろ、絶対」
 「いいから、早くやれ」
 「……へいへい」
 ブツブツと呟いた文句をレイアに制されたアレンは短く息を吐いて返事をしてから魔法を展開させる。
 合わせた両手を中心に魔法陣が四重になって現れる。
 現れた魔法陣はそれぞれが意思を持ったように複雑に回転し、輝き始めた。
 一秒にも満たない時間の間にその輝きが最大に達し、やがて重ね合わせている両の手に納まるように光が収束。
 それが収まったところでアレンが掌を開く。
 現れたのは直径五センチ程度の宙に浮く光球。
 光球はフヨフヨと掌の上で浮かび、それから急加速してアレンの体を一周回った後、アレンの右斜め前方で控える様に停止した。
 光球が停止したタイミングで、ゴーレムもその巨体を起き上がらせた。
 ズンと床が軽く揺れ、ゴーレムの瞳に敵意が再び宿る。
 補足したのはレイアの横に現れた闖入者。
 ゴーレムが素早い動きで右の拳を振り上げる。
 アレンはゴーレムの速い動作の中で、右の拳の中央に、小さいけれど確かな穴のような傷がついているのを確かめた。
 人魔大戦期の強力な金属でできている筈の体に、アベルは先ほどの魔法でレイアの指示通り内部に届くまでのダメージを与えたのだ。
 そうとなれば、次はアレンの仕事。
 「行け!!」
 迫るゴーレムの攻撃に慌てることなくアレンが短く指示を出すと、フヨフヨ控えていた光球は弾かれたようにゴーレムの右拳へと向かう。
 瞬く間に光球と拳が衝突。
 しかし、音が立つようなことは無く、抵抗もないまま拳に空いた穴に吸い込まれるように光球が消えた。
 拳は当然止まらない。
 アレンに迫る。
 アレンは今頃になって回避体勢に入る。
 避けきれるわけがない間合いで、しかしアレンに当たるギリギリ手前でゴーレムが急制動した。
 あまりの急激な動きにビシリと不気味な音すら立てた急制動で、アレンは難なく攻撃を回避。
 数瞬遅れる様にして先程までアレンの立っていた場所をのろのろとした速度のゴーレムの拳が通過した。
 ゴーレムの動きが急変したカラクリはあの光球。
 アレンが作り出した人工妖精の効果だった。
 妖精はゴーレムの傷口からゴーレムの魔力回路に入り込み、回路を走査し、その動きを制限した。
 しかし、あの規模の妖精で出来るのは精々動きを遅くする程度。
 完全に無力化する為にはーー
 「レイア!! 首の右側深度六、右眼上深度一五、それから左胸中央三〇!!」
 アレンが短く伝えたのは妖精が走査した魔力回路の集積点の位置情報。
 アレンが情報を伝え終わる頃には既にレイアは飛び出していた。
 未だ動きの遅いままのゴーレムだが、その装甲にレイアの剣が届かないことは先程からの戦闘で把握済み。
 それでもレイアは剣を構える。
 構える、そして柄に取り付けられている小さなスイッチを押し、魔力を込める。
 剣は即座に反応。
 ブゥンと滑らかな低音を響かせ、薄らと刀身が光を帯びる。
 まず狙うは首と右眼の上。
 レイアは自身の身長よりも高いその位置を目指して飛び上がり、剣を抜き放った。
 「シッ……!!」
 短い気合と共に放たれた鋭い剣撃がゴーレムの首に正確に命中、弾かれることなく滑らかに食い込み、深い傷を作る。
 瞬時にゴーレムの体が雷に打たれたように細かく震えた。
 魔力回路の主要な伝達部分に傷をつけたのだろう。
 滞空中のレイアは弾かれたように剣を戻し、二撃目で右側の眉間へと剣を突き入れた。
 ガッという小さな音を立てたもののこちらも滑らかにゴーレムの装甲を貫き、目的の深さに到達した。
 再びゴーレムが細く震えたのをみて、レイアは剣を引き抜こうとするが内部の何処かと噛んだのか引き抜けない。
 「チッ」
 跳躍の最高点に到達し落下の始まったレイアは舌打ちして剣を諦めると、ゴーレムの大きな体を蹴り付け距離を取るように着地。
 着地と同時に左腰のホルスターから妙にゴツい魔導銃を引き抜き、逡巡の間も無く引き鉄を引いた。
 フォンという妙な音を立て発射された弾丸が見事ゴーレムの左胸を貫くと、ゴーレムは一際大きく体を震動させ、その動きを完全に止めたのだった。
 


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