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エレベーターの「開」を押し、社会に善意をプールする | 15分で考える音楽以前のこと(14)

2011年2月のことである。就職活動でとあるオフィスビルに行った。渋谷駅から徒歩10分ほど、7階建て。大容量でも高速でもないエレベーターを目指す私。

そして、驚いた。先にエレベーターに乗っている社員が「開」を押し、乗り込むのを待ってくれて「何階ですか?」と聞いてくれるのだ。それまで生き馬の目を抜き、その目玉でキャッチボールをするような修羅を生きていた、社会に全方位パンチを繰り出していた21歳の自分に、「何階ですか?」である。例えそれが善意ではなくイメージダウンを避けるためだとしても、美しい行為を何気なくできる大人たちに感動した。ラブアンドピースだ。善のネーションだ。人類賛歌だ。私は昔からそれなりにチョロかったのよ。

そして2020年7月、池袋。3回連続で、エレベーターを閉められた。扉に歩み寄る自分の目の前で「閉」を押される。マジ?コロナだから?10年でいろいろ変わっちゃったっけ?どうだっけ?セチガレ〜〜〜〜!!!

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とにかく、美しい行為を何気なく行う大人に憧れた20代だったように思う。飲み屋が混んでくれば、先着の客から酒を飲み干し去るべし。初めていくバーでは心の中で飲む杯数を決め、それを徹底してまもるべし。本や酒場で、そういったことを教わった。

21歳からの数年間は確実に、昼と夜の両側面で、善意を分け合い社会にプールすることで少しずつ生きやすくなっていくことを覚えた時期だったと思う。普通それって何歳ぐらいでやるものなんですか?わかんねえな。一生そういう機会に出会えなかったかもしれないもんな。だとしたらなおさら、今日も明日も、おれは絶対に「開」を押し続けよう。

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