丹後方言の記述研究

このnoteでは私の生まれ育った京都府の丹後半島の方言を、主に私の内省に基づいて記述する。生まれ育った地区の、自分より年配の世代の方言の記述も含む。なお、以下の例文中の{}内に/で分けて複数の形が並べられている場合、/で隔てられた{}内のどの形も容認され、意味もほぼ同じであることを表している。例えば下記の文の場合、「コレワ ウマ]イ」「コレワ ウメァ]ー」のどちらも適格な文で、意味もほぼ同じであることを示している。

コレワ {ウマ]イ/ウメァ]ー}

音韻・音声

丹後方言には以下の音素が認められる。

母音音素(V):/i, e, æ, a, o, u/

半母音音素(S):/j/

子音音素(C):/h, k, g, t, d, t͡s, t͡ɕ, s, z, n, r, p, b, ɸ, m, w/

拍音素(M):/N, Q, ː/

拍音素の/N/は、後続の子音と同じ調音点での鼻音[n][m][ŋ]か、[ɴ]で現れる。/Q/は、鼻音を除く長子音の前半部であり、母音の前や語末に現れるのは稀である。

音節は(C)(S)V(V)(M)の構造を持つ。すなわち、音節の核となる母音の前には1つの子音がある場合もしくは子音がない場合があり、子音と母音の間には半母音/j/が挿入される場合がある。母音は2つ連なる場合がある。音節は母音で終わるか、母音の後に置かれる拍音素で終わる。拍音素が複数連なる例は稀である。例えば下記の例では//hæːQte//の長母音を短母音化させ/hæQte/とすることで拍音素の連続が回避されている。また、連母音として/ei/は許容されず、形態論的にeiが予測される場合には/eː/となる。/ou/も動詞の基本形語尾を除いて許容されず、/oː/となる。外来語を除いて/j/は前舌母音/i/, /e/, /æ/の前に現れることはない。また/w/が現われるのは広母音/a/, /æ/の前のみである。/j/, /w/が許容されない環境で形態論的に/j/, /w/が予測される場合には、/j/, /w/は脱落する。

例:コタツエ ヘァッテ アタレ /kotat͡sue hæQte atare/ (炬燵へ入って当たれ。2010年に録音した談話)

(C)(S)VおよびMは、1モーラを形成する。以下が、丹後方言に現れるモーラの一覧である。各セルに、音素表記//、簡易音声表記[]、本ページで用いるカナ表記を載せている。

モーラ表1

モーラ表2

連母音の/ai/や/ae/は/æː/に変化する。語種・品詞に関わらず起きる現象であり、丁寧な発音では/ai/、/ae/に戻るもので、/ai/、/ae/の自由異音として[æː]が現われるという分析もできよう。また/æː/は/jaː/に変化する傾向にあり、特に頭子音が/k/である場合にこの傾向が強い。すなわち/kai/、/kae/は/kjaː/に変化する傾向が強い。一方で/sæ(ː)/が/sja(ː)/(シャー)、/zæ(ː)/が/zja(ː)/(ジャー)となることはない。外来語でこれらの行のみ/je/列が現れうるということもあり、/sj/、/zj/は別の子音音素/ɕ/、/ʑ/と分析する必要があるかもしれない。

連母音/oi/は/eː/に、/ui/は/iː/に変化する場合がある。例えば、オセー(遅い)、オイテートクレ(置いといておくれ)、サビー(寒い)など。

/t͡s/が/u/の前以外で現れる例としては、アツィー(暑い)、ゴッツォー(ご馳走)がある。

狭母音/i/, /u/は、アクセント核の置かれないモーラにあり、かつ無声子音に挟まれている場合には、無声化するのが普通である。

アクセント

丹後方言はピッチアクセントを持ち、ピッチの下降位置が弁別的である。各語には、どこか1つのモーラにアクセント核が置かれるか、もしくは1つもアクセント核が置かれないかのどちらかであり、アクセント核直後のモーラ境界でピッチの下降が起きる。

大半の1拍助詞や助動詞などは独立したアクセントを持たず、前接する名詞や動詞・形容詞のアクセントに従属する。こうした、アクセント上従属する形態素を含んだ単位を「アクセント単位」と呼ぶ。本ページでの例文の表記では、アクセント単位の境界に半角スペースを挿入している。

