見出し画像

心を動かされる珠玉のサントラ盤(13):「ゴッドファーザー」(ニーノ・ロータ)

「ドラマティック・アンダースコア」のサントラ盤を毎回紹介しています。

「ドラマティック・アンダースコア」とは、映画の中のアクションや、特定のシーンの情感・雰囲気、登場人物の感情の変化などを表現した音楽のことで、「劇伴(げきばん)音楽」と呼ばれたりします。

今回ご紹介するお薦めのサントラ盤は――


ゴッドファーザー THE GODFATHER
作曲:ニーノ・ロータ
Composed by NINO ROTA
指揮:カルロ・サヴィーナ
Conducted by CARLO SAVINA
米La-La Land Records / LLLCD 1610


“マフィア映画”の最高傑作

「カンバセーション…盗聴…」(1973)「地獄の黙示録」(1979)「ドラキュラ」(1992)「レインメーカー」(1997)等のフランシス・フォード・コッポラ(1939~)が1972年に監督した映画で、イタリア系移民としてアメリカに渡り、巨大な犯罪組織となったマフィアの内幕を描くドラマ。出演はマーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァル、ダイアン・キートン、タリア・シャイア、ジョン・カザール他。「スーパーマン」(1978)等のマリオ・プーゾの原作を基にコッポラ監督とプーゾ自身が脚本を執筆。撮影はウディ・アレン監督とのコラボレーションでも知られるゴードン・ウィリス。リアリスティックな暴力シーンのメイクアップは「エクソシスト」(1973)「アマデウス」(1984)等を手がけた名手ディック・スミス。

1945年の夏、コルレオーネの屋敷では彼の娘コニー(シャイア)の結婚式が盛大に行なわれ、一族の者たちや友人たち、組織のメンバーたち数百名が集まっていた。ブラインドが降ろされた書斎では、ドン・ヴィトー・コルレオーネ(ブランド)が、友人たちの頼み事を聞いていた。シシリーでは、娘の結婚式の日に受けた願いを拒むことはできない、とのしきたりがあった。彼は、貧しく微力な者であっても助けを求めてくれば親身になって問題を解決してやり、その報いは、友情の証と“ドン”あるいは“ゴッドファーザー”という愛情のこもった尊称だった。そんなある日、麻薬を商売にしている危険な男ソロッツォが、コルレオーネ・ファミリーに仕事の話を持ちかけてきた……。

アル・パチーノが海兵隊の英雄でマフィアの仕事に関わることを避けてきた末息子マイケルを、ジェームズ・カーンが気性の激しい長男ソニーを、ロバート・デュヴァルが一家の養子で顧問役であるトム・ヘイゲンを演じている。1972年度アカデミー賞の監督賞、助演男優賞、衣装デザイン賞、音響賞、編集賞にノミネートされ、作品賞、主演男優賞(マーロン・ブランド)、脚色賞を受賞しており、マフィアを描いた作品ではこれを超える映画はないとされている傑作。

イタリア映画音楽界の名作曲家を起用

この映画の音楽を作曲したのは、「甘い生活」(1959)「8 1/2」(1963)「サテリコン」(1969)「フェリーニのアマルコルド」(1974)といったフェデリコ・フェリーニ監督作品や、「戦争と平和」(1956)「若者のすべて」(1960)「山猫」(1963)「ワーテルロー」(1970)「ナイル殺人事件」(1978)等のスコアを手がけたイタリアの名作曲家ニーノ・ロータ(1911~1979)で、これは彼の代表作の1つでもある。映画会社のパラマウントは、アメリカ人のヘンリー・マンシーニを起用しようとしていたが、純粋なイタリア人作曲家を希望したコッポラ監督は、自らローマに出向き、当初は興味を示さなかったロータに直談判して作曲を依頼したという。

ヴィトーからマイケルへ

映画の冒頭で流れる「Main Title (The Godfather Waltz)」は、トランペット・ソロによるノスタルジックなタッチのゴッドファーザーの主題から、同じ主題によるワルツへと展開するメインタイトル。「The New Godfather」では、メランコリックでドラマティックなマイケルの主題が登場するが、スコア全体が主にこの2つの主題の様々なバリエーションにより構成されており、コルレオーネ・ファミリーの“ドン”であり“ゴッドファーザー”が、ブランド演じるヴィトーからパチーノ演じるマイケルに継承されていく過程が描写される。

「The Godfather Waltz」

「The New Godfather」

ファミリーの故郷であるシシリーを訪れたマイケルが、美しいアポロニアとめぐり逢い恋に落ちるシーンでは、オーボエ、マンドリン、アコーディオンをフィーチャーしたマイケルとアポロニアの愛のテーマ「Love Theme from The Godfather」が流れる。これは映画音楽史上でも最も有名な曲の1つであろうが、後述する事情により、この主題があったためにニーノ・ロータはアカデミー賞の作曲賞の対象外となってしまった。

