魔剣騒動 22

 「――さて、ここからは私の出番だな」
 会話の途切れた間に差し込まれるように声が響いた。
 空也が振り向くと、後方に居たレイアが意気揚々と腰から(おそらく解析用だと思われる)スティック型の魔導器を取り出したところだった。
 「君のおかげで貴重な上位個体のゴーレムをゆっくりと細部まで解析できそうだ」
 「いや、倒せたのは俺の手柄だけじゃないですよ」
 「魔剣もどきをブチ折ることは私には出来なかった。もしウチの男どもだけで対処していたら、そこの性悪勇者がゴーレムを全部粉々に爆破してくれていたことは想像に難くない」
 呆れたようにレイアがアベルを指差した。
 当のアベルはニコニコと真意のわからない笑みを浮かべている。
 「だから私はクウヤ、君に礼を言うよ。ありがとう」
 「……まぁ、それならよかったっす」
 普段、美人だが仏頂面の多いレイアに真正面から微笑みと共に礼を告げられると流石の空也も簡素な礼だけを告げ、視線を外した。
 「ふふ、それじゃあ私は作業に移るとしよう」
 その様子にレイアは息を吐くように優しい笑みを強めた後、ゴーレムの近くで膝をついて魔導器を使いはじめた。

 「ああなったらレイアはしばらく動かないねえ」
 「そうだな、ひと段落ついた訳だし休憩にするか」
 レイアと入れ替わるようにアレンがこちらに近づいていたようで、アベルと呑気にそんな会話をしていた。
 2人の方へ目を向けると、自然と目が合う。
 「クウヤもお疲れ。大活躍だったな」
 「アレンさんの魔法も凄かったですよ。相変わらず特殊な魔法すね」
 アレンの使う妖精魔法は特殊も特殊の魔法で、空也は未だにアレン・リード以外の使い手を見たことが無いほどだ。
 だから、今回のゴーレム達の動きを止めた黄金色の雨の魔法も『妖精』を介して発動させている事以外には構造や仕組みの予測が全く出来ていない。
 素直な感想として口に出した空也だったが、アレンは頭をかきながら苦笑を浮かべた。
 「俺のは所詮一般魔法理論の延長でしかないから、『勇者』の連中に言われても困るんだがな」
 「いやいや、勇者の魔法なんて基本は『それしか出来ない』ものだから、君の魔法の方がよっぽど特殊だよ」
 「一般魔法理論の延長なんて絶対嘘じゃないですか。あのレウィンでさえ『わけわからん』って言ってるぐらいですよ、妖精魔法」
 勇者2人と世界最強の魔法使いの言葉で反論を受けるアレンは苦笑を強くするだけだった。
 「正直に言えば俺もよく分からんまま使ってる部分はあるんだが……。ま、そんなことより、とりあえず飯にしようぜ。まだ帰り道もあるんだから」
 話を中断するように話題を変えたアレンに、空也は深く追及してみることも一瞬考えたが、アベルがさっさと適当な瓦礫に腰を掛けてしまったので諦めた。
 アレンの言う通り、これから地上に帰る為に長い道のりを戻らなければならない。
 今は休むべきか。
 空也もアベルに倣い適当な瓦礫に腰を掛ける。
 アレンがいつの間にか用意していたらしい簡易コンロに火を灯すと、すぐに上に載せた鍋からいい匂いが漂い始めた。
 


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