アクセント単位の初頭からアクセント核までは、ピッチが下降しない。大抵は初頭からアクセント核の1つ前のモーラもしくはアクセント核のあるモーラまで平坦な音調が持続する。多くの場合、アクセント核直前のモーラ境界でピッチの上昇がある。アクセント核の置かれたモーラから、アクセント単位末尾のモーラまでは、ピッチが下降し続ける。ピッチの下降はアクセント単位の末尾で止まる。もしモーラ境界でのピッチの上昇を"["、下降を"]"で示すなら、以下の例文のようになる。

コノ ア[ツ]イ]ノ]ニ [ダレノ クルマデ モド]ッタ]デァ]ー(この暑いのに誰の車で戻ったの?)

"]"が何モーラにも連続して現れる部分がある。これはアクセント核からアクセント単位末尾(半角スペース)まで続く下降であるが、剰余的要素であり、語彙的アクセントを示すには各アクセント単位内の一つ目の"]"のみ示せば良い。この一つ目の"]"直前の拍にアクセント核がある。一方、ピッチ上昇"["は、文中のアクセント単位の初頭(上例「[ダレノ」の部分)やアクセント核直前のモーラ境界(上例「ア[ツ]イ」の部分)で現れうる。これらの上昇はかならず起きるものではない。例えば、アツ]イでも良いし、「弟が」ならオトー[ト]ガでもオトート]ガでも良い。以下の例文では"["も表記はせず、アクセント核直後の下降のみを"]"で表示する。すなわち上記の例文は以下のように改められる。

コノ アツ]イノニ ダレノ クルマデ モド]ッタデァー

ただし、文末詞に特有のイントネーションとして現れるピッチ上昇は、例文中に表記する。なお拍内での上昇は"[["と表記する。

任意のn拍の名詞には、アクセント核の有無およびアクセント核の位置により、(n+1)種類のアクセントの型がありえる。例えば2拍名詞には、カゼ(風)のようにアクセント核の無い型、ア]メ(雨)のように第1拍にアクセント核のある型、カワ](川)のように第2拍にアクセント核のある型がある。「風」のようなアクセント核の無い型と、「川」のような語末にアクセント核のある型は、単独の形では音調上の違いは見出しにくいが、「が」などの付属語が付いたときには、付属語直前に下降があるかどうかで明瞭に対立する。なお、ッ/Q/にアクセント核が置かれることはない。また、ン/N/、ー/ː/にアクセント核が置かれるとき、その直前でのピッチ上昇は左方にずれて、ン・ー以外のモーラ直前で上昇する。

品詞

名詞は名詞句の主要部となり、名詞句は述語の項となったり述語を修飾したりする。また、名詞はコピュラを伴って名詞述語となったり、ノを伴って他の名詞を修飾したりする。形容動詞はコピュラを伴って述語となったり、-二を伴って動詞の項となったり、-ナを伴って名詞を修飾する。用言(=動詞・形容詞・コピュラ)は時制・アスペクト・ムードなどにより語形変化(活用)をする語で、述語となって文や節の主要部となる。付属語は、活用をする助動詞と、活用をしない助詞に分かれる。

動詞形態論

動詞は、子音語幹(五段活用)動詞と、母音語幹(一段活用)動詞に分かれ、母音語幹動詞はさらに、語幹末母音がiである上一段活用動詞と、eである下一段活用動詞に分かれる。子音語幹動詞には基本語幹と音便語幹の2種の語幹があり、基本語幹の末尾は子音である。音便語幹は、基本語幹末の子音によって、次の規則通りに決まる。

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基本語幹末が-sの動詞で音便語幹末が-iとなるのは高齢層が中心である。なお、基本語幹末の-wはa, æ以外の母音・半母音の前では脱落し、基本語幹末の-tはiやjの前で-t͡ɕに、uの前で-t͡sに交替する。

例:ホキャーテ コ]ンナン(ほかして(捨てて)来なければならない)。カヱァ]ーデモ エ]ー/kawæːdemo eː/(買わなくても良い)。カヤ]ー エ]ー/kajaː eː/(買えば良い)。

