西 大成 | Taisei NISHI

社会学に足場を置きつつ、社会学・経営学・経済学の狭間に漂う。社会学への態度が矛盾してい…

西 大成 | Taisei NISHI

社会学に足場を置きつつ、社会学・経営学・経済学の狭間に漂う。社会学への態度が矛盾しているように見えるが、それを可能にするのが「社会学」という営みである。〈社会〉の生々しさを汲みとると同時に、〈学〉としての論理性と体系性を維持する社会学は、私自身の生き方でもある。

マガジン

  • 《備忘録》シリーズ(随時更新)

    《備忘録》は、私自身が読みかえすためのテクストである。《備忘録》の集合には、対話の記録、異世界の記録、アイデアの記録、その他の揮発性の高い何かの記録が含まれるだろう。

  • 人間解放の実践のために(全4回、完結)

    「死んだ時間」に、ふたたび息を吹き込むことは不可能なのか。労働者は、生きるために死ななければいけない運命なのか。裏返して、経営者は、生きるために殺さなければいけない運命なのか。

  • 『気流の鳴る音』をひらく(全3回、完結)

    真木悠介(見田宗介)の『気流の鳴る音』を、創造的に読解していきます。それぞれに位相が異なる「気流」の三重奏が、『気流の鳴る音』の魅力なのです。

  • メタ社会学的対話(全5回、完結)

    社会学の「入門書」と「専門書」はそれぞれたくさんありますが、それを架橋する「入門の一歩先」はあまりないように思います。そのため、社会学に入門した人がもう少し先に進んでみるためのテキストを作りました。

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中小企業研究は再興されねばならない

 2024年10月30日、私の決意表明として。 西 大成 論旨   私の主張は極めて明快である。  まず、中小企業研究の社会的責任は極めて大きいにもかからわず、現代の中小企業研究はそれをまったく果たしていない。それどころか、その実態は「学問」ですらない。さらにひどいことに、この状況に危機意識をもつ研究者がほとんどいない。つまり、中小企業研究は絶望的な状況にある。  並びに、私の決意は極めて明快である。  中小企業研究の社会的責任を果たすべく、私はそれを再興する。

    • 《備忘録》もうひとりの祖父

       2024年11月1日、青森県新郷村(旧・戸来村)にて。  この言い方は極めて不自然というか、失礼というか、ちょっと自分でも困ってしまうのだけど、その人は私にとって「もうひとりの祖父」だった。  血はちゃんとつながっている。離婚や再婚といった事情もない。その人はまぎれもなく僕の祖父だけれども、表象はいつも "the other" なのだった。  6年か7年ぶりに八戸駅に降りた。一緒に来た弟に話しかけると、私の声が少しだけ南部訛りを含んでいて、自分で驚いてしまった。小学生

      • Re: 『夢と狂気の王国』

        序 ゴールデンレコード 1977年9月5日に打ち上げられたボイジャー1号は、現在も秒速17kmで地球から離れ続けている。砂田麻美とほとんど同い年のこの探査機は、すでに太陽圏を脱出し、地球から250億km離れた恒星間空間を飛行している。  現在はまだ地球と通信できているが、原子力電池の劣化と通信距離の拡大により、あと10年ほどでボイジャー1号は孤独になる。もうまもなく、それは完全に地球人の手を離れる。それゆえにこそ、たとえ人類が死を迎えたとしても、それはそのままの姿で宇宙

        • 学問バトル:経済学と社会学の闘争を、ルーマンを用いてブルデューに持ち込む

           ここでの「経済学」は新古典派経済学を、ここでの「社会学」は構築主義を、それぞれ指している。経済学と社会学の闘争を、ルーマンを用いてブルデューに持ち込むこと、すなわち、闘争そのものを社会学の空間に引きずり込んでしまうことができる。  たまには、好き勝手に書き散らそうじゃないか。  経済学は原子論的な「個人」から出発し、社会学は関係論的な「あいだ」から出発する。もちろん、経済学でも制度や構造といった「あいだ」を持ち出すことはあるし、社会学でも「個人」を第二の足場に用いること

