見出し画像

【小説】二人の食卓 彼女の場合

コートの出番も減ってきて明るい色が似合う季節。
我が家の朝食定番になりつつあるハムエッグをつつきながら、朝の情報番組を観ていた。
そんな時、彼が唐突に
「今日、餃子が食べたい」とリクエストしてきたのだ。
おや、珍しい。
一緒に行った週末の買い出しの時に材料を買ったのを覚えいたのかもしれない。
「わかった」と返事をしつつ、未だ呼ばれない自分の星座を見逃すまいと、視線はテレビに釘付けである。
そんな私を見て「毎日、よく飽きないよね。」と呆れつつもどこか楽しそうに言った。
そうこうしていると自分の星座が一位で呼ばれ、ついつい口元が緩む。
「いいでしょう!一位よ。『思い切った決断が新しい発見に』ですって」
「良かったね。でもそろそろ準備しないと遅れるよ。」
慌てて残りを食べつつ、彼のお皿を見ると彼の方はきれい食べ終わっていた。
いつも思う、あの半熟玉子をきれいに食べる技はもはや職人芸だ。

「いってらっしゃい、行ってきます。」
お互いそう声を掛け合うと、触れるか触れないかのキスをして、別々の方向へ別れ仕事に向かう。
自転車でいつものスーパーの前を通り過ぎながら
餃子をするならニラは使ってしまったから買わないとと思いつつ会社へ急いだ。

そう、ニラを買わなければならなかったのだ。
家路を急ぎ、餃子を作り始め、後はニラを混ぜて包むタイミングになって思い出した。
ニンニクを使わない我が家の餃子にとってニラは重要不可欠。
ニラのない餃子なんて、白雪姫が毒りんごを食べずに惰眠をむさぼる様なものである。
ニラを買いに行こうかと考えてると
『今から帰ります。』と彼からメッセージ。
そうなってくると話が変わってくる。
餃子の時は他のおかずを作る余裕がないので毎回餃子と簡単なスープ程度なので割りと多い目に作る。
それを考えると買いに行くと帰って来るまでに餃子が仕上がらない、そしてなにより私のお腹が空いてきた。
彼が帰ってくるのに間に合わない事を言い訳に、ニラを買いに行くことを諦め、餃子を包み始めた。

「ただいま」
餃子が焼き上がるのを見計らったかのようなタイミングでかえって来た。
「おかえりなさい。丁度焼き上がった所だから早く食べよう」
と声をかけつつ食卓の用意を進めつつ
「一つご報告が…実は今日の餃子にニラが入ってないです。」
部屋着に着替えて戻ってきた彼に声をかけた。
「そうなの?でもいい匂いしてるよ。とりあえず食べようよ。後はお茶碗出したら終わり?」
そう言いながら用意を手伝ってくてたおかげてスムーズに食卓が整った。

「いただきます。」
焼き上がった餃子をはさみ向かいあって座る。
彼は連なった餃子から丁寧に一つ引き離したらタレに軽くつけて口に運ぶ。
その仕草をくいいるように見つめる、緊張の瞬間である。
無言で食べる。何かを考えて無言で席を立った。
やはりニラがないと美味しくなかったのか、目先の食欲に負けてニラを買いに行かなかったのが悔まれる。
しかし無言で席を立つのは、あまりにも失礼ではと少々腹立たしく思っていた。
「餃子のタレよりもっと合うものがありそう。」
といいつつ嬉しそうにキッチンからケチャップ、ソース、ポン酢など沢山の調味料をもって席に戻ってきた。
「へ?」
口に合わなかったとばかり思ってたので、なんだか拍子抜けしてしまった。
「色々試してみたくなったんだよね。これとかどう?」
と楽しそうに色とりどりの調味料を少しずつ出しては食べ始めた。
「美味しい?」
「どれも悪くないけど決定打にかけなぁ。食べてみなよ。」
彼の意外な一面に驚きつつ、促されるまま色々試してみた。これが意外と味に変化があって楽しい。
「ホントだ。悪くないんだけどなぁ…そうだちょっと待ってて」
私は頂き物の謎の調味料を思い出した。
どうやら海外で買ってきたものらしいが、馴染みがないので使い所を悩んでいた一品だ。
「これどうかな?海外のやつ。辛いけど美味しいよって言ってたけど」
「なんか美味しそうなのが出てきた。チリソースっぽい?」
と嬉しそうに軽く瓶を振り出して試す。
「これ辛いけど美味しいよ。これが一番合うよ。でも君には辛すぎるかも」
辛いのが苦手だが美味しそうに食べる彼の姿に釣られて食べてみた。
「美味しいのはわかるけどめっちゃ辛い。沢山食べるのは無理かな。そんなによく食べれるね。」
思ってたより辛くてびっくりした。そしてそれ以上に彼が意外と辛さに耐性があってびっくりした。
「そんなに辛いものが強いとは思わなかった。」
「そんな強くはないよこれ以上辛くなったら無理かな。」
どうやら彼はあのソースで決定したらしい。
「餃子のタレにちょい足ししたら美味しくならないかな?」
私は餃子のタレにアレンジをしながら食べすすめる。
「いい組み合わせあった?」
「これ中々美味しいよ」
「ホントだ。僕もアレンジしてみよう」
お互いがオススメをトレードしあう。
時には互いのアレンジ褒め合い時には首をひねりつつ
あーだこーだと言ってるうちに、気がつくと餃子はキレイに食べ終わっていた。
「ごちそうさま。なんだかんだ美味しかった。」
と彼の満足した笑顔を見せた。
「よくわからないうちに全部食べたちゃったね。」
そういながら予想外に増えてしまった洗い物を二人で片付けながら
「今日は貴方の意外な一面が見れたりタレをアレンジしたり新しい発見がいっぱあって楽しい一日だったわ。」
すると彼がニヤリと笑って
「朝の占いも意外と当たるものだね。」
と言った。
彼が覚えていた事に驚いた。

これもまた新たな発見である。

#おいしいはたのしい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?