個人的に好きなポリフォニー音楽7選

ポリフォニー音楽と聞いてパッとどんなのか思い浮かべられる人は結構音楽好きだと思うのですが、
日本語にすると「多声音楽」。2つ以上の独立した声部で、それぞれが対等の立場で絡み合っていく様式の音楽です。
.....といっても、普段自分たちが耳にする音楽ではないからクラシック系を聴かない人にとってはイメージしづらいんですよね。
なんだろう、ポリフォニー音楽を合唱で歌ったらすごく教会っぽくなります!!!(雑)

ちなみに、普段聴く音楽というのは「伴奏とメロディ」から成る「ホモフォニー」という音楽が主流です。
ロックバンドでしたら「ギター、ベース、ドラム と ボーカル」
弾き歌いだったら「ピアノ と ボーカル」
ピアノソロだったら「(基本は)左手の伴奏と右手のメロディ」
って感じです。これはイメージしやすいかと思います。
ところが、ポリフォニー音楽は伴奏というものはなく、異なるメロディが複数存在している音楽です。
ポリフォニー音楽で一番有名な曲は「ハゲの歌」の替え歌で有名な「フーガト短調」です。
織物のように声部が関わり合って発展していく感じの音楽です。
(ハゲの歌って言葉必要だったかな....?)

ポリフォニー音楽の基本となる技法は「対位法」と呼ばれる、声部の関わり合いのルールを体系化したものがあります。
僕は対位法オタク(もはや特殊性癖のHENTAI)なのでどの時代のポリフォニー音楽も超大好きなんです。。

ということで、僕がオススメするポリフォニー音楽を時代別に7曲紹介してみたいと思います!!!!

(1)中世
《ノートルダム・ミサ曲よりキリエ》
ギョーム・ド・マショー作曲

Machaut Messe de Notre Dame - Kyrie
https://www.youtube.com/watch?v=5GgkAM8crbU

なんか!!!なんか!!!映画とかゲームとかで流れていそうな!!!いかにも中世ヨーロッパの音がしますね!!!(興奮)
歌詞はラテン語で「Kyrie eleison; Christe eleison;(主よ、憐れんでください。キリストよ、憐れんでください)」しか言っていません。
7分くらいある曲なのに歌詞はそれだけです。意外とこれは普通だったりします。
歌詞からもわかる通り、非常にキリスト教(カトリック)の要素が強い曲です。
いわゆるクラシック音楽というのは18世紀くらいまで非常にキリスト教の深い関わりがあるものでした。
この曲を作曲したマショーという人は14世紀のフランス人なので、キリスト教音楽真っ只中の人物ですね。
歴史的にはミサ通常文を全章作曲した現存する最古の作品だそうです。
ミサ通常文ってなに??そもそもミサってなに??という話になりそうですが、これは説明すると膨大な量になるのと、この分野はあまり専門家ではないので端折ります...

とても古の調べって感じがしますよね。
音楽としてはシンプルで、非常にゆっくりとした時間が流れていて、短い歌詞をただひたすらと繰り返し、「憐れんでください」というメッセージを神に向けて切実と訴えかける感じがします。
まだ音楽よりも言葉に重みがあった頃の声楽曲ですね。

(2)ルネサンス
《流れよ、わが涙》
ジョン・ダウランド作曲

John Dowland: Flow my tears (Lachrimae); Phoebe Jevtovic Rosquist, soprano & David Tayler, lute
https://www.youtube.com/watch?v=u3clX2CJqzs

イングランドの作曲家です!!当時ヨーロッパ中で人気になった流行歌です!!!
YouTubeの音源だとリュートと独唱という編成ですが、当時はリュートやヴィオラ・ダ・ガンバという古楽で用いられる弦楽器で合奏したり、合唱で歌われたりと、多種多様な編成で演奏されていました。
これもポリフォニー音楽です。
でも、主旋律となる声部があまりにも印象的で、個人的にはとても馴染みやすいメロディです。
ダウランドは16世紀から17世紀を生きた作曲家なのですが、その頃の楽譜は楽器指定という概念は一般的でなく、声部だけ書かれた楽譜を見ながらみんな任意の編成で演奏したりしていました。
YouTubeで音源漁ると本当にいろんな編成で聴くことができます。
とても古い時代の音楽だなーという感じはしますが、この音楽がもつ叙情性や感情の不安定さってのは現代人の僕にも超ビンビンに伝わってきます。本当に美しい曲です。

