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心を動かされる珠玉のサントラ盤(3):「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」(エンニオ・モリコーネ)

「ドラマティック・アンダースコア」のサントラ盤を毎回紹介しています。

「ドラマティック・アンダースコア」とは、映画の中のアクションや、特定のシーンの情感・雰囲気、登場人物の感情の変化などを表現した音楽のことで、「劇伴(げきばん)音楽」と呼ばれたりします。

今回ご紹介するお薦めのサントラ盤は――

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続・夕陽のガンマン/地獄の決斗 THE GOOD, THE BAD AND THE UGLY
作曲:エンニオ・モリコーネ
Composed by ENNIO MORRICONE
指揮:ブルーノ・ニコライ
Conducted by BRUNO NICOLAI
演奏:オーケストラ・チネフォニカ・イタリアーナ
Performed by Orchestra Cinefonica Italiana
スペインQuartet Records / QR436

マエストロ・モリコーネ

近代映画音楽史を代表するイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネが、2020年7月6日に91歳でこの世を去った。数カ月前まで映画音楽の作曲を続けていたという。

1928年にローマで生まれたモリコーネは、1960年代から50年以上に渡り500本以上の長編映画/テレビ作品の音楽を作曲。サントラ盤の全世界での総販売枚数は5000万枚を超えると言われている。その膨大な作品数だけにも圧倒されるが、この中には映画音楽史に残る数多くの傑作スコアが含まれている。

どの作品も極めて独創的な主題と楽器の編成(彼はオーケストレーションをすべて自分で手がけた)により、明確な個性を持った素晴らしい音楽だった。2004年と2005年にローマ交響楽団を指揮して来日公演を行った際にも、感動的な演奏を聴かせてくれた。

モリコーネは、小学校時代の同級生だったセルジオ・レオーネ監督がクリント・イーストウッド主演で撮ったウエスタン3部作「荒野の用心棒」(1964)「夕陽のガンマン」(1965)「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」(1966)のスコアで世界的に有名になった。

彼が「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984)「ミッション」(1986)といった国際的なヒット作のスコアを手がけて、アメリカでもようやく名前が知られ始めた頃に、ちょうど私はL.A.に留学していて、私のアメリカ人の友人(映画学科の学生)に「この作曲家は“新人にしては”いい曲を書く」と言われて呆れてしまった(しかも名前を英語流に“モリコーン”と発音していた……)。その時点でモリコーネは何百本ものスコアを手がけており、その後「アンタッチャブル」(1987)「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988)等を手がけて更に有名になっていった。

スパゲッティ・ウエスタンの巨匠レオーネの傑作

この「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」は1966年製作で、日本公開は1967年12月。イタリア語題名は「IL BUONO, IL BRUTTO, IL CATTIVO」。レオーネ監督によるイーストウッド主演ウエスタン3部作の最後の作品。南北戦争末期の西部。懸賞金のかかったお尋ね者のトゥーコ(イーライ・ウォラック)と、彼を捕まえて賞金を得ては、処刑の寸前に突然現われて逃がしてやるブロンディー(イーストウッド)。このやり口でコンビを組んで懸賞金を騙し取っていた彼らは、ある日、逃走中の瀕死の強奪犯から大金が隠された場所を知らされる。

互いに相手を信用せず、隙を見ては裏切り合う2人だが、片方が大金の隠された墓地の名前を、他方が墓標の名前を知っていることから、またもコンビを組んで金を奪うことになる。そこに冷酷な凄腕ガンマンのセテンザ(リー・ヴァン・クリーフ)が絡み、大金をめぐって三つ巴の決闘となる。

原題名の「THE GOOD, THE BAD AND THE UGLY」は、主役3人のブロンディー(“いい人”)、セテンザ(“悪い奴”)、トゥーコ(“汚え奴”)のこと。

ラスト近くで荒野に延々と広がる墓地をトゥーコが走り回って金の隠された墓石を探すシーンと、クライマックスのブロンディー=セテンザ=トゥーコ3者決闘シーンは、ワイドスクリーンの画面サイズを効果的に使ったロングショットと超クローズアップの組み合わせ、徐々にスピードアップしていく緻密なモンタージュが見事な名シーン。

