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小説

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 「おー」
 「おー……!」
 目の前の人集りの向こう、大きな表通りの道路を豪華で大きな馬車が通って行く。
 あまりにも豪華なので思わず感嘆の声が漏れてしまった。
 それに同調するように、俺の頭の上からも平坦ながら確かに熱を帯びた感嘆の声が聞こえた。

 煌びやかな馬車は観衆に見せびらかすようにゆっくりゆっくりと白昼の大通りを進んでいく。
 いわゆるパレードというやつだった。
 ゆっくりと進む馬車

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砂上の楼閣 27(完)

 「……その子の意識は?」
 聖騎士が剣を鞘に納め切ったタイミングでトゥーリアは思い切って話しかけた。
 反応が返ってくるか、かなり不安であったが聖騎士はあっさりと反応を返してくれた。
 紺青の鎧を小さく鳴らしながら、聖騎士は首を横に振った。
 『オーブ』を発動させた者は、数時間ないし当日のうちに意識を失い、起きることがなくなってしまう。
 つまりは、そういうこと。
 聖騎士が抱えている少年も、目

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砂上の楼閣 26

 「あ……?」
 あまりにも呆気なく、自身の生み出した魔法が切断され、ジェルドは無意識に呆けた声を出していた。
 見事なまでの真っ二つ。
 その威力は魔法陣にまで及んでおり、煌々と光を放っていた大きな魔法陣も、ゆらりと陽炎のように淡い光となって空間に溶けていく。
 魔法陣が消えれば、当然そこから生み出された炎の柱も左右に別れたまま、弱々しく端からゆっくりと消えて行った。

 魔法を、次の魔法を使う

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砂上の楼閣 25

 「『御守り』みたいなものだよ」
 今度は言海の口から明確な答えが返ってきた。
 御守り、というのは宗教的なアクセサリーのようなもののはずだ。
 本来はナイフのようなものではないはずだし、明らかにその辺の店で買ったような既製品のナイフというわけはない。
 ということは、重要なのはその中身。
 「……それは、貴女がマオやキヨカゲに渡しているようなものだということですか?」
 琴占言海は身近な人間の身

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砂上の楼閣 24

2/
 「これを」
 目の前の女が紙製の小さな商品袋を差し出してきた。
 商品袋には店名なのかブランド名なのかローマ字が簡素に並んでいる。
 簡素な袋は中身が特に高級なものではないことを伝えていた。
 トゥーリアは相手の意図を探るように目の前の女――琴占言海の顔を数瞬見つめて、それから袋の方に視線をもう一度落とした。

 久しぶりの『仕事』だった。
 なんせしばらく囚われの身だったのだから当たり前

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砂上の楼閣 23

 数多の戦闘をこなしていたジェルドにとって、同じ裏社会のプロとはいえ『運び屋』でしかないトゥーリアの戦闘力などたかが知れていた。
 どれだけトゥーリアがFP能力を駆使したところで自分の勝利は見えている。
 見据えるべきはトゥーリアではなく聖騎士であり、五天の能力者である聖騎士から逃げ延びるためには魔力(と呼称しているFP)を温存する必要がある。
 しかし、だからと言って目の前の敵を疎かにしては本末

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砂上の楼閣 22

 怪物の、あらゆる動作よりも疾く、鋭く、そして寸分の違わず精確に。
 怪物の胸の中央で輝く『オーブ』の不気味な白い輝きとは正反対の、清浄な青白い淡い光が聖騎士の放った剣閃の尾を引くように輝き、剣と『オーブ』が遂にぶつかった。
 莫大なFPを誇る聖騎士の剣技を以てしても『オーブ』を瞬時に破壊することは叶わなかったのか、聖騎士と怪物の動きが瞬間的には止まった。
 しかし、すぐに動き出す。
 聖騎士の身