「The Baptism」は、教会でマイケルが妹コニーの息子(フランシスの娘で、後に「ロスト・イン・トランスレーション」等を監督するソフィア・コッポラが演じる赤ちゃん)の“ゴッドファーザー”となり洗礼をする過程に、コルレオーネ・ファミリーによる粛清のモンタージュが重なるシーンでの、荘厳なオルガンによるダークで不吉なタッチの曲。最後のフィナーレ「The Godfather Finale」では、マイケルの主題、マンドリンによる愛のテーマ、ヴァイオリン・ソロによるゴッドファーザーの主題がメドレー風に展開する。

「The Godfather Finale」

過去の自作を流用したことが裏目に

コッポラ監督からマイケルとアポロニアの愛のテーマを追加で作曲してほしいと要請されたニーノ・ロータは、多忙な中で新しい主題を作曲するのは時間の無駄だと感じ、過去に手がけた主題のいくつかを友人たちに聞かせて選ばせ、1958年製作のイタリアのコメディ映画「(未公開)Fortunella」に彼が作曲した主題を流用することにした。

パラマウントは「ゴッドファーザー」のスコアをアカデミー賞の作曲賞(Original Dramatic Score)の候補として提出したが、匿名のイタリア人作曲家グループがアカデミーに電報を送り、このスコアの中の「愛のテーマ」は、過去に別のイタリア映画で使用されているので、アカデミーのルールに従えばオリジナル・スコアとは見なされないはずだ、と通告してきた。

「Love Theme from The Godfather」

「愛のテーマ」はスコア全体の中で合計7分程度しか流れないが、映画会社がこの曲を強く前面に出してプロモーションした上に、パーシー・フェイス・オーケストラがカヴァー演奏をリリースしたり、アンディ・ウィリアムス等の歌手がラリー・キュージックによる詞をつけた『Speak Softly Love』を歌ったりしたので、この映画を代表する最も印象的な主題として広く認知されることになった。

「Speak Softly Love」アンディ・ウィリアムス

結果としてスコア全体が作曲賞の対象からはずされてしまったため、ロータはノミネートすらされなかった。一方で、ロータはこのスコアでゴールデン・グローブの音楽賞、英国アカデミー賞の作曲賞、グラミー賞の映画・テレビサウンドトラック部門賞を受賞したほか、1974年の「ゴッドファーザーPART II」のスコアではアカデミー賞の作曲賞を見事受賞しているが、このスコア中にも1作目の「愛のテーマ」は含まれていた。

アカデミーに告発の電報を送らせたのは「(未公開)Fortunella」のプロデューサーだったディノ・デ・ラウレンティスだったとの憶測があり、イタリアでもコケたこの旧作ではロータと契約すら交わさず何のギャラも支払わなかったラウレンティスが、「ゴッドファーザー」の興行的大成功から何らかの利益を得ようと画策したのではないかと考えられている。

「Fortunella」

「太陽がいっぱい」「ロミオとジュリエット」

「ゴッドファーザー」やフェリーニ監督作品以外でニーノ・ロータが手がけたスコアでは、「太陽がいっぱい」と「ロミオとジュリエット」の2作品が、特に広く親しまれている。

「太陽がいっぱい(Plein Soleil)」は、1960年製作のフランス=イタリア合作映画で、「禁じられた遊び」(1951)「雨の訪問者」(1970)「狼は天使の匂い」(1972)等のルネ・クレマン監督の代表作の1つ。パトリシア・ハイスミスの原作小説『The Talented Mr. Ripley』を基にしたサスペンス映画で、アラン・ドロン、モーリス・ロネ、マリー・ラフォレ他が出演した名作。富豪の友人フィリップ(ロネ)を殺害し、彼に成り済まして財産を奪おうとする貧しい青年トム・リプリー(ドロン)を描いたドラマで、メランコリックなタッチのメインの主題は、あまりにも有名。

「ロミオとジュリエット(Romeo and Juliet)」は、1968年製作のイギリス=イタリア合作映画。ウィリアム・シェイクスピアの戯曲を基に「ブラザー・サン シスター・ムーン」(1972)「チャンプ」(1979)「エンドレス・ラブ」(1981)等のフランコ・ゼフィレッリが脚色し監督した作品で、レナード・ホワイティング、オリヴィア・ハッセー(当時16歳)他が出演。こちらのロマンティックかつ非哀感に満ちた「愛のテーマ」も有名で、「太陽がいっぱい」の主題と合わせ、多数のカヴァー・ヴァージョンがリリースされている。

尚、La-La Landレーベルが2022年11月にリリースした「ゴッドファーザー」のサントラCDは、2枚組・5000枚限定プレスの“50周年記念盤”で、これまで未発表だった曲を多数含むエクスパンデッド盤となっている。

映画音楽作曲家についてもっと知りたい方は、こちらのサイトをどうぞ:
素晴らしき映画音楽作曲家たち


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?