例外的に、「行く」は基本語幹末が-kだが音便語幹末は-Qである。また「言う」(juw-)は基本語幹末が-wだが音便語幹末が-uである。中年層以上では「買う」「会う」などの基本語幹末が-awとなる一部の動詞で、音便語幹末が-oːとなる。

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動詞語幹と接辞との接続の仕方を整理すると、「基本形」「未然形」「連用形」「音便形」という「活用形」を立て、一部の接辞についてはこの「活用形」に接続するものとして記述するのが都合が良い。このうち五段活用動詞の「音便形」は、音便語幹そのままの形であり、それ以外の活用形は基本語幹に活用語尾が接続する形を取る。それぞれの活用形は、活用タイプごとに次のような形態を持っている。

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五段活用動詞と一段活用動詞のほかに、不規則活用の動詞「する」と「来る」がある。また、「いぬる」(帰る)は、原則としてin-を基本語幹とする五段活用動詞であるが、基本形にはinuruが現われる。

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基本形は、そのままの形で非過去時制の文末となるか、名詞が後接して連体修飾節を作る。また、-ナ(禁止)、-ダロー(推量)、-ケド(逆接条件の接続助詞)、-デ(理由の接続助詞)などが付く。

未然形や連用形は、そのままの形で文が終止することはない。未然形に付く接辞は、-N(否定)、-heN/hiN(否定)、-naNda(否定・過去)、-N-kaQ-ta(否定・過去)、-heN-kaQ-ta/-hiN-kaQ-ta(否定・過去)、-henaNda(否定・過去)、-naNde(否定・過去・接続)、-na(否定・仮定条件)、-N-kaQ-tara(否定・仮定条件)、-naNdara(否定・仮定条件)、-Ndemo(否定・逆接仮定条件)、-ide(否定・接続)、-idemo(否定・逆接仮定条件)、N-to(否定・接続/否定・仮定条件)、-N-toite(否定・依頼)、-N-toko(ː)(否定・意志)、-Nnara-N(当為。~なければならない)、-Nnara-naNda(当為・過去。~なければならなかった)、-NnaN(当為)がある。he/hiの交替がある接辞については、-hi-は上一段動詞のみに付く接辞で、他の動詞には付かない。また、語幹が1拍の上一段・下一段動詞に-he/hi-がつくときは、語幹末が長母音になる。否定過去の-henaNdaはあっても×-hinaNdaは存在しない。整理すると以下の通りである。

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連用形に付くものとしては、-nar-u(尊敬。五段活用)、-nai(促し)、-ta-i(希望。形容詞型活用)、-mas-u(丁寧。五段活用)、-hazime-ru(始動。下一段活用)、-sjaː(仮定条件)などがある。ただし-nar-(尊敬)の直前に-ri-が期待される場合、これが-N-に交替する(or-【居る】や-tor-【非完結相】では必ず-N-となるが、それ以外の動詞では-ri-も許容される)。同じnで始まるものでも、-nai(促し)はこの交替が起こらない場合が多い(交替する話者もいるかもしれない)。

例:オンナ]ル(いらっしゃる)。ハシンナ]ル(走りなさる)。ハシットンナ]ル(走ってらっしゃる)。ハ]ヨ ハシリナ]イ ヨー(早く走りなよ)。

音便形に付く接辞には、-te/de(接続)、-ta/da(過去)、-tara/dara(仮定条件)、-temo/demo(逆接・仮定条件)、-tor-u/dor-u(非完結相。五段活用)、-tok-u/dok-u(~ておく。五段活用)、-tar-u/dar-u(~てある。五段活用)、-t͡ɕar-u/zjar-u(~てある。五段活用)がある。いずれも語頭がt/dまたはt͡ɕ/zjの異形態を持つ。前接する動詞が子音語幹動詞で、その基本語幹末がg, n, m, bの場合にのみd/zjで、それ以外の場合はt、t͡ɕである。

