魔剣騒動 12
その、集中の分散が原因だったのだろう。
「あ、ヤバ……」
アベルの動きを学習したゴーレムの一体が丁度他のゴーレムの攻撃を回避した直後のアベルへ不可避の位置、不可避の速度で攻撃を仕掛けてきた。
『爆発の勇者』アベルは一流の冒険者である。
その中でもさらに上澄みの上澄み。
だから、不可避のその一撃ですら捌くことは可能だ。
しかし、問題はそのあと。
そのあとに続く、無理をして攻撃を捌きバランスを崩したアベルに襲いかかる三体のゴーレムによる連撃。
死にはしないだろう。
アベルであれば、それすらもどうとでも出来る。
しかし、待機状態で持ち越している魔法は違う。
流石のアベルであっても、その状況では破棄せざるを得ない。
ゴーレムの一撃が飛んでくるまでのほんの刹那の時間。
その些細な時間の隙間でアベルは頭を回す。
待機させている魔法を破棄すれば、ゴーレム撃破までの時間は大幅に遅れる。
そうなれば、最悪の場合追加のゴーレムが呼び寄せられる可能性もある。
それは至極面倒だ。
アベルの名前を叫ぶレイアとアレンの声が聞こえる。
(これは、流石に待機させとくのは無理かな……?)
諦め、魔法を破棄する、その寸前。
ゴーレムの拳迫る中で、アベルは確かに聞いた。
右の通路の奥から響く足音を。
その音を捉えた瞬間、アベルは口角を上げた。
魔力を練る。
魔法を待機させたまま、新たな魔法陣を展開する。
アベルの体の丁度前、ゴーレムの拳が狙いをつけている位置に展開されたのは硬貨サイズしかない小さな魔法陣。
瞬時に魔法陣が発光し、ゴーレムの拳が届く寸前に爆発が起こった。
破壊力はほとんどなくとも、爆風は充分。
アベルの体がほんの数メートル後方へ弾かれる。
不可避のはずの一撃が目の前で空を切った。
ニィと口角を上げるアベルは意思がなく動くはずのないゴーレムの表情に驚愕を見た、気がした。
「アベルさんッ!!」
直後、左の通路から人影が飛び出す。
人影は速度を落とさずに部屋に侵入すると、アベルの目の前で次の攻撃を繰り出そうとしていたゴーレムに向かって跳び上がった。
握った剣が宙でギラリと光り、ゴーレムの首へ正確に振り下ろされる。
ギャリギャリギャリッ!!とゴーレムの装甲が抵抗する嫌な音を響かせたが、一瞬のうちに首から上は重力に従う事となった。
飛び出した人影ーー神月空也は着地と同時に、さらに追撃を加えようとしていた別のゴーレムの胴体を切り上げた。
装飾の類が一切無い武骨な剣は再び嫌な音を響かせながらゴーレムの体を上下に切り裂いた。
「ヨシ、完成」
ゴーレムの体が地面に落下し、轟音を上げるよりも前にアベルの呟きが涼しく部屋に響いた。
これだけの隙があれば『爆発の勇者』は魔法を展開出来る。
部屋の魔力が揺れる。
アベルを中心に、部屋いっぱいに広がる大きな魔法陣が展開し、発光。
切り落とされたゴーレムの体が起こした轟音に合わせるように、複数の爆音が部屋中に広がった。
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