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あの年の日記

1966年1月

「澤村く~ん!」
校門を出たところで後ろから声をかけられた。
「今から講堂前で集会だけど出ないの? あ、明けましておめでとうだよね?」
「おー、井川女史か。年賀状も来てた。ありがとう。今年もよろしくね。」
また女史って言うかという顔をしたまま彼女は続けた。
「年末下宿に電話しても大家さんは居ないって言うだけだし。帰省?」
「うん。親父の潰瘍が悪いとかで三年ぶりに帰ったんだけどピンピンしてた。なんかあったん?」
「ううん。別に。ひまだから映画でも観に行こうかなっと思って。」
「そっか。オレ、今から映画行こうかと思ってるんだけど、行く?」
「えー?今から?集会出ないの?」
ストライキ決行中!の立て看板をチラッと見ながら彼女は言った。
「う~ん、授業はないし、正直どうしよっかってカンジなんだよねぇ。」
立て看板の全学連の文字が、自己批判せよと言ってるように見えた。
「実家で両親にさ、新聞に出るようなことしたら仕送り止めるって。」
「学生殺すに刃物はいらぬ 仕送り一回止めりゃいいってか。」
井川女史はたまに変なたとえをする。
「ホント、ノンポリなんだから。って私もなんだけどね。」
行き交う人を気にしてか、最後は小声になっていた。
「なに観る予定?ロードショウ?リバイバル?」
一緒に歩き始めたということは映画鑑賞異議なしというところだろう。
「12月に封切りのサンダーボール作戦だっけ?007の新作。」
「あー!面白いみたいね!…けど男子向けの映画よね。」
「井川女史は007はお嫌いか?」
「嫌いってわけじゃないけど子供っぽくないかな?秘密兵器?テレビ電話とか車。車にマシンガンはまだわかるけど、自動追跡できる地図が出るとかナンセンスと思いません?」
女史と言われるのが嫌なのか007が嫌なのか眉間にシワを寄せている。
「じゃ、若大将の新作は?エレキの若大将。」
否定されるのを前提に言ってみたが、反応は微妙だった。
「若大将ねぇ…。私、大学生活ってあんな感じって憧れていたのよね。今度はエレキかぁ。自家用車持ってて夏はヨットにサーフィン、ハワイなんかも行っちゃって、次はアルプスでスキーなんですってよ。」
「よっぽどナンセンスじゃないの、そんな大学生いないよ。ブルジョワ。」
井川女史はムッとした視線を投げかけるとまた憧れの若大将の世界に想いを巡らせているようだった。かわいいな、と思った。
「んじゃエレキの若大将で決まりかな?」
「うーん、いいんだけど他にも観たいのあるのよねぇ。」
「なに?」
女史は突然オレの前に立ちふさがり物凄い形相でオレを睨んだ。
「網走番外地!」
かわいいな、と思った。

1989年1月

「澤村さ~ん!」
向かいのハンバーガーショップで夕方の休憩を済ませてお店に戻ってくると、小澤店長が困ったような顔で声をかけてきた。
「今本社からFAX来てさ、営業はするけど看板の電気消してくれって。」
天皇陛下ご崩御による…崩御…読めない。
「わかりました。消してきますね。」
スイッチは入り口のシャッターの脇にある。表を見てドキッとした。
駅前のこのドラッグストアで一年前からバイトしているけど、こんな光景は今まで見たことがなかった。小さいけど活気のある賑やかなこの駅前が真っ暗になっていた。さっき休憩したから18時前なのに居酒屋から食堂、パチンコ店すべての明かりが消えていた。さっきまでいた向かいのハンバーガーショップも消えており、顔なじみの店員さんが私を見て肩をすくめた。
「なんかさぁ、日本終わったって感じするよね…。」
気がつくと小澤店長が横に立っていた。
「ちょっと店長~。怖いこと言わないでくださいよぉ。」
眉間にシワを寄せて店長の腕を軽く叩いた。
「ごめんごめん。けど不謹慎だけど『アキラ』の世界みたいだな。」
「え?『アキラ』って去年やったアニメの?」
店長は意外って感じに私を見た。
「澤村さん、アキラなんて知ってるの?」
「観ましたよ、去年映画好きな父と。」
急に思い出した。去年父の誕生日祝に銀座に家族で食事に行ったことを。
その後母は弟にせがまれて東映まんがまつりでドラゴンボールを、私は父と『アキラ』を観に行ったのだ。私はあの時ハリソン・フォードの新作を観たかったんだけど、なぜか父は『アキラ』が観たいと言ったのだ。
「なんか学生時代とか昔の日本を思い出したとか言ってましたよ。」
「へぇ~。澤村さんのお父さんってナウいなぁ!」
澤村店長はたまに変な事を言う。
「もぅ。今どきナウいなんて言わないですよ~。」
ちょっとムッとした視線を投げかけると店長がニッと笑った。
「ごめんごめん。けどさ、これで昭和も終わりなんだよねぇ…。」
スッと真顔に戻ると、また暗い駅前を眺めた。少しキュンとした。
「店長、きのうニュースで見たけど、テレビが自粛なんでレンタルビデオがどこのお店もレンタル中ですって。」
「んじゃうちのコレクション観に来る?」
少しドキッとした。

追記

ここまでで2000文字になってしまいました💦
短い話を字数制限で書くのは厳しいです💧
つかハナシがデカすぎたかw
このあと『2021年1月』編に続くのですが中途半端です。・゚・(ノ∀`)・゚・。
ここまで読まれておわかりかと思いますが、これは三代に渡るお話。
(予定でした。)
本来は各時代のロマンスを詳細に書く予定でしたが難しいですね。
まぁあらすじ小説だと思ってください('∀`)ノ


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