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        中小企業研究は再興されねばならない

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        • 《備忘録》シリーズ(随時更新)
          8本
        • 人間解放の実践のために(全4回、完結)
          4本
        • 『気流の鳴る音』をひらく(全3回、完結)
          3本
        • メタ社会学的対話(全5回、完結)
          5本

        記事

          《備忘録》透明なまなざしに貫かれる人

           2024年10月10日、ESさんとの対話より。〔誤解のないように断っておくと、これはあくまで私が再構成した内容であって、以下のような内容が実際に話されたわけではない。〕 はじめに  ESさんと腰を落ち着けて話をしたのは、およそ2年ぶりだった。  話をしたと言っても、今回は私が質問役に徹していたので、非対称的な対話だった。この文章は、その非対称性を補償するために書かれた。私はESさんから、近況報告という贈与を受け取った。それを私なりに再構成することによって、私自身の近況

          《備忘録》透明なまなざしに貫かれる人

          《回想》新古典派経済学について

          ※ 以下の文章は、2022年1月13日に提出された、慶應義塾高校の卒業論文から抜粋したものである。現在の私から見ると稚拙なところもあるが、過去の思考を保存しておくことも大事だろうと思い、公開することにした。 〔前略〕 第3章 第9節 「誤差」では済まされない誤謬  ここまで新古典派経済学をさんざん糾弾してきた。しかし、モデルというものは現実を単純化して理解できるようにするものであって、現実をそのまま表しているわけではないことも確かである。例えば、ニュートンの運動方程式「

          《回想》新古典派経済学について

          尾城太郎丸についての補注

           私は、こちらの記事で、尾城太郎丸について以下のように推定した。  ここで私は、尾城を1930年代末の生まれだと推定している。しかし、この推定が誤りであることが判明した。三田評論に尾城を追悼する記事が掲載されており、1925年ほどの生まれだということが確認できた。  この記事が掲載されたのが1997年なので、尾城は1996年に71歳で亡くなっている。すると1925年ほどの生まれになるのだが、これは旧制高校を卒業したころに敗戦を迎えた世代である。見田宗介が言うところの、「一

          尾城太郎丸についての補注

          「資産運用立国」の課題 -- 講演報告『他では絶対聞けない「NISA講座」』

           この度、講演会『他では絶対聞けない「NISA講座」』に、登壇者の一人として招いていただきました。参加された方々に感謝を申し上げます。  メインの登壇者は、「NISA」を立案し実現させた本人である、金融庁の今井利友さんです。今井さんのプレゼンに対して、崎浜空音さんと私がそれぞれ応答プレゼンを行いました。講演会の情報は以下に示します。  この記事では、今井さんと崎浜さんのプレゼンについて概略をまとめたあとに、私のプレゼン内容を紹介します。お二方のプレゼンについて、概略のみの

          「資産運用立国」の課題 -- 講演報告『他では絶対聞けない「NISA講座」』

          尾城太郎丸「社会的責任」論文を読む

          ※ 以下の文章は、2024/09/25時点における私の見解である。将来的に、見解が修正ないし更新されることをご理解いただきたい。もし見解が修正ないし更新されるとしても、私自身の思考の軌跡として、この文章はそのままにしておこうと考えている。  中小企業研究という世界に、彗星の如く現れ、彗星の如く消えた異端者がいた。彼は、1974年に経済学で博士号を取得し、同年の秋にたった17ページの論文を書き上げると、それを最後に中小企業研究から去ってしまった。  尾城太郎丸 (1974)

          尾城太郎丸「社会的責任」論文を読む

          企業規模別の産業連関表で遊ぼう (01) -- 「産業連関表」ってなんだろう?

