自己犠牲報われない系キャラが好きな人は今すぐ『レーエンデ国物語』を読め

『レーエンデ国物語』田崎礼/著(講談社)

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 重版が何度もかかり、話題となっている『レーエンデ国物語』。発売日前に阿津川辰海先生が紹介しているのを読んで気になり買ったため、持っているのは1刷であるというのが微かな誇りだ。世界観の構築や異民族の駆け引き描写などの巧みさについては他の人が既に語っていると思うので、私はひたすらトリスタンの良さについて語りたい。まあ、これすらも何番煎じになることやらという感じではある。帯で既に恒川光太郎先生が「読後、放心し、空を見上げ、トリスタン、と呟く。」とあるように。

 最近になって自覚したが、私は自己犠牲報われない系キャラが好きだ。中学生の時に読んでいた少女マンガでもヒロインとはくっつかない当て馬キャラを好きになりがちだった。伝わる人が少なさそうな例えになってしまうが、『つばさとホタル』(春田なな/著)の鳥羽君や『プリモ・プリーマ!』(柚木ウタノ/著)の天王寺君など。高校生の頃に第一巻が発売された小説『宝石商リチャード氏の謎鑑定』シリーズ(辻村七子/著)においては、主人公の中田正義君やリチャード氏、ジェフリー氏が自己犠牲系キャラでとても良い。(読んでいる途中しんどい部分もあったけれど)この三人については幸せになってほしい。

 そんな私にとって『レーエンデ国物語』のトリスタンはぶっ刺さった。ストライクゾーンど真ん中。読後放心し空を見上げもしたが、読んでいる途中で何度「トリスタン、お前さぁ……」と呟いたことか。

!以下ネタバレを含むため注意!

 ぶっ刺さりポイントは3つ。
 まずは、ヒロインのユリアと出会うまでの過去が既に重いこと。ユリアの父に対しての思いの複雑さは、「こういう人物いる」感がとても強い。一筋縄ではいかないキャラの作りこみに膝を打った。またその複雑さを乗り越えて二人に仕える、自分の命を投げうってでも二人を守るという自己犠牲系への転化のポイントがとても高い。良い。好きですこういうの。

 2つめは強いのに弱いこと。トリスタンは傭兵の時に培った強さがあるが、既に銀呪病に罹ってしまっていることからいつ動けなくなるかも分からないという弱点がある。故にユリアに想いを伝えることもためらってしまう、という一連の流れの業の深さには嘆息した。バレるまで明かさずに隠す、というのも良い。こういうキャラは自分の弱い部分は決して自ら明かさないんです。報連相を大事にしてくれ。そしてもっと自分を大切にしてくれ。人を頼れ。一人で抱え込むな。

 3つめはヒロインと結ばれないこと。これは自己犠牲報われない系キャラの鉄則だ。トリスタンについてはユリアとの気持ちが通じ合っているためグレーな気もするが、トリスタンの死後ユリアは別の人と結婚してるし結ばれていない判定で良いと思う。決して結ばれることはないという点において覚悟を決めている部分もとても良い。

『「僕は貴方の恋人にも、夫にもなるつもりはありません」
「私のことが嫌い?」
「だったら苦労はしませんよ」
低い声で言い返し、彼は歪んだ笑みを浮かべた。
「僕、あなたを口説いたことがあるんです。三年前の夏至祭で、銀呪病のことを知られたあの夜に、もう元には戻れないんだから、いっそ何もかも壊してしまおうって、団長に殺されてもかまわないから貴方を僕だけのものにしてしまおうって、思ったことがあるんです」
「そうだったの? 全然気づかなかったわ」
気づかなかった?
いいえそれは違う。
〔中略〕
「でも僕は救われました」』

『レーエンデ国物語』(田崎礼/著)330ページより引用

 以上のくだりはユリアと想いが通じ合ってはいるものの、決して結ばれることはないという覚悟を決めたトリスタンとユリアのやり取りのハイライトだ。この部分は報われないキャラのポイントが凝縮されている。「いっそ何もかも壊してしまおう」としがちだし、「殺されてもかまわないから貴方を僕だけのものにしてしまおう」と思いがちだし、それなのに救われた気分でいがち。救われるの基準がとても低い。もっと自分を大切にしてくれ。

 以上が、自己犠牲報われない系キャラとしてのトリスタンのぶっ刺さりポイントだ。あと個人的なところでは、長髪なのがとても良いし、「低い声で言い返し」とあるから多分声が低いところが最高。音声化やアニメ化するならば内山昂輝さんにやって欲しい。FGOでもトリスタン(CV:内山昂輝)がいるからややこしくなるけど。

 蛇足になるが、しおり代わりにキャライラストの書かれたカードが挟まっていた。私が引いたのは(バリエーションがあるのかは分からないものの恐らくメインキャラユリアとトリスタンとヘクトルの3タイプがあると踏んでいる)トリスタンだった。運命か?

また今度!

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