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砂上の楼閣 21

 怪物が雄叫びを上げて倒れる。
 合わせたかのようにジェルドの攻撃も束の間で止んだ。

 トゥーリアは瞬間的に視線を動かした。
 視線の先は怪物の胸の中央、白く不気味な輝きを放つ球体。『オーブ』。
 アレを破壊すれば、少年を助けることが出来るのだろうか。
 希望的観測だ。
 でも、そちらに賭けるのは、悪くない。
 しかし、怪物を、怪物を作り出しているオーブを破壊することはトゥーリアには不可能だ。

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砂上の楼閣 20

 クリティカルではない、というのをトゥーリアはすぐに手応えで理解した。
 数メートル地面を転がったジェルドのそれもダメージ軽減のための動作。
 追撃を行うにはトゥーリアの体勢に無理があった。
 ジェルドは体の回転を上手く生かすようにして、膝立ちの体勢へ立て直すと同時にトゥーリアへ向かって杖を振った。
 トゥーリアは着地と同時に能力で強化したバックステップで迅速に距離を取る。
 直後、トゥーリアの居

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砂上の楼閣 19

 瞬時に魔法陣が宙に現れる。
 その数、五つ。
 魔法陣はすぐに輝き、即発動。
 炎の柱が噴き出した。

 トゥーリアは足を緩めない。
 ジェルドの炎の魔法は散々見た。
 おそらくジェルドにとってこの魔法が一番出が早くて扱いやすく、高威力の魔法なのだろう。
 しかし、その分融通の効かない部分もあるようだった。
 魔法陣から噴き出す炎の柱のその噴出方向は、魔法陣を見れば簡単に予測できる。
 不意打ち

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砂上の楼閣 18

 空の薬莢はFPによって推進する。
 その場の誰よりも速く、目標へ。
 FPによる身体強化と狙撃のための集中によって、トゥーリアの視界に映る世界は時間的に圧縮されて見えた。
 そのスローモーションの世界で見える、FPを伴う薬莢は、流星のように見えた。

 トゥーリア・グレイスは『運び屋』だった。
 FP操作に長け、探知や走査をはじめとする索敵、純粋な肉体強化、そして『射出』というFP能力を持つ。

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砂上の楼閣 17

 おそらく、怪物は起き上がり次第、聖騎士を攻撃するだろう。
 聖騎士が水の檻の中に居ようと関係ない。
 怪物には、おおよそ理性のようなものは残っていないだろう。
 水の檻ごと聖騎士を攻撃するはずだ。
 怪物の攻撃で水の檻は破壊されるだろうか?
 あの聖騎士ですらすぐには出てこない魔法だ、怪物の攻撃は全く通じず、むしろ水流と瓦礫によって怪物の方が致命傷を負うかもしれない。
 いや、怪物のあの膂力は侮

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砂上の楼閣 16

 怪物の右腕が相当な重量と速度、そして強力な膂力を持って聖騎士に襲い掛かる。
 聖騎士は即座に反応。
 左から迫る怪物の攻撃を、左腕の盾で軽々と弾き、いなす。
 トゥーリアでは足止めすら難しかった怪物がいとも容易くその巨体をぐらりと揺らした。
 その、瞬間にジェルドの魔法が発動した。
 聖騎士の頭上。
 どぽん、という鈍い音を立てて天井から水の塊が落ちてきた。
 降り注いだのではない。
 落ちた。

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砂上の楼閣 15

 一つ一つの炎の柱でさえ、あれほどの威力と高温を持っていた。
 それが連なり、束になって一点に向かえば、その威力と熱量は計り知れない。
 そして、そんな威力の魔法攻撃が構えたまま動かない聖騎士を襲った。
 瞬間的に聖騎士の居る、或いは居た空間の温度が急上昇し、空気が爆発的に膨張、結果突風が生まれる。
 爆発にも似た勢いの現象に、トゥーリアも空気を動かし対抗する。
 が、回避のため空中にいたトゥーリ

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