以上の他に、以下のような動詞の屈折接辞がある。

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以上のような動詞の屈折接辞は、下記の0~6の順序で配置される。このうち0と5・6が必須の要素で、1~4の要素は任意に挿入される。5が肯定-∅-のときは6の非過去/過去/仮定/推量の接辞が必要で、5が否定-(a)N/-(a)heN/hiNや当為-NnaNのときは非過去接辞は付かない(「-∅」の非過去接辞が付くとも言える)。

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5・6の形式により、直接法、仮定法、推量法、義務法、禁止法、命令法、意志法のムードに分けられる。尊敬-nar-や非完結相-tor-は、義務法・禁止法・命令法・意志法の接辞とは共存しない。受身-(r)are-も、義務法・命令法・意志法の接辞と共存するのは特殊な文脈に限られる。

用言が直接法または義務法の形式であるときには、その後に名詞を置いて連体修飾節となったり、理由を表す接続助詞デ・サカイや、逆接の接続助詞ケドを置いたりすることができる。推量法の場合は、連体修飾節を作れないが接続助詞は後置させられる。一方、仮定法や禁止法、命令法、意志法である場合には、連体修飾節を作ったり接続助詞を後置させることができない。

なお意志・勧誘形式と同形の推量形式-(j)oːは、高齢層のみに聞かれ、丹後方言についての先行研究や私の録音した談話資料では、終助詞-ガが後続する形しか現れず、別の推量形式-daroːよりも後続できる形式が限定されている可能性がある。

動詞のアクセント

動詞には、基本形にアクセント核のないもの(A類)と、基本形の末尾から2拍目にアクセント核の置かれるもの(B類)の二種がある。私が1930年代生まれの話者Aに調査した際の、2拍および3拍の動詞の基本形、-ta/da(過去)、-(j)oː(意志)、-N(否定)、-heN(否定)のアクセントはA類とB類で下の表のように現れた。

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興味深いのはA類の過去形のアクセントである。同じ五段活用動詞でも、音便語幹末の形によりアクセントが異なる。音便語幹末が-Qや-Nである「行った」「知った」「積んだ」「飛んだ」「呼んだ」「歌った」「送った」「違った」「使った」「沈んだ」「並んだ」ではアクセント核なしで現れる。一方、音便語幹末が-i、-u、-ːである「置いた」「焼いた」「引いた」「言うた(ユー]タ)」「買うた(コー]タ)」「続いた」はタの直前にアクセント核がある。

一方で私の場合、A類のアクセント型はB類の型と同じ形になる傾向にある。一部の活用形では区別が保たれているが、大部分の形で区別がない。以下の表で分かるように、アクセント核がある場合、同じ接辞であればその末尾からの拍数が動詞の拍数に関わらず一致する。

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動詞型活用をする助動詞、たとえば-tor-u/dor-u, -tok-u/dok-u, -tar-u/-dar-u, -nar-u, -mas-u, -(s)as(e)-(r)u, -rare-ru, -(r)e-ruは、いずれもその助動詞を含む文節全体が、一つのB類動詞と同じアクセント型で実現する。すなわちそのアクセント核の位置は、基本形であればいずれも末尾から2拍目であり、過去-タ/ダで終わるのであれば末尾から3拍目である。複数の助動詞が連なった場合も、最後にある接辞によりアクセントが決まる。

例:イット]ル、イット]ッタ、イットラ]ン、イットラナ]ンダ、イカセ]ル、イカセラレトンナ]ル、カキナ]ル、カキナラ]ン、オイト]ク、オイトキマ]シタ、オイトキナラナ]ンダ

形容詞型活用をする助動詞-ta-iのついた動詞は、後述する、形容詞のアクセントと同じアクセントとなる。

例:カキタ]イ、カキタカ]ッタ

形容詞形態論

形容詞は語幹末が必ず母音であり、活用タイプは1種類のみである。なお語幹末母音はa, i, u, oのいずれかであり、eのものは殆どないが、高齢層でオーケ]ー(大きい)という語が聞かれる。語幹末が-aのもののみ、これが-oに交替した連用形を持つ。

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連用形は、語幹そのままか、語幹末母音が長母音化した形で、-テ(接続)や-テモ(逆接仮定条件)が接続したり、後ろに動詞や形容詞を伴ってその語を修飾したりする。

