コンピュータの終わらない歴史物語 - 小田徹『コンピュータ開発のはてしない物語』(技術評論社)

 久々のnote投稿となります。今回はこれまで紹介してきた人文書とは少し毛色の違った本を紹介してみます。

 本書『コンピュータ開発のはてしない物語』は、タイトル通りコンピュータの歴史をかなりマクロな視点で解説している一冊です。コンピュータの「起源」となる計算機械の話から、近未来におけるコンピュータの発展の方向性まで、様々な視点から論じられています。

 内容を確認しましょう。まず第一章「コンピュータの起源を求めて」では、紀元前(!)の時期まで遡って、主に近代以前のいわゆる「計算機械」の歴史が論じられます。これに続く第二章「「最初のコンピュータ」はどのようにして誕生したのか」では、パスカル、ライプニッツといったおなじみの人物から20世紀なかばのABC、ENIACなどにつながる時代の事柄が扱われています。ここまでが「コンピュータ前史」といった感じでしょう。

 第三章からは、各論的に現代のコンピュータの歴史が扱われます。まず、第三章では「ソフトウェアはコンピュータとと、もに産声を上げた」と題してOS、プログラミング言語、DBMSなどのソフトウェアに関する歴史が取り上げられます。第四章では「世界を驚かせた日本のコンピュータ開発」として主に戦後を中心とした時期の日本のコンピュータ開発について論じられています。素子「パラメトロン」をめぐる話題なども取り上げられています。

 第五章「パソコンはどのようにして私たちに身近な存在になったのか」では、個人向けコンピュータ、パソコンの歴史が取り上げられ、第六章「次々に計算速度の記録を塗り替えるスーパーコンピュータ」では、いわゆる「スパコン」の歴史が取り上げられます。第七章「インターネットの誕生とネット社会を構成するコンピュータの変貌」では主に最近のネットの発達について簡単に論じられています。そして、最後の第八章「コンピュータはどこへ行くのかー近未来のコンピュータ化社会」では、これからのコンピュータの発展の方向性について検討されます。

 内容はこのような感じですが、本書を通読して受ける印象は「科学史」的な本だなー、ということです。普通「コンピュータ史」と言ったら、現代社会におけるコンピュータの技術的発展と、社会の中での受容について論じられている、という印象を抱くのではないでしょうか。本書でも、確かに後半部分でソフトウェア、パソコン、インターネットなどが扱われていますが、それぞれ記述は教科書的に書かれていてクセがあまりない印象は受けるものの、分量的にあっさりとした印象を受けます。

 そういった意味で、本書の中心となるのはやはり前半の計算道具、計算機械から初期の現代につながるようなコンピュータが開発されるまでの時期に関する記述だと言えるでしょう。特に最初の「コンピュータ」はどれなのかという問題に関する検討などはかなり興味深いものとなっています。

 また、後半の各論で論じられているトピックとして、やや異質な印象を受けると同時に、かなり興味深く読めたのが日本のコンピュータ開発について論じている第四章です。よく日本の技術は「ガラパゴス」だと言われますが、印象論から抜け出て、コンピュータ技術が具体的にどのように国内で発展していったのかを把握することができます。

 本書は、装丁やタイトルなどをみると軽めの本なのかなー、というような印象を受け、実際わかりやすく書かれているのですが、内容は先にも書いたように「教科書的」です。そういった意味で、人によって受け取り方は様々になりそうですが、少なくともコンピュータの歴史をコンパクトに概観できるクセのない一冊としては価値のあるものだと言えそうです。

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