(3)バロック
《平均律クラヴィーア曲集第1巻 第24番 ロ短調 前奏曲とフーガ》
ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲

バッハ: 平均律クラヴィーア 第1巻 第24番 ロ短調 BWV869 リヒテル 1970
https://www.youtube.com/watch?v=a_828OUw-gc

ポリフォニー音楽でバロックといえばJ.S.バッハしかないでしょ!!と思い軽率にバッハの音楽を紹介します。。
この曲、J.S.バッハの作品の中ではそこまで有名とは言えないのですが、作曲技法がやたら時代を超越しています....
実はこの頃くらいから調性音楽という概念が生まれてきました。いわゆる「ハ長調」とか「ニ短調」という名前のやつです。
それ以前は「調性」ではなく「旋法」っていう概念だったらしいです。
この説明は長くなるので端折りますが、超ざっくり言うと調性音楽の誕生により、よりドラマティックな音楽の展開ができるようになります。
ちなみに現在自分たちが耳にする音楽のほぼ100%が調性音楽です。

また、この時代あたりから「フーガ」と呼ばれる音楽様式が生まれました。
ある声部で主題が提示され、それに答えるように同じような形の旋律が現われ、先行主題を追いかける形でひたすら繰り返していく音楽です。
現在だと、対位法の集大成がフーガと言われるくらい、フーガを書くのが作曲の勉強では超大事だったりします。
この楽曲はフーガを書くのが滅茶苦茶難しいテーマを敢えて用いているみたいなのですが、バッハの巧みな作曲技術によって見事な均整美が生まれています・・・しゅごいです・・・

(4)古典派
《交響曲第41番「ジュピター」第4楽章》
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲

Böhm - Mozart - Symphony No.41 Jupiter - Molto Allegro
https://www.youtube.com/watch?v=x3jqrucEcAs

普段クラシック音楽全然聴かない人でも名前だけは知っているであろうあのモーツァルトです。
この時代あたりから現代の編成のオーケストラに近くなりました。(この曲は今の編成のオーケストラよりちょい規模が小さめ)
古典派の時代に生まれた作曲様式というのは、その後のロマン派や近代にもそのままといっていいくらい受け継がれていきます。
(交響曲、ソナタ形式、弦楽四重奏、連作歌曲など)
この曲はモーツァルトが書いた最後の交響曲の最終楽章です。
古典派の時代になると「伴奏と旋律」というホモフォニー音楽がメインになっているにも関わらず、やたらポリフォニー色が強い作品として有名です。
全部で8つの主題があり、4楽章全体を通してそれぞれの主題が何かしらの楽器で鳴っています。
フィナーレでは8つの主題を同時に使うという超すっごいことが起きています...聞いていて気づくとめっちゃ凄いです。
細かい要素の積み重ねでここまで巨大で壮大なものが作れるんだ..と圧倒される曲です。

(5)ロマン派
《ドイツ・レクイエム 3.「主よ、知らしめたまえ」》
ヨハネス・ブラームス作曲

Brahms - Ein deutsches Requiem - 3. Herr, lehre doch mich
https://www.youtube.com/watch?v=E75hqLtKJlg&list=PL0B99C0D78A7E1F8F&index=4

ホルン吹きが大好きブラームス先生です(?)
最初の冒頭の部分はホモフォニーですが、7:38からポリフォニー(フーガ)になります。(むしろここだけ聴いてほしい)
やっぱりロマン派になると曲が派手ですね....(ブラームスはロマン派にしては派手にならない方ですが)
レクイエムという名前が付いているのでキリスト教が題材なのですが、教会で演奏される用途ではなくコンサートホールで演奏されるため(演奏会用)の作品です。
この曲、第1曲めの動機「ド・ミ・ファ」が全曲にわたって使われています。
限られた動機を曲中でどう展開するかという技法は「動機労作」と呼ばれ、作曲の技法でとても大切とされることですが、名前の通りとっても大変です。
もちろんクラシックの有名な作品は動機労作がたくさん行われているのですが、ブラームスはかなり厳格に動機労作します。

ブラームスはロマン派の中でも後期の方の世代なのですが、バロックや古典など古い様式を重んじる傾向にありました。
ただ、古い様式を使っていながら、古臭さというものを全く感じさせないのがブラームスの凄いところだと思っています。
とてもフレッシュネスなフーガで好きです(?)