音便形はそのままの形で終止することはなく、後ろに-ta(過去)、-te(接続)、-tara(仮定条件)、-temo(逆接仮定条件)といった接辞が付く。

形容詞のアクセント

形容詞には語彙的なアクセントの対立がない。下の表のように、接辞ごとに語末から数えたアクセント核までの拍数が決まっている。

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コピュラ

名詞や形容動詞はコピュラの-daを伴って述部となる。その活用は以下の通り。

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コピュラの否定は、年配の世代を中心に-da、比較的若い世代では-zjaに、形容詞-na-iを付ける形をとる。コピュラは動詞や形容詞と違って基本形で連体修飾することができない。名詞が名詞を修飾する関係にある場合は-noを用いる。形容動詞は-naを伴って連体修飾節を作り、-niを伴って連用修飾節を作る。

コピュラの付いた名詞や形容動詞にアクセント核がある場合には、コピュラにはそのままアクセント単位末尾まで続くピッチの連続下降が現われる。名詞や形容動詞にアクセント核がない場合は、基本形-da、接続形-de、否定形-da/zjaにもピッチ下降はないが、過去形や仮定条件形は-ダ]ッタ、-ダ]ッタラ、-ナ]ラの形を取る。

ア]メダ(雨だ)。ヤマ]ダ(山だ)。カゼダ(風邪だ)。ア]メダッタ(雨だった)。ヤマ]ダッタ(山だった)。カゼダ]ッタ(風邪だった)。ア]メジャ ナ]イ(雨ではない)。ヤマ]ジャ ナ]イ(山ではない)。カゼジャ ナ]イ(風邪ではない)。

語順と後置詞

丹後方言は標準日本語と同じく述語が文末に置かれ、その前に主語や目的語、そのほかの述語を修飾する語句が置かれる。基本語順は主語+目的語+述語のSOV型言語である。また修飾語は被修飾語の前に置かれ、前置詞ではなく後置詞が用いられる。

主題は-ワ、主語は-ガ、目的語は-オによって標示されるが、目的語が複数の文節からなっている場合(名詞句)でない限りは-オは省略される方が普通である。-ワや-ガも、そこに焦点が置かれない限りは省略されることがある。

対格助詞が省略された例:コトシマ]デ ク]ーラー カ]ケタコト ナカ]ッタケード コトシワ ク]ーラー カケト]ル

対格助詞が省略されない例:ソノ ウエオ フイテクレ]ー ユンダー [ヤ(その上を拭いてくれと言ってるんだ)

疑問文

答えとして「はい」か「いいえ」を問う諾否疑問文では、文末にケァー/キャーやカが置かれる。一方、疑問詞疑問文ではデァーやダ(ー)が文末に置かれる。いずれの文末詞も下降調のイントネーションで実現する。ただしカを用いる場合は上昇調が現われる場合もある。

例:イ]ツ イヌ]ル{デァー/ダー}(いつ帰るの?)。ドコニ イク]デァー(どこに行くの?)。アシタ]キャー(明日なの?) 。

諾否疑問文、疑問詞疑問文ともに使える文末詞に-(ナ)ンがある。名詞述語では名詞にナンを付け、動詞・形容詞にはンを付ける。

相手の言ったことを聞き返したり、確認を要求する文末詞として、エーがあり、こちらは上昇調で現れる。

例:ドコニ {イク] エ[ー/イク]ダ エ[ー}(どこに行くだって?)

否定文

動詞述語の否定は、未然形+ンを用いるのが最も一般的である。強く否定するときには-ヘン/ヒンを用いる場合がある。形容詞述語の否定は、連用形+ナイを用いる。名詞述語の否定には-ダ ナイ(ダ ネァー)/ジャ ナイを用いるほか、-(ト) チャウ(五段活用)もほぼ同じ機能を持つ。

例:コレワ スギ チャウ ナ]ー(これは杉じゃないな)

過去の否定の場合、動詞述語では-ナンダ、若い世代を中心に-ンカッタを用いる。形容詞述語、名詞述語では、-(ダ/ジャ)ナイの過去形-(ダ/ジャ)ナカッタや、チャウの過去形チャッタを用いる。

複文

【連体修飾節】

名詞や形式名詞ノ/ンを修飾する連体修飾節の述語はその時制に対応して基本形(非過去時制)か過去時制形式-タ/ダまたは否定過去形式-ナンダを取る。

ソコニ ア]ッタ クワ ドコニ ヤッタ]ダ(そこにあった鍬はどこにやったの?)

