魔剣騒動 21
空也は、直線にして十メートル程度の距離を飛ぶように駆け抜け、瞬時に間合いを詰める。
その勢いを削ぐこと無く迅速かつ滑らかに手にした無骨な剣を上段へと構えた。
魔法陣が浮かぶようなことは無い。
魔力の流れすら最小限。
しかし、空也が剣を構えた、それだけで周囲の空気が変わる。
不必要な装飾が一切取り払われた無骨な剣が空間を支配する。
空也が剣を振り下ろす、その直前。
動きの完全に止まったボロボロのゴーレムから何かが飛び出した。
それは、ゴーレムを操っていた魔剣もどき。
数々の想定外を受け、その意思のようなものが薄弱化しかけていたが、空也の剣気が最大限のアラートを起こし、動き出した。
飛び出した魔剣もどきは勢いそのままに、迫る空也を迎撃する為、掬い上げるように切り上げる軌道を描いた。
対する空也に焦りは無い。
この状況を予期していたのか、躊躇無く剣を振り下ろした。
魔剣もどきと無骨な剣がその軌道のほぼ中央で交差し、甲高い音を立てて激突した。
決着は呆気ない程にあっさりと着いた。
二つの剣の交差は刹那の時間すら保たず、空也の剣が魔剣もどきをあまりにも容易く叩き斬った。
剣と身体の勢いを緩め、空也はその足を止める。
遅れて、数メートル離れた場所に魔剣もどきであった刀身が、硬質な金属の音を立てて地面に落ちた。
神月空也の手にしている剣は、紛れもない『聖剣』である。
不必要な装飾の無い無骨な見た目で派手な能力を持たない剣であるがその力は確かに『特別な一振り』であり、その有する圧は空也の所有するあらゆる『特別な一振り』の中でも群を抜いて重く、濃い。
そんな特別な剣に成りそこないの魔剣もどきが勝てるわけなどなかった。
「……はぁ」
息を吐いた。
特別大きな戦闘というわけでもなかったが、それでも一仕事終えれば息の一つも付くものだ。
間を置くように中空を少し眺めてから、手元に魔法陣を展開し剣を仕舞う。
水晶の剣に換装することも考えたが、ここに他の外敵の気配はもう無いし、天井に設置された永久発光体のおかげで明るさも十二分なので止めた。
装備を解除し、もう一度一息ついてから空也は振り返った。
「終わり、っすね」
「うん、お見事。お疲れ様、クウヤ君」
アベルは楽しそうに笑いながら空也を労った。
「アベルさんもお疲れ様です。あの魔法、すごかったです。もっと早く使ってくださいよ」
「嫌だなぁ、クウヤ君。切り札っていうのは最後まで取っておくものだよ?」
飄々と笑みを浮かべながら返すアベルだが、それなりに付き合いの続いてきた空也にすらその底は未だ見えない。
先程の魔法を切り札なんて表現したが、きっと違うのだろうな、という事はわかる。
おそらくアベルが本気になればこの程度の戦闘、すぐに終わっていたのだろう。
尤も、『爆発の勇者』アベルという人間が本気になることなど無いように思えてしまうが。
チラリと横目に見たアベルと目が合った。
こちらの心を見透かすように口角を吊り上げ、意地の悪い笑みを浮かべた。
しかし、言葉は無かった。
不意に会話は途切れた。
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