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懺悔と告白に愛を添え 2

「なんじゃなんじゃ、ワシはアルンお嬢ちゃんと話したいんじゃ!老い先短いワシの楽しみを取ろうというのか!」

「んなこと言ってられるうちは睡眠時間が短くなる程度の実害しかねえんだから他の趣味見つけろ!それか爺ちゃん、婆ちゃんから今も愛情が注がれてるのか確かめるために、アルンに仕事を頼みに来たのか?」

「そうじゃな。それも一興《いっきょう》か……。よしお嬢ちゃん、ワシと妻との夫婦関係が良好か確かめ──────」

「碌《ろく》な結果でねえから早く帰れ!ほら、早く!」

 突如として訪れた青年、カルドラは祖父の腕を掴み懺悔室《ざんげしつ》から引きずり出して、というより空き巣を追い出すかのように教会の外へ。余程居てほしくないのか、かなり強引だった。

「やっと出て行った。ったく」

「今日も来たの?あんたも暇ね。よければアンタを占ってあげるけど?」

 実は私が任されている仕事は二つある。一つは来訪者の懺悔に耳を傾け寄り添うこと。そしてもう一つが今の話、愛情の程度を調べる占いだ。専用の天秤《てんびん》を用いて、依頼者と調べて欲しい相手の名前を聞けば自《おの》ずと結果が見えてくるというモノ。

 どちらも料金制ではないが、コイツからなら取ってもいいかもなんて思う。

「助けてやったのにお礼も無しか?」

「華麗《かれい》な祖父捌きを見せてくれていたなら、万分の一の確率で或いは」

「薄いのは爺ちゃんの頭だけにしてくれ……」

 コミカルな雲がふよふよ浮かびそうな溜息を吐き出す彼と言葉を交わしながら、私は懺悔を耳にする場から脱する。

 年は私と同じく17歳で、金髪碧眼《へきがん》の整った顔立ち。可愛い女の子像の象徴とも呼べる特徴を統べる彼は、先程のお爺さんの孫にあたり、名はカルドラという。

 後は彼を閉め出せば、今度こそ今日の仕事は終わりだ。

 時間はまちまちで朝も昼も夜も唐突に訪れる彼。職業不詳で、いつもいつもその日にあった中身のないくだらない出来事を話しに来る、よく分からないヤツだ。


 ……そう、分からない。


 彼のことも、自分の気持ちもよく分からない。

 でも、この場所に訪れる来客にでもなく、私の父とでもなく、私とだけ話しに来る彼のことを私はもしかすると……なんて思ってみたりする。

 それこそ自分で自分を占えば結果は一目瞭然で判明するのだろうが、そんな真似は絶対にしない。

 この感情がもしもそうであれば掟に反してしまうから。


 判断する者は中立で無くてはいけない。だから誰も好きになってはいけない。


 これが唯一父からキツく言い聞かせられた縛りなのだ。

 破ることは許されない。

 破ればどんな断罪が待ち受けているのか知らないが、愚かな真似をするつもりは一切なかった。

「もう閉めるからさっさと出て」

「仕方ねえなぁ。後で絶対爺ちゃんをシバキ回してやる」

 固い誓いを言葉にしてカルドラは去って行く。

 大した事は言ってないのに、夕雲《ゆうぐも》を背にした彼の後ろ姿は無性に格好良く見えた。

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