           データを楽しむための、気まぐれな連載企画です。  いつも私のnoteを見てくださる皆さんは、私のことを社会学と定性分析の人間だと理解されていることと思います。確かにその通りなのですが、私にはもうひとつ、中小企業論という専門があります。そちらでは、経済学や経営学に属するテーマを定量的に論じることも求められます。そこで、私の訓練も兼ねて、中小企業にかかわる定量データを分析していこうと思います。 1.  「産業連関表」とは?  この企画では、「産業連関表」というデータで遊びま

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          ASMRの現象学 -- 意識が着陸するとき

           ASMRが「眠る」ために用いられていることに注目したい。  どうしてわれわれは「眠れない」のか。どうしてわれわれはASMRを聞くと「眠れる」のか。本稿では、この表裏一体の問いに、現象学的な解答を与えることを目指す。 * * *  眠れないことの苦しさを知る人間は少なくないと思われる。これはダブルミーニングであって、「眠れないのに眠りたい」という状況と、「眠りたいのに眠れない」という状況の双方を表している。前者はたとえば大学の講堂やオフィスビルの会議室でよく見られる現象

          ASMRの現象学 -- 意識が着陸するとき

          ウェーバー『倫理』を素直に読む

           ウェーバーはさまざまに解説される。だからこそ、ここではウェーバーのテクストに内在することをとおして、ウェーバーは何を論証したのかを正確に把握したい。「正確に」というのは、書かれたことを書かれたとおりに読み取ることであって、書かれたこと以上を読み取ることではない。そのために、先入観を排除した読解を心掛けた。 * * *  論稿の初めに、ウェーバーは以下のような現象を指摘する。  ここから分かることは、プロテスタンティズムと資本主義文化(近代文化)の関連は、ウェーバー以前

          ウェーバー『倫理』を素直に読む

          山中篤太郎の価値観を継承する

           日本の中小企業研究史において、英雄と呼ばれるべき人物を一人あげるとしたら、山中篤太郎 (1901-81) になるだろう。山中の主著は、間違いなく1948年の『中小工業の本質と展開』である。戦前の中小企業研究はすべてここに流れ込み、戦後の中小企業研究はすべてここから流れ出す。  山中は、「国民経済構造論」と言うべき立場を確立した。中小企業はそれ自体として論じられるべきではなく、国民経済構造の矛盾が顕現したものとして論じられるべきだという立場である。すなわち、山中の言う中小企

          山中篤太郎の価値観を継承する

          社会学の理論紹介のために[2/2] -- 理論と実存の社会学

           前編では、プラサドの『質的研究のための理論入門』を批判した。それはよくできた理論紹介の著書だが、理論を道具的理性に従属させようとするアメリカの学生の前で、社会学の実存的価値を毀損するとともに、諸理論の水平的陳列による読みにくさを残してしまった。社会学の理論紹介において、社会学の実存的価値を捉えることと、諸理論を包摂する視点を導入することは、いかにして可能なのだろうか。 1.ターゲットとコンセプトの設定  ターゲットの選定が理論紹介の仕方を規定することは、プラサドの例で示し

          社会学の理論紹介のために[2/2] -- 理論と実存の社会学

          社会学の理論紹介のために[1/2] -- プラサド『質的研究のための理論入門』批判

           プシュカラ・プラサドの『質的研究のための理論入門』(原題 : "Crafting Qualitative Research")は、とてもよくできた著書である。さまざまな分野をカバーした社会学の教科書となると、一般的には複数人の著者によるキメラになることが多いのだが、プラサドは本著を独力で書き上げているため、理論紹介として優れた一貫性を有している。  しかし本著にも、以下に述べるような固有の限界がある。そこで、この論考では、プラサドの『質的研究のための理論入門』の全体構成を

          社会学の理論紹介のために[1/2] -- プラサド『質的研究のための理論入門』批判

          《備忘録》ニライ・カナイと渚と青と

           2024年8月4日、沖縄県南城市を巡って。  私が降り立った世界は、写真に収まることを拒否した。  写真では、水平線が空と海とを隔てている。しかし肉眼では、この水平線を捉えることができない。  灼熱の日差しを逃れて木陰に入ると、海から涼しい風が吹いていたことに気づく。陸地と海水の比熱の差によって、陸上では上昇気流が、海上では下降気流が発生し、海風が吹いている。海上の空気の屈折率を狂わせていたのは、この対流運動だったのだ。  屈折率の狂った空気は、海を空のほうへと映し

          《備忘録》ニライ・カナイと渚と青と