ソコニ ア]ルンワ ナ]ンデァー(そこにあるのは何だ?)

【引用節】

「言う」「思う」などの動詞と、その引用節の間には、何も挟まれない。

ヤマダサンモ アシタ シューカイ二 イク] ユート]ッタ(やまださんも明日集会に行くと言っていた)

キョ]ー ホーソースル] オモ]ウ [[デ(今日放送すると思うよ)

【名詞節】

デは原因・理由を表す名詞節を作る。

例:キノ]― ヤス]ンダンワ カゼ ヒー]タデダ(昨日休んだのは風邪を引いたからだ)。キノ]― ヤス]ンダンワ カゼ ヒー]タデカ(昨日休んだのは風邪を引いたからか)。

疑問詞を含む名詞節(間接疑問)を作るのに、体言+ダ/カか、活用語の基本形/過去形+ダ/カの形をとる。

{ドコダ]/ドコ]カ} ワカラ]ン(どこなのか分からない)。

ダレガ {キト]ルダ/キト]ルカ} シット]ル カ[ー(誰が来てるか知ってるか?)

ド]ーデ ソンナ トコ]ニ {オイタ]ッタダ/オイタ]ッタカ} シット]ル [[カ(どうしてそんな所に置いてあったか知ってるか)。

【副詞節】

副詞節を作る接続助詞のうち、原因・理由を表すデやサカイ/サキャー、逆接のケド/ケードは述語の直接法または義務法、推量法の形式に付く。一方、文を並列させるテ/デや、条件節を作る接続助詞が前接する述語は特定の形式を取る。

ソノ トキ]ワ アツカ]ッタデ ヨー ヤラナ]ンダ(その時は暑かったからやれなかった)

ホンマニ アツカ]ッタケド ヨ]ー ヤッタ ナ]ー(本当に暑かったけどよくやったな)

クワオ ソコニ オイテ ハタケー イッタ(鍬をそこに置いて畑に行った)

ア]ツテ ア]ツテ ヤットラレ]ン(暑くて暑くてやってられない)

動詞の否定接続のうち、付帯状況を示す場合には、-ントのほか、高齢層で-イデを用いる。

ハタケニ クワ {モタ]ント/モテァ]ーデ} イッテシマッタ(畑に鍬を持たずに行ってしまった)

タ]ローワ ベンキョー {セ]ント/セ]ーデ} アソンデ]ゴロ オ]ル(太郎は勉強せずに遊んでばかりいる)

否定された過去の事実が原因・理由であることを示す場合には、-ナンデや-ンカッテ、-イデを用いる。

キノ]ーワ ア]メ {フラナ]ンデ/フランカ]ッテ/フレァ]ーデ} ヨカ]ッタ(昨日は雨が降らなくて良かった)

【仮定条件】

あることを仮定した条件を示すとき、-タラ/ダラや、基本形+トが用いられる。名詞述語の場合は、コピュラの仮定形-ナラも用いることができる。また動詞連用形+シャー、動詞の仮定形-(r)ja(ː)、形容詞の仮定形-kerja(ː)も用いられる。

アシタ {ア]メナラ/ア]メダッタラ/ア]メダト} ウンド]ーカイワ チューシダ

アシタ ア]メ ヤンダ]ラ ウンド]ーカイ デキ]ル[デ

ソンナ ヤリ]タ ネァ]ーンダッタラ ヤラ]ンデ エ]ー

アシタ ア]メ ヤミャ]ー ウンド]ーカイ デキ]ルケド ナ]ー 

ヤリャ]ー エ]ーンダ[[ロ

コレデ ヤリ]シャー デキ]ルンダ [デ(これでやれば出来るんだよ)

否定の仮定条件で、動詞未然形+ナが使えるのは、後件に望ましくない事態が来る場合である。-ンカッタラ、-ナンダラは、後件の事態に関わらず用いられる。

アシタノ ア]サマデニ ア]メ {ヤマ]ナ/ヤマンカ]ッタラ/ヤマナ]ンダラ/ヤマ]ント} ウンド]ーカイ デキ]ン[デ(明日の朝までに雨がやまないと運動会はできないよ)