サッドヒルを掘り返せ

このクライマックスの決闘シーンのためにスペイン北部ブルゴス郊外のミランディージャ渓谷に作られた“サッドヒル”墓地のオープンセットを、撮影から50年後に復元する有志たちの活動を描いた傑作ドキュメンタリー「サッドヒルを掘り返せ(Sad Hill Unearthed)」(監督・脚本:ギレルモ・デ・オリベイラ)が2017年に製作されており、エンニオ・モリコーネ(当時88歳)、クリント・イーストウッド、ジョー・ダンテ、サー・クリストファー・フレイリング(著名なレオーネ作品の研究家)等が出演している。

サー・クリストファーの「イタリアの映画監督で一番世界に影響与えたのはヴィスコンティでもベルトルッチ、パゾリーニ、フェリーニ、アントニオーニでもなくレオーネだが、彼はイタリアのことを描かなかったので、ランクが下に見られている」という指摘が秀逸。

SHOOT, DON'T TALK!

この映画でトゥーコを演じた名優イーライ・ウォラックの出演シーンで、私の大好きなセリフがある。冒頭でトゥーコを殺しそこねて逆に腕を撃たれた殺し屋が、映画の中盤で泡風呂に入っているトゥーコを見つけて、銃を構えながら部屋に入ってくる。男は片腕になっている。

「お前のことを8カ月も探したぜ。(中略)左手で撃てるように練習する時間はたっぷりあった」
と、決めゼリフを得意げに話しながら銃を向けるが、トゥーコは泡の中に隠し持った銃で殺し屋をあっさり撃ち殺し、一言:

「人を撃つときはだらだらしゃべってないで撃て(When you have to shoot, shoot. Don't talk.)」

これはウォラックのアドリブのセリフだったらしく、撮影現場のスタッフは大爆笑になったという。

この映画が日本でテレビ放映された際の日本語吹替キャストも素晴らしかった(イーストウッド=山田康雄、ウォラック=大塚周夫、ヴァン・クリーフ=納谷悟朗、いずれも故人)。

モリコーネの傑作スコア

エンニオ・モリコーネ(1928~2020)の音楽は、数多い彼のウエスタン・スコア中でも代表作の1つ。冒頭の「Prologo / Il buono, il brutto, il cattivo (titoli)」は、重厚でワイルドなタッチのメインタイトル。オーケストラとコーラスにギター、ハーモニカ、オカリナや叫び声まで加えたユニークな構成の演奏。ここで登場する“叫び”のフレーズは、コヨーテの鳴き声をイメージしたものだが、ブロンディはフルート、セテンザはオカリナ、トゥーコは叫び声で表現される。

「La missione di San Antonio / Il mio miglior nemico veglia su di me」は、大らかでジェントルな主題(“兵士の物語”)で、ハーモニカと男声コーラスをフィーチャーして何度か繰り返される名曲。

「L'estasi dell'oro」は、サッドヒル墓地でトゥーコが金の隠された墓石を探すシーンの曲(“ゴールドのエクスタシー”)で、数あるモリコーネ作曲の主題の中でもベスト作の1つだろう。徐々に盛り上がっていく陶酔感の表現が素晴らしい。この曲はアメリカのバンド、メタリカが入場音楽として使用しており、上述の「サッドヒルを掘り返せ」にも同バンドのジェームズ・ヘットフィールドが登場する。

「In due scaverete piu presto! / Il triello」「Il triello seconda parte」は、クライマックスの決闘シーンの曲(“対決する3人”)で、これも名曲。

レオーネとモリコーネの証言では、この「ゴールドのエクスタシー」と「対決する3人」は、撮影の前にモリコーネによって作曲され、撮影中に実際に流されたというが、イーストウッドを含めた俳優たちは音楽が流れていたことを覚えていないらしい。

エンニオ・モリコーネは傑作スコアを数多く残しているので、これから少しずつご紹介していきたい。


映画音楽作曲家についてもっと知りたい方は、こちらのサイトをどうぞ:
素晴らしき映画音楽作曲家たち

<エンニオ・モリコーネに関する記事>
心を動かされる珠玉のサントラ盤(11):エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』
心を動かされる珠玉のサントラ盤(12):「モリコーネ 映画が恋した音楽家」(映画レビュー)


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