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「さよならミニスカート」アイドルは狂戦士(バーサーカー)




※超ネタバレ。


※以下、便宜上男女を“強い者”と“弱い者”に分けて考えているけど主語を男女として主張したいわけではなく、ましてや“強い者” “弱い者”という表現に対して蔑む意図は一切ありません。


気になっていた作品。やっと読んだ。
発売されている2巻までしか読んでないからそこまでの情報で感じたことまとめ。


元々“戦う女の子”を軸にしてる物語がだいすきなんだけど、さよならミニスカートも間違いなくそれ。りぼん編集長が「異例」って声明を出したこともあり結構大きなプロモーションを打ってたように思うけど、個人的に感じた異例な部分はラスボスが“現代社会そのもの”というところ。
タイトルからなんとなく性差によるバイアスの話なのかなとも思ったけど、たぶんそれだけの話ではなく、「弱い者を傷つけたらいけない」という当たり前のことが成されない現代社会への問題提起の意味合いが大きいように感じた。


主人公の仁那が「花恋」としてアイドル活動をしていた頃、握手会で腕を切りつけられるという事件が発生。そのショックで花恋は芸能界を引退。みんなの憧れだったさらさらのロングヘアをばっさり切り、スカートは履かず、通学ではスラックスを履いて男子高校生と見間違う出で立ちで生活するようになる…というのが物語の発端。


この切りつけた犯人がまだ捕まっていないっていうところ。自分より弱い者を無遠慮に傷つける社会を具現化した存在が「犯人」で、そのナイフがどこから飛んでくるかわからない。つまりこの作品においての「犯人」はいわゆる中ボス。
敵は、戦う相手は、社会。仁那(花恋)・未玖・辻ちゃん・六花(妹)、この物語に登場する女の子たちが晒されてきた世界。真のラスボスは概念という、まどマギもびっくりな厳しい戦いだ。


厳しい戦いだからこそ、生ぬるい戦い方で生き抜くのは難しい。そこで生まれるバーサーカーたち。
未玖は男子の理想、クラスのアイドル。ただし取り巻きを除き女ウケはすこぶる悪い。彼女はこの世界で生き抜くために“社会と戦わない”戦い方を選んだ子。強い者の顔色を伺いながら弱い者として振る舞う。それが女子たちの反感を買うけどそんなの関係ない。強い者の意思を汲んでいればそれですべてがうまくいくから。
この戦い方を選ぶきっかけ、未玖のトラウマはまだ出てきてないからまだまだ掘り下げ甲斐がありそうで期待。
というわけで未玖は女として着飾り振る舞うことをしない仁那に対してなぜか相容れない気持ちを抱いておりまぁ色々とちょっかいをかけてくるんだけど、仁那も実は、未玖の戦い方を知っている。


まだ小学生だった仁那がアイドルになりたかった理由は「いつも笑っていられる」から。
母親が再婚して新しい父親との子を妊娠した際、弟と妹どっちがほしいか聞かれる。
仁那は「弟も妹もどっちもいらないから自分のことを愛してほしい」という気持ちを伝えられず、即座に、笑顔で、適当に、「弟!」とか言える子供だった。大人(強い者)の顔色を伺う子供(弱い者)。
このエピソードと併せてアイドルになりたかった理由について上述のモノローグが入るんだけど…これはなかなかの屈折。
こうしてアイドルになった仁那=花恋はメンバーから冷静でアイドルとして正確な判断ができた反面、人間らしくなかったと後に評される。
花恋もまた、未玖と同じくバーサーカーだった。


ただし、脱バーサーカーをして友人の光のおかげで花恋にも楽しいことがあったとフラットな気持ちで考えられるようになった現在の仁那は「アイドルは奪われるだけじゃない。ファンからいろんなものを返してもらってる」と言っているからアイドル≒戦う女の子として見てしまう私としては救いがあってよかった…と心底ほっとした。


