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【長野県】「山が豊かでなければ、海も豊かでない」企業版ふるさと納税寄附者インタビュー #1 焼津鰹節水産加工業協同組合(静岡県焼津市)

長野県へ企業版ふるさと納税をした企業は、どんな目的や理由で寄附をしたのでしょうか?

今回からインタビューで企業の本音を伺ってみたいと思います。

まず、お話を伺ったのは「焼津鰹節水産加工業協同組合(静岡県焼津市)」。
静岡県の水産加工業組合が、なぜ長野県に企業版ふるさと納税を? 鰹節と林業との関係は? など、焼津鰹節水産加工業協同組合の大石さんと鈴木さんに詳しくお伺いしました。



焼津鰹節水産加工業協同組合 代表理事組合長 大石さん


焼津鰹節水産加工業協同組合 常務理事 鈴木さん


長野県林務部信州の木活用課 課長補佐兼担い手係長 橋渡さん

カツオ水揚げ量日本一! 技術革新でトップに駆け上った焼津の鰹節

―焼津鰹節水産加工業協同組合さんでは普段どんなお仕事をされているんですか。

大石:我々は鰹節業界の方々が集まっている組合で、現在組合員は72社です。

ただ、いま鰹節をつくっているのは10数社。昔は鰹節を扱っていたけれど、今は他のことをメインにしている方が多いですね。


組合の仕事の大半は、鰹節業界をサポートする内容。原料のカツオを保管する冷凍庫や、できあがった鰹節を保管する冷蔵庫の運用のほか、鰹節の製造工程で欠かせない薪を購入して組合員に販売する購買事業をしています。

―海に面していない長野県からすると、焼津の漁港の光景はうらやましい限り。ちなみに焼津港の特徴はどんなものでしょうか?

大石:焼津港はカツオの水揚げが日本一です。焼津には新港と外港があって、鮮度や獲り方の違いで港が分かれています。新港には、主に刺し身やたたきといった鮮魚用のカツオを獲る一本釣りの漁船。外港にはカツオの群れを獲るまき網漁船が入っていて、鰹節やなまり節などの加工業者は、主にこのまき網漁船で捉えたカツオを使っています。

焼津の場合はこのようなふたつの獲り方でカツオが一気に入ってくるので、水揚げ量が日本一なんですね。

―というと、やはり鰹節の歴史も古いのでしょうか?

大石:実は、産地としては遅い方なんです。そもそも鰹節は燃やした薪でカツオを燻して乾燥させてつくりますが、それができたのが江戸時代のはじめの頃と言われています。最初は紀州や土佐のほうから始まり、土佐の人が鰹節の製法を全国に広めた、と。静岡県では、まず伊豆に伝えられ、焼津はそのあとでした。


後発とはいえ、焼津は技術革新を先進的にやってきました。さまざまな乾燥の方法やカツオの切り方など、今最終的に残っている技術は焼津が開発したものです。

―後発だからこそ、さまざまな努力があったんですね。

大石:それに加え、東京・名古屋・大阪が近いという地理もよかったんでしょう。明治中期から大正にかけて、焼津鰹節のシェアは飛躍的に伸びました。同時に品質も向上し、鰹節の番付表も江戸時代は下のほうでしたが、明治中期から大正にかけて一番上の横綱に。そこから日本一の鰹節の産地というようになりました。

―現在はどのようなお取引先があるのでしょうか。

大石:大手の食品メーカーや調味料メーカーが主です。たとえば鹿児島の鰹節は問屋さんを通して広く流通される傾向にありますが、焼津は販売先が、付き合いが長い特定の先に限られている傾向がみられます。

一般のみなさんに広く焼津の鰹節を知ってもらいたい気持ちもありますが、ルートが決まっているという点においては安定しているというメリットがありますね。

鰹節の必需品! 1にカツオ、2には薪

―先程、鰹節の製造過程として「薪を燃やして燻す」と仰っていました。焼津の鰹節は薪にこだわりなどあるのでしょうか?

大石:鰹節の主原料はもちろんカツオ。ですが、その次に重要なのが薪です。

そして木ならどれでもいいというわけではなく、焼津では主にコナラの木を使っています。鰹節製造に向く薪は、ナラ、カシ、クヌギなどのドングリがなる木が一般的。九州のほうだと、さまざまな木を混ぜて使ったりもしていますが、焼津はほとんどコナラに限定しています。

<薪を燃やして燻す「焙乾」。鰹節の香りを構成する重要な工程>

カツオの匂いと薪を燃やした煙の匂いが合わさって、鰹節独特の風味が形成されます。煙の匂いで風味ががらっと変わるので、薪は鰹節の品質に大きな影響を与えるわけです。焼津の場合は、良い品質を安定的に保つためにコナラの薪に限定して使っていて、それが焼津の鰹節の特徴のひとつでもあります。


<コナラはブナ目ブナ科の落葉広葉樹>

―そのコナラの産地が長野県というわけですね!

