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学校ができる不登校予防策②中学校編

次に中学生の休み始めるきっかけを見ていきましょう。(小学校編はこちら

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割合として最も高いのは「身体の不調」(32.6%)ですが、それについては別の機会に述べることにします。今回、僕が注目したいのは「勉強がわからない(授業がおもしろくなかった、成績がよくなかった、テストの点がよくなかったなど)」という回答の割合(27.6%)の高さ(③部分)です。

これは小学校も低くはありませんでしたが、中学校になると割合はかなり高くなっています。小学校の授業と比較すると、抽象度の高い概念や暗記すべき事項が多いにも関わらず、授業のスピードは早い。新しい教科もある。手を動かしたり、話し合ったり、という身体性を伴ったり、他者と関わりあいながら進んでいく活動は少なくなり、板書と教科書など文字ベースでの授業がメインになる。そして、複数の教科が同じタイミングでテストされ、しかも、各教科の試験範囲はいくつもの単元にまたがっている。

こうしたいきなりの変化についていけない子どもたちがでてくることは容易に想像できます。

では次にいきましょう。

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次に「友達のこと」(いじめなど以外)の割合(25.6%:④部分)がグンと高くなっています。*1

この時期の子どもたちは「仲間から認められたい」という欲求が増大する時期で、また性的な成熟が始まり、異性や意中の相手から自分がどう見られているかにとても敏感になる時期です。少し乱暴に言うと、他の生徒から「承認されたい」という欲求が非常に高まっているわけです。*2

しかし、ここ10年ほどですっかり広まった「スクールカースト」という言葉に象徴されるように、その承認を十分に得られるのはカーストの上位10%程度。残りの90%は何らかの形で承認不足状態になっているわけです。加えて、かつてならその承認不足を補ってくれていただろう学校外の人間関係(例えば「ロック」を教えてくれる近所の兄ちゃん的存在)が、今の子どもたちの周りからはどんどんなくなっている。学校における承認以外に承認の源泉たりうる社会関係が薄いわけです。*3

まとめると、今の子どもたちは、唯一の承認の源泉が学校=クラスになっている一方で、そこで十分に承認を得られるのはごく少数の子どもしかいないという過酷な状況を生きている、ということになります。こうして多くの子どもたちが、仲間から認められたいのに、学校ではほとんと認められてない、という不全感を抱え、不登校になっているのだと考えられます。

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さて、こうしたことから、中学校における不登校予防策の方向性が見えてきます。

①勉強に遅れる子を早期発見して手当する

まずは、学校の勉強に遅れていく子どもたちを早期発見し、早期手当する手法、理解度が遅い子への恒常的な支援策を整備することです。

一つの方法としては、千代田区の麹町中で行われているように、定期テストを廃止して、代わりに、よりスモールステップで単元ごとに理解度をチェックする方法です。そして、どうしてもそのスピードについていけない子どもたちに関しては、補助授業をしたり、土学などで地域の大人にも手伝ってもらって、支援していくということが必要です。

②スクールカースト化を防ぐクラス経営

次に、スクールカーストなど上限関係が生まれにくいクラス経営をすることです。

これに関しては、精神科医の斎藤環さんがこう述べられています。

班がえや席がえをときどき行うだけでもずいぶん変わります。そのとき、カーストという言葉を使うかどうかは別として、「そういう階層はよくない、そういうものはつくらせない。そのために席がえをします」と意図を明示すればきわめて有効です。要するに、「ひとりひとりの個人を尊重し、協調性などよりも個人の尊厳をだいじにする」と、優先順位をはっきりつけるということです。」

帝国書院「社会科教育を考える 階【きざはし】NO.31<池上彰のインタビュー31>不登校の子どものためにできること~個人の尊重、真のコミュニケーション能力育成~」より


スクールカースト化が起りにくいしかけを年間のクラス経営に組み込んでおくことで、子どもたちにとって唯一の承認の源泉となっているクラス=学校での承認不足とそれに端を発する不登校を予防していくことができるのではないかと思います。

以上、中学校における不登校予防策でした。


次回は、「復帰しにくい理由」と復帰しやすい環境づくり(小学校)について述べていきたいと思います。


*1:「友達のこと(いじめいやがらせがあった)」も、小学校と同様高い割合であることに変わりはないので、対人関係スキルのトレーニングは中学校においても定期的にやるべきものだと思います。

*2:近年、人間の発達段階における「思春期」の特殊性が様々な研究としてでてきている。男性に性的な成熟をもたらすテストステロンは、「人(仲間)から認められたい」という欲求を引き起こす効果があり、また女性の場合はオキシトシンというホルモンが分泌され「仲間との絆を深めたい」という欲求を引き起こさせることが明らかになっている。どちらも人を「社会化」する重要な役割がある。参考文献として以下の二つをあげておきます。

『10代脳の鍛え方: 悪いリスクから守り、伸びるチャレンジの場をつくる』ジェス・P・シャットキン

『10代の脳 反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』フランシス・ジェンセン, エイミー・エリス・ナット


*3:なぜそうなってしまっているかは、以前書いた「不登校が「甘え」という人たちへをご覧ください。

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