(6)近代
《交響曲第2番「十月革命に捧げる」》
ドミトリー・ショスタコーヴィチ作曲

ショスタコーヴィチ: 交響曲 第2番 Op.14「十月革命にささげる」ゲルギエフ 2009
https://www.youtube.com/watch?v=M1wkIJzOugE

近代と一言言ってもこの頃から音楽の流派は様々なものが誕生し始めましたが、この中でも社会主義リアリズム下のソビエト連邦の作曲家ショスタコーヴィチを作品を選びます。
副題の通り、十月革命の革命10周年を記念するコンクールで第1位に選ばれた若き日のショスタコーヴィチの作品です。
そもそも十月革命は首都レニングラードで起こった、多数の労働者や兵士らを扇動した革命家らによるクーデターとも言われます。
冒頭の混沌として淀んだ空間を感じさせる低音のポリフォニーは労働者の嘆きとも解釈できる説が...恐ろし
途中、バイオリンのソロから始まる箇所はウルトラ対位法という、27声部のポリフォニー音楽が始まります。ざわざわした空気の中、行進曲みたくなってきます。
その後は合唱が入るのですが、これ以降はほぼホモフォニーの音楽です。
最後の叫び声の歌詞、なんだろうと思って調べたらなかなか政治色丸出しの歌詞だったのでブラウザそっ閉じしました...

この曲、演奏される機会は少ないのですが、音楽的価値はすごく高い作品だと思っています。
特に前半部分のポリフォニー書法と、演出しようとする雰囲気は怖いくらいマッチしています。。。

(7)現代
アトモスフェール
ジョルジ・リゲティ作曲

Ligeti Atmospheres
https://www.youtube.com/watch?v=fXh07JJeA28

ミクロポリフォニー(微小細密複音楽)を使った楽曲です。
48声部のポリフォニー音楽ですが、もはや巨大な音響の固まりがうねうね動いているような印象を受けます。
混沌さを醸し出してるという点では前述のショスタコーヴィチの曲にも似ていますね。作曲技法的にやっていることはだいぶ違うみたいですが...(よくわかっていない)
スコアを見てみると想像以上に緻密に書かれていています。もう目眩がします......そもそもスコア指揮台に載るんですかこれ........

20世紀の現代音楽は、とにかく今まで誰もやらなかった音楽を作ろうという風潮が強いため、もはや音楽って何なんだろうと思えるくらい奇抜だったり難解な音楽が続々と生まれます。
この曲はまだ聴きやすい方です()
それでもオーケストラという編成でここまでも神秘的な世界を作ることができることにびっくりさせられます。


以上、時代別に7曲のポリフォニー音楽を紹介し、早口のオタクみたいに好きなように語ってみました!!!
一口にポリフォニーといっても、時代や地域、作曲家が違うことによってここまでも音楽の印象が変わることがお分かりになったと思います。

〜ここから余談〜
ポピュラーミュージックのほとんどは伴奏とメロディというホモフォニーの音楽ですが、完全なポリフォニーとは言わなくても、ポリフォニー的要素は含む音楽は結構あったりします。
メロディーの裏で鳴っているオブリガード(裏メロ)だったり、ボーカルとバックコーラスによるコール&レスポンスは広い意味の多声音楽と言えるのでは...と個人的には思います。
こういうのって、音楽を飽きさせないための工夫だったり、より音楽が楽しくなるものだったりするので、そういう細かい工夫に気づくことができるとめっちゃ音楽が楽しくなります!


こんな長い文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

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