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食費をなくすための狩猟④

食費を浮かすことで、自分の場合だと約70万円分の売上を減らすことができる。売上を減らすことで、働く時間を減らすことができる。働く時間を減らすことで、自由な時間ができる。自由な時間には、畑ができる。畑をしたら、野菜ができる。狩猟もできる。狩猟をしたら、肉を得られる。という暮らし方を実現するために狩猟をはじめて3年。まだまだ食を自給できていないのはそうなんですが、前回までタイトルが「食費を浮かすための狩猟」だったんですが、「浮かす」っていうのはどうも中途半端というか、本気度が低いというか、取って付けたような感じもあって、簡単に言うとしっくりきてなくて、タイトルを変えました。「食費をなくすための狩猟」と、このようにしました。浮かす、のではなく、なくす。こっちのほうが、食費をゼロにしていこうという強い気持ちがこもっている気がして。

それはさておき、初の獲物(雌鹿)を捕獲した後も、ひと月に1〜3頭くらいのペースで、生け捕りをできるようになっていきました。結果、狩猟1年目の捕獲数は、鹿12頭。これを多いという人もいれば、少ないという人もあると思います。ぼく自身としては、師匠の捕獲数がとんでもなく多いため、具体的には数百頭レベルの実績をもっているため、やはり自分の捕獲数は少ないと言えます。とはいえ、12頭もの鹿の命をいただいています。果たしてぼくは、そのひとつひとつの命に対して、1頭目のときも10頭目のときも、同じ気持ちの向き合い方ができていただろうか。

1頭目と10頭目、その捕獲における違いを挙げるなら、自分で言うのもなんですが「手際の良さ」です。罠入れ、捕獲(生け捕り)、腹出し(内蔵処理)、解体、精肉に至るまで、1頭目より2頭目、2頭目より3頭目と、捕獲経験が増えるにしたがって明らかに時間短縮できるようになったからです。時短できるようになったということは、生きた状態の鹿と向き合う時間が短くなったということですが、これに関しては、時短できたからといって鹿を殺める事の重大さを軽んじているわけではありません。なんなら時間をかけないで一連の工程を速やかに進めていくほうが鹿を苦しめずに済むので、むしろこれは命を頂くことに真摯に向き合った結果だといえるのです。

一方で、捕獲を重ね、一連の工程・作業スピードが増すにつれて、より動きが機会的かつ自身の中で書いて整理されていったマニュアルの通りにもなり、無駄な動作が削ぎ落とされていくと同時に、鹿と対峙しているときの感情もまた、機会的かつマニュアル的になっているような気がしてきて釈然としない思いも生まれ、少しずつ大きくなっていきました。要は作業がルーティン化することにより、1頭1頭違う命であるにも関わらず、同じ要領で、同じ作業工程で、罠入れ→捕獲(生け捕り)→腹出し(内蔵処理)→解体→精肉を実施することにより、自分が自分の食肉加工業者化している感覚にとらわれるようになりました。猟師の自分、食肉加工業者の自分、消費者の自分(お金は払わないけれど)という一人三役をこなしているうちに、茶番劇をしてるっていうか、ごっこ感を自覚してしまい、これまでの狩猟への意欲が、ぽろぽろと剥がれ、落ちた先にあるのは無気力っていうか。なんでこんなことになるのか。

それは、捕獲数が増えれば増えるほど、肉を頂きたい、より、もっと獲りたい、のほうが強くなってしまっているからでした。たしかに、家族4人の肉を1年分確保しようと思えば、1頭につき肉が10kg程取れる鹿を16〜17頭は捕獲する必要があります。けれども捕獲の回数を重ねるごとに、獲れてしまえばさあ次だと、機会的に工程をこなすだけで、丁寧に食べるということをおざなりにしていたのは不徳の致すところです。しかしながら狩猟というものには、生きものの持つ狩猟本能のようなものを目覚めさせる作用があることもまた事実なんじゃないかと思っていて、命と向き合い続けた結果、皮肉にも本来の狩猟目的を忘れて、狩猟本能だけが暴走してしまうことがあることを、身をもって体験したように思います。

だからぼくは、狩猟をする=命の大切さと向き合うことが正義、というイメージを正としすぎるのは危険だと考えるようになりました。ぼくが狩猟をするのは、あくまでぼくやぼくの家族で肉を食べたいから。できる限り余すことなく食べること。そのために狩猟をすること。そんなふうに考えられるようになってからは、また山に入るのが楽しくなりました。持てる技術をぜんぶ出し切って、お肉が美味しくなるよう処理することを、以前にも増して心掛けるようになりました。

2022年11月19日、朝。ぼくは一本角の雄鹿と対峙していました。角が枝分かれし何段とかにはならず、鬼のような角が左右に生え、角くくりといわれる器具がするするするするして角にひっかからず、またしても為す術なく40分ほど向き合っていたのでした。

鬼角の雄鹿

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