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迷い鳥

それはあっという間の出来事だった。
アンは飛び去って行った…

うちで飼っている2匹の文鳥、アンとコロ。
ベランダで籠にいれて日光浴をさせていたら、僕が誤ってアンを逃してしまったのだ。

シナモン文鳥のアンはマンションの4階から道路を挟んだ近所の幼稚園の方に飛んで行った後、幼稚園の園庭にいた雀の群れに混じってしまったのか何処にいるか全く分からなくなってしまった。

それとも青い空に千切れた羊雲が浮かぶ秋の空に消えていってしまったのか?

人間はそういったどうにもならない時、現実逃避なのか全く関係ない事を考える。羊雲を見て夏目漱石の三四郎の中で出てきた迷い羊(ストレイシープ)と言う台詞を思い出した。ストレイバード、うちのアンはまさに迷い鳥。

仕方ないと気を取り直して、アンを見つける方法を考えてみる。

ググってみると、ペットの気持ちというペットが行方不明になってしまった人の為の掲示板があったから早速登録した。
また、交番で警察に遺失物届けもダメ元で出しに行った。警官は怪訝そうな顔をしていたが、万が一保護してくれる人がいれば幸いだ。

またビラもスマホのエディターのアプリで制作してプリーターで印刷して近くの公園で配った。

更に翌日出勤前、朝の5時半から近所の森や公園をスマホに録音したメスの文鳥の鳴き声を音量MAXで流しつつアンの名前を呼びつつ捜索したが見つからず、出勤の時間になったので会社に行く。家から駅までの歩いて10分の距離だがその間も電線に止まっていないか上を見上げつつ歩いたが雀やヒヨドリしか見当たらない。

その日の夜は大雨だった…
無事見つかる可能性も薄い。
何処かで死んでいるんじゃ無いかという、嫌な予感がよぎる。

一縷の望みを託し、登録しておいた行方不明になってしまったペットを探している人の掲示版を開いてみた。
すると掲示板のコメント欄に連絡があったのだ!奇跡か⁈と思いよんでみると、心優しい方にアンは保護されて、しかも餌まで頂いていたのだ。

早速、引き取りに行った。その方はKさんと言い、歳は50代ぐらいの女性だ。家は自宅から4キロ離れた所にあるマンションの8階だった。3LDKの壁や家具が白で統一されたよく掃除が行き届いた気持ちの住まいのベランダ近くのケージで保護されていた。

何と驚く事に、うちで飼っているシルバー文鳥のコロにそっくりな文鳥のムギちゃんと一緒にアンはいた。僕の顔を見るなり、ケージの棒に脚をかけてチヨチヨと鳴き出した。

アンが保護された経緯を聞くと、Kさんがベランダで飼っているシルバー文鳥のムギちゃんを外気浴させていると、空からアンが飛んで来てその方の腕に留まってきたらしい。
多分、アンはムギちゃんをうちのシルバー文鳥のコロと勘違いしてKさんの家に飛んできたのだ。

Kさんはきっとアンが迷い鳥になっていると察して、掲示板を検索してくれた。
そうしたらたまたま「ペットの気持ち」という
掲示板で僕が掲載したアンの写真を見つけて、掲示板のメッセージ欄に連絡をくれたのであった。

しかし何故うちのアンだと分かったか?それは爪を見たからだ。文鳥の脚の爪は僕は切りすぎて出血させてしまうのが怖くて爪の先の方しか切れずかなり爪が伸びたままになっていたからすぐ分かったのだ。

Kさんにも「異常に爪が長いね。」と指摘され、恥ずかしいやら安心したやら。
その日の待ち合わせ時間が早くて、お店もやっていなかったのでお礼の品を用意する事が出来ず、僕は「後日改めてお礼をさせて頂いて良いですか。」と尋ねたら「お礼なんていいの!私も可愛い文鳥ちゃんと会えて楽しかったわ。」と言って下さった。神対応とは正にこの事。感謝の気持ちしかない。

アンを家に連れて帰ると、コロは大喜びしてチヨチヨ、チヨチヨと鳴いていた。
確かアンが逃げて一羽になっていた間中、コロはチュンチュンとずっと呼び鳴きしていた。
きっとコロもアンがいなくて大変寂しかったのだ。飼い主として大変申し訳なかったと思い、「アンコロ、ゴメンね。」と二羽を前に謝った。

そして、この奇跡の様な出来事について考えてみた。アンはムギちゃんをコロだと勘違いしたにしろ、仲間を見つけて無事保護された。
幸運だった事もあるけど、自分にとって一番心地良い場所を見つけて迷わずに行ける文鳥の本能。

それに比べると人間は迷う生き物だ。
夏目漱石の三四郎に出てくる主人公三四郎、ヒロイン美禰子も結局思う人と結ばれなかった。
時代もあるが本人達の迷いが一番の原因だと思う。それは現実世界で起きる様々な殺人事件や悲しい出来事も迷いが原因な事が多いと思う。

本当の迷い鳥(スレートバード)は人間の方かも知れない。

#三四郎 #文鳥 #迷い鳥 #エッセイ


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