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初体験の進路選択(後編)

想像もつかなかった局面

 こう振り返ってみると、両親や学校は、さぞ毎年困っていただろうと思います。
 でも、本人たちは親や学校を困らせたいわけではなく、むしろ自分自身がいちばん困っている、という状態なのです。

 考えてもみてください。周囲の人々と同様、本人だって自分が不登校状態になるなんて、夢にも思わなかったのです。つまり、大多数の同期生と同じように、中学を卒業したら正規の高校に進学する。あるいは、高校を留年せずに3年間で卒業する。それ以外の道なんて、想像もしていなかったわけです。

 ところが自分の現状は、公立普通高校に進学するには内申が足りないとか、進級するには出席日数が足りないとか、そんな状況になってしまっている。そのため、生まれてこのかた想像したこともない選択肢を検討しなければならないのです。まさに“未踏の地”を歩く気分です。

 そこでこの時期以降、自分の進級進学について、意思確認や検討するよう勧告するため、担任の先生から連絡が来るようになります(すでに来ている場合も少なくないでしょう)
 多くの場合、それは「クラスメートと同じ進路をあきらめろ」という通告に等しいものです。

 これに対して、一部の不登校生は沈黙を続け、一部の不登校生は「クラスメートと同じ進路(高校生なら進級)」を、なおも希望し続けます。「あきらめろ」と言われて、そう簡単にあきらめられたら人生楽なもんです。
 逆に言えば、本人たちは人生を楽に生きたくないのかもしれません。
 本人たちにとって、これからの半年近くは針のムシロに座っているような日々が続くのです。

おとなは年間通じて

 ところで、このような心理は、おとなのひきこもり状態の場合にも、その
まま当てはまります。

 周囲の人々と同様、本人だって自分がひきこもり状態になるなんて、夢に
も思わなかったのです。つまり、大多数の同世代(小中高校時代の同期生、大学や専門学校などの同期生、就職経験があれば職場の同僚)と同じように、自分も高校や専門学校、大学などを卒業して、みんなと一緒に就職活動して、みんなと一緒に就職し、いずれは結婚する。それ以外の道なんて、想像もしていなかったわけです。

 ところが、自分の現状は、普通に就職できなかったとか、職歴に空白が生じているとか、そんな状況になってしまっている。そのため、生まれてこのかた想像したこともない選択肢を検討しなければならないのです。ひきこもり状態の人も“未踏の地”を歩く気分になっているという点においては、不登校状態の人と同じです。
 本人たちにとっては、これからの半年近くどころか、1年中針のムシロに座っているような日々が続いているのです。

 さて、次回は、不登校/ひきこもり状態にある人が、どのような心理状態のなかでどのように進路選択していくか、を考えます。

初出:メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第87号(2004年10月20日)

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※この文章の執筆から16年、中学卒業後や高校中退後の進路の多様化には目を見張るものがあります。しかしそれでも、前編で指摘した「沈黙を続ける」ケースを私は相談員としてたくさん経験しています。進路選択へのプレッシャーと苦悩は、それほどまでに大きいものであるわけです。

※初めて後編の冒頭に前編へのリンクを貼り、通しで読みやすくなりました。

※拙著『不登校・ひきこもりが終わるとき』に収録した約50本は一部を除き転載しませんので、ご関心をお持ちの方は同著を入手してご一読ください。

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※11月29日(日)、オンラインイベント「『親御さんの心が少し軽くなる』講演会」で講師と対談者をつとめます。不登校/ひきこもり状態の両方に通じる講演をしたうえで、ご参加の方と対話しながら主催者と対談します。ご関心の方は私が自ら書いた公式ブログ記事をご覧ください。


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