仁那は朝食に手作りスムージーを作ったりウォークインクローゼットに花恋時代の衣装をわざわざトルソーに着せて大切に飾っている。まだ自分を大切にできるし、まだ取り戻したいと願ってる。でももう今生では取り戻せないとも思ってる。このあたりの描写が本当に切ない。かわいいものがすきだったのに、着飾ることができなくなり、強い者として振る舞い牽制する戦い方しかできなくなってしまった。仁那は自分を「ダメだ」と思うしかなかったけど、唯一仁那=花恋だと気付いた友人であり強い者(男)側の光によって救われていく。


さて、この光もまたなかなかの屈折…というかシスコンを拗らせている。
光の妹である六花が中学校に入ってしばらくしてから、教師からのセクハラを受けたと両親に打ち明ける。その事実と周囲からの心無い言葉や対応により不登校引きこもりになった妹。その異変に当時気づけなかった・救えなかったことが光にとってのトラウマ。
でもこのシスコン、結局は“いいお兄ちゃんだった自分を取り戻したい”に繋がってるんじゃないの?と私はかなり捻くれた目線で見ている。
光もまた、“強い者”の側だ。それについては友人のメガネが「お前が男なかぎり、女はいつも怯えてる」という名言をいきなり繰り出してくる。(このメガネ、モブかと思ってたのに急に核心をついてくるからびっくりした。)
この作品はジャンルとして少女漫画に分類されているけど、よくある少女漫画のように無条件でヒロインを助けるヒーローは出てこない。光は、仁那や未玖を救うことで救われる。それが彼の罪滅ぼし、懺悔、そして希望だ。
そして光が救いを求めていたからこそ女の子というバイアスに囚われることがなく、“女らしい格好”をしていない仁那が花恋だと気付けたんじゃないかな。


仁那・光・未玖は戦い方が極端な子たちだけどこの作品には物語と読者のクロスポイントになる子もちゃんといる。
それが3人のクラスメイト、辻ちゃんだ。
カースト的にはたぶん中くらい。地味で控えめで、メガネよりモブらしい子。でも芯はしっかり持っているのが後々判明していく。
彼女の功績を細かく書いていくと分岐を一つ一つ拾っていかなくちゃいけなくなるので割愛。
先日の朝ドラ「なつぞら」で「奇跡なんてもんは人間が当たり前のことをする勇気みたいなもの」というセリフがあった。辻ちゃんは、そんな少しの勇気を持ってみた世界線の読者だ。
ただし、仁那・光・未玖の闇は辻ちゃんひとりには重すぎる…。より多くの読者が辻ちゃんになればがんばれる気がする。元気玉作ろう。


物語全体として見ると、お話の構成がとてもおもしろい。深読み厨歓喜な描写。そして戦いの相手が社会という概念になってしまう以上明確な勝ち負けはつけづらくて、落としどころをどこに持ってくるのかが少女漫画誌りぼん掲載作品として難しいなという印象。
でもかつてギャグコメディの皮をかぶった「こどものおもちゃ(小花美穂先生)」による社会問題シリアスアッパーを受けたことがある身としては、今後どうなっていくのかが楽しみだしりぼんだからできる現代日本で生きる私たちへのエールかつ問題提起だと思う。


そしてそれと同時に、作中で仁那は自分のトラウマのせいで光に嫌な思いをさせたくないとも零している。
これは本当に難しい問題で、傷つけないことと守ることが過剰になると今度は強弱が一転してしまうこともあるし守るつもりで知らない間にナイフを突きつけてしまってある場合もある。
大人でも悩むこの問題をりぼん(と少年ジャンプ+)にて連載していることで、子供たちがこれからを生き抜くヒントになればいい。
そして今戦っている大人に対しても救いになったらいいな。


驚いたのは、作者のフリースペースとなる柱が一本もないこと。RMCを読み終わったあと、あのスペースも併せてもう一回頭から読み直す楽しみはりぼんっ子ならわかってもらえると思う。
原稿時点で柱となるスペースを設けず、巻末のあとがき的なものも特になくて、イラストにスペシャルサンクスが書き加えられているだけ。伝えたいことはすべて漫画に詰め込んでいるんだなとこの作品が掲げるメッセージへの本気度が垣間見えた部分だった。


待望の3巻、2019年夏発売と巻末に書いてあったので楽しみ。

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