アシタノ ア]サマデニ ア]メ {ヤマ]ナ/ヤマンカ]ッタラ/ヤマナ]ンダラ/ヤマ]ント} ウンド]ーカイワ チューシ二 ナ]ル(明日の朝までに雨がやまないと運動会は中止になる)

ジュ]ージマデニ カ]イギ {ハジメラレ]ナ/ハジメラレ]ンカッタラ/ハジメラレナ]ンダラ/ハジメラレ]ント} エンキニ ナ]ル(10時までに会議を始められないと延期になる)

アシタノ ア]サマデニ ア]メ {ヤマンカ]ッタラ/ヤマナ]ンダラ/ヤマ]ント} ド]ー {ナ]ル[[ン/ナ]ルデァー}(明日の朝までに雨がやまなかったらどうなるの?×ヤマナは使えない)

アシタノ ア]サ ア]メ {フットランカ]ッタラ/フットラナ]ンダラ} ウンドーカイ ヤル][[デ(明日の朝雨が降ってなければ運動会やるよ。×フットラナは使えない)

逆接仮定条件には、動詞や形容詞では-テモ、名詞では-デモを用いる。

{ア]ツテモ/アツカ]ッテモ} ヤラ]ンナン(暑くてもやらなければならない)

「~しなくても」にあたる否定の逆接仮定条件には-ンデモを用いるのが普通だが、高齢層で-イデモ、若年層で-ンカッテモを用いる場合もある。

例:アシタ ア]メ {ヤマ]ンデモ/ヤメァ]ーデモ/ヤマンカ]ッテモ} ウンド]ーカイワ ア]ル(明日雨が止まなくても運動会はある)

時制とアスペクト

時制の対立には非過去と過去があり、非過去時制には用言の基本形を、過去時制には-タ/ダを用いる。

アスペクトの対立には完結相と非完結相があり、完結相には用言の基本形を、非完結相には-トル/ドルを用いる。「落ちる」「倒れる」「やめる」のような瞬間的変化を表す動詞では-トル/ドルは変化の結果が残っている状態を表し、「走る」「勉強する」のような継続性のある動作を表す動詞では-トル/ドルは進行中の動作を表すのが原則である。

また、ある動作の結果が残っている状態を表すのに、その動作を受ける無生物を主格に取って他動詞+タル/ダル(またはチャル/ジャル)の形を用いる。

例:ド]アガ アケタ]ル(ドアが開けてある)。ツクエノ ウエ]ニ ハナ]ガ カザッチャ]ル(机の上に花が飾ってある)。

ムード

命令には、動詞の命令接辞-e(ː)/∅(ː)を用いる。それより穏やかな命令(依頼)をするには-テ/デの形を用いる。さらに穏やかな表現(促し)には-ナイを用いる。

否定の命令(禁止)には-ナを用いる。否定の依頼には-ントイテを用いる。これに-トク(~ておく)のアスペクト的意味は含まれていない。

例:(話し相手が商品を手に取った場面で)ソンナ モ]ン カワントイテ(そんなもの買わないで)

動詞述語の意志や勧誘には-(j)oːを用いる。高齢層を中心にこの形を推量にも用いるし、形容詞の推量にも-カローを用いるが、推量専用の形として動詞/形容詞の基本形+ダローもあり、こちらがより一般的である。

例:ウマカロ]ーガ [[ナ(旨いだろう?)

