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「あの子に貸したお金、返ってこないんだけど……」夜職とお金の貸し借り

「あいつ横領してクビになったらしいよ」


なんて聞いた日には、とんでもない事件だと思うのではないでしょうか。

まさか自分の働いている会社でそんなことが起こるなんて。
○○さんが……そんな風に見えなかったのに。
どうしてそんなにお金に困ってたんだろう?

様々な憶測が駆け巡り、話題は持ち切り。
非日常に皆がそわそわするでしょう。

これが夜の世界となりますと、誰かが金持って飛んだなんて「昨日の強風であそこの看板倒れたって」程度の話。
毎夜酒場におりますと、お金のトラブルは尽きません。

従業員にお金を持ち逃げされるのは恥ずべきことです。

お金を取るなんてとんでもない、盗ったやつが悪いんだ。
そう思ってしまうのも仕方がないです。
ですが、その考えでは今後もお金を持って逃げられるでしょう。

人には誰しもお金に困る可能性があって、その時目の前に取れるお金があったとしたら。
これは弁解のしようがない職業差別ですが、夜に生きる当事者として感じることを忌憚なく書きます。

夜に生きる人々は、自分が困っているとき、目の前のお金に手を伸ばす確率がとても高いです。
店のお金ならまだいいです。
懇意にしてくださっているお客様から個人的にお金を借り、返さないまま飛んでしまう。
こんな最悪なケースも、残念ながらよくある話。

会社員と違って雇用契約など結ばない世界。
偽造身分証だってまかり通るし、店を転々としても生きていけてしまいます。
警察に突き出すことももちろんできますが、額が大きくなければ下手に自分たちのグレーな経営を突っ込まれたくないから黙っている店も多い。
警察沙汰は実際手間暇かかるのです。
個人で貸したお金なら猶更ですよね。
「あげたつもりで貸したし……」なんて言葉もよく聞きます。

追われない可能性に賭けてお金を持って飛ぶ。
それが夜の人間です。

「お金に困ったとき、目の前にお金があったら手を伸ばしてしまう」
夜においては、これを前提として人と関わることが大切です。

ではどうすればよいか。
そもそもお金に困って追い詰められる状況を作らなければよいのです。

実は私、キャストによくお金を貸します。

旅行行きたいから前借りさせてだとか、借りてる部屋の更新ができないからまとまったお金が欲しいだとか。

これが昼の職場であれば貸してはいけないと思います。
しかし夜の世界に生きる上では、これくらいぽんと貸せないといけないのです。

私が設ける返済のルールは2つです。

  1. 日払いの中から返せる時に好きな額で返すこと

  2. いくら返していくら残っているか自分で帳簿をつけること

毎月〇万円返してね、というと、普通の感覚ならば返ってくると思うでしょう。

しかしここは夜の世界。
お金を取っておくという概念の乏しい子が多いこと多いこと。
最初の月は返せても、次の月、そのまた次となるとなぜだか返済が滞ってしまうのです。

だから私は毎月の返済額は決めません。

前借している状態でも出勤すればお金がもらえるし、借金も減っていく。
返済を自己判断にすることは、モチベーションに繋がります。

大体の子は千円ずつでいいと言えば初めは千円しか返しませんが、次第に「今日は二千円返せる!」とか、「シャンパンのバック全部返済にする!」といった調子で返済額が増えていくのです。

この傾向は完済が近づけば近づくほど顕著になってきます。

数々の借金を踏み倒してきた彼、彼女らにとって、「借りたお金を返しきる」というのは貴重な経験です。
できなかったことができるようになると嬉しいですよね?
借金返済も同じです。
自分はちゃんとお金を返せるんだ!と思うと、どんどんやる気が出てきます。

一度完済すると、この成功体験は大きな印象を残します。
こうして、「ママには頭が上がらない」「ママに一生ついていく!」というかわいい子供たちを増やしていくわけですね。

もちろん一度完済したくらいで経済観念は治らないので、また前借したいという要望は出てきます。
もちろん貸してあげるし、また返済させます。

「まだ前借分を返し切ってないけどまたお金が足りない……」

こういった返済がうまく進まない子には、イベントを組んで稼げるようにしてあげたり、出費の見直しに付き合ってあげたり、とにかく稼いだお金で無理なく返させます。

すると、大きな額に困ったときでもまず私に相談するようになってくるのです。
ママを通さず羽振りのいいお客様に相談したり……なんてことも、レジのお金をちょろまかして……なんてことも心配なくなります。
相談すればなんとかしてくれる人間が居れば、犯罪には走らないのです。

夜に生きる人々は、多くが問題を持っています。

だから悪いではなくて、どうすれば輝けるかを一緒に考えてあげれば、魅力にあふれる人材の宝庫。

突拍子もないことをするキャストたちを温かい目で見守りときに導いてあげるのが、経営者としての、ママとしての役目です。

刺激的で魅惑的な夜の世界、覗いてみたいと思いませんか?
ママは今夜もお店で待っています。

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