魔剣騒動 19

 (いける……!)
 室内に響き渡る金属質の高音の中、レイアは確かな手応えを感じていた。
 いかに一流冒険者であるレイアであっても魔剣やそれに類するものと戦闘した数はそう多くない。
 まして、直接的に破壊しようなどというのはさらに、だ。
 故に、レイアが自身の剣を信用しているといっても不安はあった。
 特別製魔導機ではあるが、名のある特別な剣ではない剣が、特別な剣に打ち勝つことが出来るのか、と。
 果たして、結果はレイアに確かな手応えを感じさせている。
 金属に金属の刃が食い込んでいく感覚。
 多少、他の材質に比べ硬い感触はあるが、このまま真っ二つに切断は可能だろう。
 しかし、魔剣もどきの存在感は依然として大きく、一瞬手元が狂えば反撃されるだろう。
 レイアは全身の集中をもって、刃を食い込ませていく。

 だから、周囲の警戒を怠っていた。

 グン、とレイアの振り下ろす刃の勢いがほんの少し増した。
 一瞬のその違和感の後、すぐに元の硬さに戻る。
 (なん――)
 「レイア、後ろ!!」
 疑問を抱くよりも一瞬早く、アベルの声が響いた。
 判断する暇などない。
 アベルの声を疑うことなく、レイアはあっさりと手元の手応えを手放し、全力で横へ跳ぶ。
 瞬間、先程まで立っていた場所を特大の質量が風を切って通過した。
 伴った風が半瞬遅れて前髪を揺らし、レイアはその正体を見た。
 巨大な拳。
 それはつい数時間前に相手取ったゴーレムだった。
 それも、数時間前の相手とは明らかに大きさの違う個体。
 目の前のゴーレムの方が大きい。
 そして、大きさもさることながら全体の形状、装甲の光沢、動きの滑らかさ、そのどれをとっても見事だった。
 上位個体、または特別製の個体。
 手を止めて、まじまじと観察したい衝動に駆られるが、当然そんな余裕などなかった。

 魔剣もどきは、或いは始めからそういう風に設計されているのかのようにごく自然に、吸い込まれるようにその刀身の丁度上に来たゴーレムの胴体にひとりでに突き刺さった。
 ゴーレムの、魔剣もどきの気配が変わる。
 『ゴオォォォォッ!!』
 雄たけびと共に強烈な魔力振動がびりびりと室内の空気を揺らした。
 しかし――
 「遅いね」
 先制したのはアベルだった。
 嘲笑すら含むその呟きとともに、大型ゴーレムの全身を包むように無数の魔法陣が瞬時に展開した。
 室内全体が明滅する程、煌々と魔法陣が瞬く。
 ゴーレムは瞬時に状況を理解したのか、身を捻るが、その程度で魔法陣の照準からは逃れられない。
 それでもなお、諦めを見せることはなく魔法が発動するまでの刹那の時間、腕を振り回した。
 その攻撃は単純でありながら、確かな質量を伴った破壊力がある。
 「くっ……!」
 近くにいたレイアはやむなく剣で受ける。
 レイアの剣は、その特殊な機構が故に連続使用が長引けば排熱が必要になる。
 そして、排熱中は刀身の魔力回路が強制的にオフになり、その耐久性が著しく下がる。
 レイアの剣の刀身が容易く軋み、抵抗やむなく半ばから折れた。
 レイアは渋面を浮かべながら、その勢いに乗るようにして後方へ回避した。

 直後、アベルの魔法陣が一際光を放ち、断続的な爆発がゴーレムの全身に襲い掛かった。

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