否定の意志や勧誘には-ントコ(ー)を用いる。否定の推量には、否定形式(-ン/ナイ)に-ダローを後接させる形を用いるが、動詞述語では-(j)omaiという形もある。

例:キョ]ーワ ア]メワ フロメァ]ー [[デ(今日は雨は降らないだろうよ)

接続詞

文の初頭に現れて、前の文との関係を示す語が、接続詞である。ヘダサキャー(原因・理由。そうだから)、ヘダケド(逆接。そうだけど)、ヘダカテ(そうは言っても)、ヘテ(それで、そして)、ヘタラ(そうならば、そしたら)などがある。

人物A:イ]ツ イヌ]ルデァー(いつ帰るの?)。

人物B:ライシューノ カヨ]ー(来週の火曜)。

人物A:ヘ]タラ ナンニ]チダイ(ということは何日だい?)。

文末詞

文末詞とは、専ら文末に置かれる、活用しない語を指す。疑問文で使われるデァー、ダー、キャー、カ、(ナ)ンの他に、以下が挙げられる。

デ:直接法や推量法、義務法の述語に付け、告知する。相手に新情報を伝える。また、意志法の述語に付け、勧誘する。

例:イッショニ イコ]ー[[デ(一緒に行こうよ)

ワ:話者が今しがた発見したこと、気づいたこと、思い出したこと、決意したことを表す。

ヨ(ー):命令形や禁止-ナ、促し-ナイに付いて、相手にさせたいことを強く働きかける。依頼の-テに付くときはテーヨの形をとる。

例:ハ]ヨ イ]ケ [[ヨ(早く行けよ)。ハ]ヨ シテ]ー [[ヨ(早くしてよ)。

ナ:命令法の形式(命令形、依頼-テ、促し-ナイ)に付けて、表現を和らげる。命令形にナがついたときは、命令というより促しである。依頼の-テにナが付くときはヨと同じ長母音化が起きてテーナとなり、頼み事・お願いの表現となる。

ソンナ モ]ン モッテカ]ンデ エ]ーヤン。ココニ {オイト]ケナ/オイトキナ]イナ}。(そんな物持って行かなくていいじゃないか。ここに置いときなよ)

モッテカ]レタラ コマ]ル。ココニ オイトイテ]ーナ。(持って行かれたら困る。ここい置いといてくれよ)

ヤ:命令形に付けて、語気が荒く強い命令を表す。

例:ハ]ヨ セ]ーヤ(早くしろよ)

(ン)カイナ(ー)、ダイナ(ー):思い出したことを自己で確認したり、相手に確認を求める。

例:ジドーデ アップデ]ート サレルヨ]ーニ ナ]ッタンカイ[ナ]ー(自動でアップデートされるようになったんだっけ)

例:ニ]モツ モ]ー ツンダ]ンカイ[ナ]ー(荷物はもう積んだんだよね?)

例:ナンダ]イ[ナ]ー/ナ]ンダイ[ナ]ー(何だっけ?)

イヤ(ー):文末詞ワ、カや禁止の-ナ、疑問詞疑問のダに付いた、ワイヤー、ナイヤー、カイヤー、ダイヤーの形で現れる。いずれも相手への苛立ち・不満を含んだ強い働きかけを表す。ワイヤーでは意志・決意、ナイヤーでは禁止を表し、カイヤーは「~するわけないだろ」のような反語、ダイヤ―は疑問詞疑問文で使って相手へ強く問いかける。イを挟まない、ワヤ、ナヤの形もある(×カヤ、×ダヤはない)。ヤをナに変えた、ワイナ、ナイナの形ではワイヤ、ナイヤよりも柔らかな言い方となり、ワナの形もある。カイナ(ー)、ダイナ(ー)では前述の別の機能を持つ。

例:イ]マ ヤル]ワイヤ(今やるじゃないか!)

例:ソンナ コ]ト スル]ナイナ(そんなことするなよ)

例:ド]ーデ ソンナ コ]ト スル]ダイヤ(なんでそんなことするんだ!)

ッチャ:不満や苛立ちを込めて意味を強める。動詞の基本形に付いたときは、不満を込めた意志を表す。

例:(「ハ]ヨ セ]ーヤ」(早くしろ)と言われたときの返答で)イ]マ スル]ッチャ(今するってば!)

命令形にッチャが付いたときは、命令を強める。ッチャは-ナイ(促し)とは共存しないし、-テ(依頼)とも共存しにくい。

ハ]ヨ セ]ーッチャ(早くしろって!)

ナ行文末詞(間投詞)にはナ(ー)が使われるほか、高齢層でノーも聞かれる。文と文の間に挿入されるナーには独特の音調があり、一旦ピッチがやや下がった後に大きく上昇する(ナ]ー[ー[ーのような形)。




















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