大石:はい、うちの組合は長野県と山梨県でほぼまかなっています。ただ、薪の確保には相当苦労しています。

長野を中心にさまざまな薪業者さんとお取引をしていますが、高齢化のためにもう木が切れなくなってしまったという業者さんもいくつか。ケガをしたために供給ができないということが突発的に1、2件あるだけで、たちまち供給不足の危機になってしまうんです。

<木材の伐採の様子。大変な作業>

薪の生産者さんを含め林業業界全体として高齢化が進んでいると聞いていますから、これからも供給が減少していく可能性が高いことを危惧しています。鰹節をつくるには薪がないと始まらない、なんとか確保していくことを考えなきゃいけない……というときに、企業版ふるさと納税と出会いました。


企業版ふるさと納税で、長野県の林業と山を海から応援!

―どのようにして企業版ふるさと納税を知りましたか?

大石:鈴木常務は以前市役所に勤務していて、一般のふるさと納税を担当していたんですよ。

鈴木:仕事で携わっていたのは一般のふるさと納税ですが、企業版ふるさと納税の制度も知識としてあったので、これを活用できないかとずっと考えていました。長野県のなかでいろいろな市町を探してはみましたが、我々が支援したいことに近いものが長野県さんの林業の対策ということで、これに決めました。

―薪は鰹節製造に欠かせないものの、薪の確保が厳しい……といったところから、林業の支援をと思い立ったわけですね。

大石:これまでもずっと長野県の林業の方にはお世話になってきました。薪の供給に関して、我々は安定的な供給を確保していかなければなりません。

薪の供給不足の対策として、組合で薪を生産するところまで考えているくらいです。ただ、静岡県は温かいため広葉樹の枝が横に広がって何本も生えていってしまうんですね。これは薪として非常に使いづらい。寒い地方の広葉樹じゃないと薪として使えないので、やはり長野県のコナラが我々にとってとても重要です。林業家の方にもまだまだ薪をつくり続けていただきたいし、我々は長野県のコナラを供給してもらわないと鰹節がつくれなくなってしまう。

何かできることがないか考えているときに、企業版ふるさと納税の話が上がりました。

―林業を応援したいという気持ちが先立っていたんですね。

大石:そうですね。SDGsという面でも、林業を守る、山を守る。山と海はつながっているので、山が豊かでないと海も豊かでない、だから我々も山を守る義務があるということです。

―なるほど、山と海はつながっているんですね。
長野県へのご寄附が令和3年度ですが、焼津鰹節水産加工業協同組合さんにおいて企業版ふるさと納税を活用するのは何回目ですか?

大石:今回が初めてですね。

―初の試みということで、組合内でもさまざまな意見があったのでしょうか?

大石:いいえ、役員会でもみなさん快く賛同してくれて、特に苦労することもなくすんなり決まりました。

やはり薪に対する関心はみなさん強いんですよ。薪がなくなったら困るという思いが非常に強くて。供給不足に対して何か手を打たなきゃいけないというのは、組合の共通認識ですね。

―林業だけでなく、生業も持続可能にしていくため、にですね。このようなお話を受けて、県としてはいかがですか?

橋渡:林業で働いている人はどんどん減っていて、今1,500人くらいしかいないというのが実情です。林業は小さな業界。規模も小さいところが多いですから、自分たちの努力だけでは如何ともし難いといった部分もあり、さまざまな問題を抱えている状況です。そういうところに林業以外の業界からご支援をいただけるのはとても大きなことで、林業をこのようなかたちで評価していただけることは大変ありがたいお話です。

―焼津の組合からいただいたご寄附は、どのような事業に活用されましたか?

橋渡:林業の就業環境、福利厚生の充実のために、県から補助をする事業を行っていまして、その事業の一部に活用させていただきました。森林組合などで働いている皆さんの健康診断や退職金共済の掛け金の補助など、働きやすい環境づくりを支援しています。


<県からは特製の木製感謝状を贈らせていただきました。>

―最後に何か県に伝えたいことはありますか?

大石:林業の方がどんどん減っているという話がありましたけど、やはり何かに困っているから続けられなくなったり新しく始められなくなったりして減っていくと思うんですね。我々は薪がなくなったら何もできなくなりますので、何かできることがあれば共に手を携えて長野の森を守っていきたいと強く思っています。

橋渡:気持ちを寄せていただき、ありがとうございます。昔はどの家庭でも木は暮らしに欠かせない存在でしたが、生活様式の変化により需要が減って林業に従事する人も少なくなってしまいました。県としても、山と人との関わりを増やし、持続可能な森づくりに取り組んでいきます。

ちなみに普段の業務で林業業者さんと薪を通じて関わる機会はあるんですか?

鈴木:薪の運送業者さんからですね、お気遣いでカブトムシやタラノメなど、長野県由来の旬なモノをいただくことがあるんですよ。焼津では希少なものをいただいて喜ばれています。

橋渡:森の恵みですね! 長野県といろいろな場面で関わりをもっていただいていると聞いて、一県民としても大変嬉しく思います。ありがとうございます。

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私たちと「企業版ふるさと納税」を契機としてパートナーシップを構築し、一緒に地方創生に取り組んでいきませんか?もしご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ企画振興部総合政策課までお気軽にご相談ください。

長野県「企業版ふるさと納税」WEBページ
https://www.pref.nagano.lg.jp/kikaku/kensei/shisaku/kigyobanfurusatonouzei/soudanmadoguchi.html

お話を伺った焼津鰹節水産加工業協同組合さんのWEBページ
https://www.katsuobushi-kyo.or.jp/

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